第二十二話:大地震が起きた
ある日、早朝にすごい地震が起きた。びっくりしたあたしは、孤児院のベッドから飛び起きた。食器などがだいぶ棚から落ちて割れてしまった。孤児院の建物の窓ガラスも割れて、壁にはひび割れができてしまっている。他にも建物のあちこちに歪みができたようだ。
ちなみに、ルーカス孤児院の隣のユリウスの家は、全然大丈夫。「どうだ、わしの大工の実力は」とフィリップ爺さんが威張っている。後で、「本当は崩れそうになったので、翼で支えていました」とユリウスにこっそり言われたけど。しかし、変な地震だったなあ。なんとなく薄気味の悪い地震だった。ナロードリア王国でこんな大地震なんて珍しい。いろいろと建物の修理に金がかかるなあ。しかし、今は例のホーグ山のクエスト大成功のため、お金はたくさんある。
みんなで、割れたお皿の掃除などをしていたら、ルーカスさんがやって来てた。
「あちこち建物の修繕費とか大変じゃないのか。だいぶ古い家だからなあ」
「いえ、ホーグ山のクエスト大成功で、大金をもらったから大丈夫です」とあたしが自慢気に答えると、
「え、お前、ホーグ山の宝を取ったのか」とルーカスさんが驚いている。
「そうです。グライダーを使って、『魔法の水』を宝箱から見事取ってくるのに成功しました。ものすごく困難でしたけど」と言ったら、「大変なことをしでかしてくれたな」とルーカスさんが頭をかかかえている。あたしがびっくりして、「なぜですか」と聞くと、「あの宝箱に入っているのは、『魔法の水』なんかじゃない。非常に危険なものなんだ。透明な容器に入っていただろうが、あれは大勢の生贄を凝縮したものなんだ。言わば『悪魔の水』だよ。あれを使って、太古に地球を支配していた魔物を復活させることができるんだ。大変なことになる。だから、絶対取れないように、わしの仲間の魔法使いが隠したんだ」とルーカスさんが椅子に座り込んで、深刻な顔をしている。
冒険者ギルドの主人は、そんなこと全然教えてくれなかったぞ。ルーカスさんから、「とにかく、すぐに取り返してこい!」と珍しく怖い顔で怒鳴られて、あたしは、あわててアオイノ村の冒険者ギルドに行くことにした。もう、急ぐためユリウスの背中に乗って、超特急で到着すると、なぜか警官が大勢集まっている。あの冒険者ギルドの主人は、実は例の女の子を生贄にするいかれたカルト団体のメンバーだったらしい。間一髪で取り逃がしてしまったようだ。
あたしは、警官に『悪魔の水』のことを教えて、「このままだと魔物が復活してしまう」と言ったが、バカバカしいと誰も相手にしてくれない。仕方がなく、いったん孤児院に戻って、ルーカスさんに相談すると、もしかしたら、今朝の地震はその前兆かもしれないらしいのだ。魔物復活を目的にしている団体があって、その連中は大がかりな祭壇を作って、少女の内臓を生贄にするそうだ。
「あれ、もしかして、そいつらの印章は、薄気味悪いモンスターの絵で、顔には妙に太いヒゲみたいなものを生やし、鉤爪を持った手足が何本もあって背中には翼があるモンスターですか」と聞くと、「そうだ、それが連中の紋章だ」とルーカスさんが、厳しい顔をしている。例の変態カルト団体のことだな。これは本当にまずいことになった。あたしは、例のマルセルのことも教えておいたほうがいいと思い、ルーカスさんにマルセル孤児院の事件も話した。
「マルセルだと。あいつは大金持ちの医者だったんだが、頭がおかしくなって、五十年前にそいつが中心となって、いかれた団体を作ったんだ。『悪魔の水』を使って、特殊な祭壇を作り、魔物を復活させようとした。あれが復活したら世界が滅んでしまう。わしも含めた冒険者パーティが立ち向かって、その団体を倒したんだが、マルセル本人は取り逃がしてしまった。われわれは、『悪魔の水』をホーグ山に置いたんだ。たしか、マルセルの奴は、もう二十年くらい前に死んだと聞いていたんだが、まだ生きてたのか」
ルーカスさんの話からすると、マルセルたちとの戦いとは、あたしが知っているマルセルの祖父のことだなとあたしは気づいた。
「いえ、孫で同名のマルセルがいました。その人も、孤児院の子供を殺したりしていました。けど、結局、孫は孤児院と一緒に焼け死にましたけど」
「そうか。多分、子供を殺して生贄に捧げたんだろうが、うまくいかなかったんだろう。しかし、あの『悪魔の水』があればすぐに魔物が復活できる」
「なんで、いかにも宝があるような、あんな目立つ場所に置いたんですか」
「カルト団体の残党の連中をおびき寄せるためだ。わざとそれとなく情報を流して、何人も捕まえたよ。その後、三十年間くらい仲間たちで交代で監視していた。二十年前を境に全く来なくなったので、もう、あの団体も無くなったのかと思ったんだ。ちょうどその頃、マルセルも死んだという情報が流れてきたのでな。そこで、わしの仲間が完全に人が入れないようにしたんだ。その後、時が経ってわしの仲間たちも全員亡くなってしまった。ただ、最近になって一般の冒険者がどこからか噂を聞いたのか、数年がかりでホーグ山に小さい横穴を開けたと情報が入ったんで、不安になったんだが、誰もあの『悪魔の水』を取ることが出来ないようなので安心してたんだよ」
もしかしたら、あのアオイノ村の冒険者ギルドの主人が、わざとその情報を冒険者たちに流したんではないか。そして、誰かが、取ってくるようにしたんじゃないのだろうか。あたしは、カルト団体のお先棒を担いでしまったのか。自分が世界を滅ぼすかもしれない魔物を復活させることに、知らなかったとは言え、協力してしまったことに、あたしはすっかり落ち込んでしまった。
「大変なことをしてしまいました。申し訳ありません」とルーカスさんに謝ると、
「落ち込んでいる場合じゃないぞ。魔物の復活を止めないといかん」とルーカスさんに叱咤される。
それにしても、アオイノ村周辺で、なぜ奴隷市や誘拐事件が多発していたのかがわかった。村の冒険者ギルドの主人がカルトメンバーだったからだ。背後で操っていたに違いない。もしかしたら、以前、キイロノ村でマフィアのチンピラに襲われたことがあるが、あれも、アオイノ村のギルドの主人が教えたんじゃないだろうか。別世界からの魔物が復活したら大変だ。とにかく、その連中の居場所を探さなくてはいけない。
一旦、警察に行って、「このカルト団体のアジトはどこなんですか」と聞いたら、わからないようだ。それに、魔物の復活とかは信じていないようなんで、危険な団体との認識はあるんだけどのんびりとしている。これはまずいぞ。
孤児院に戻ってみんなに相談したら、ユリアーナが、「火事で死んだマルセルがこの団体のメンバーだったなら、その特殊な祭壇に何度か行ってるんじゃないの?」と推理したので、そうかもしれないと、あたしたちは御者さんの馬車会社へ行ってみた。すると、マルセルがよく使っていた御者さんは、現在、行方不明なんだそうだ。御者の人もカルト団体のメンバーだったのだろうか。そこで、マルセルがどこに行っていたのか記録を見せてもらうと、アオイノ森近くのアカイ山の洞窟になぜかよくいっていたようだ。
ルーカスさんに、その連中の居場所に心当たりはありませんかと聞くと、「昔、アカイ山にそのカルト団体のアジトがあるという噂を聞いたことあるぞ」と馬車会社の記録と一致した。よし、あたしたちのパーティでそのカルト団体を成敗だ。あたしとアレックス、クリス、ユリアーナ、スザンナ、ユリウス、それと、ルーカスさんも、老骨鞭打って、今回は参加すると言ってきた。




