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第二十一話:グライダー泥棒

 最近、休日にアレックスとクリスがどこかへ遊びに行っている。また、グライダーでも作っているのかと思っていたのだが、ある日、孤児院にやって来た。二人が言うには、結局、グライダーを自分たちで作るのはあきらめて、トムさんの店で買うことにしたようだ。そこで、ユリウスのゴンドラで、あたしと一緒にアタラ街のトムさんのグライダー店に向かう。上空から見ていると、丸まった棒のようなものを運んでいる馬車を見つけた。お布団だろうか。やたら、速く走っているけど。


 トムさんの店に到着すると、店番のカロリーンが騒いでいる。

「倉庫に置いてあったグライダーが足りないの!」

 どうやら、丸めてあったグライダー四本を盗まれたらしい。あれ、さっき空の上から見た馬車が怪しいな。再び、ゴンドラに乗って、上空から探して見ると、カクムール王国に向かっているのを見つけた。ちょうど大きい川の橋の上を走っている。目の前に降りて、馬車を停める。よく見ると、乗っているのは、例のろくでなし外国人冒険者四人組ではないか。


「お前はブサイク少女冒険者!」と言われた。「ふざけんな! いいかげん、ブサイクって言うな! あと、それはトムさんの店のグライダーだろ、お前たちが盗んだんだな!」とあたしが叫ぶ。


 ろくでなし外国人が馬車から降りる。全員、剣を抜いた。

「殺されたくなかったら、さっさとどっか行け」

 しかし、ユリウスが羽ばたいて、あっさり全員を橋の欄干にぶつける。楽勝ね。馬車も倒れて、グライダーがゴロゴロと橋の上で転がった。ぶっ倒れたところを、ろくでなし外国人全員の剣を拾って下の川に捨ててやった。


 さて、警察に突き出すかと思ったら、ろくでなし外国人四人組がいきなり地面に這いつくばって、謝りはじめた。

「申し訳ありません。仕事が無くてお金に困って、つい盗んでしまいました。警察に知らせるのは勘弁して下さい。冒険者ギルドから登録抹消されてしまいます。そしたら飢え死にです」と涙ながらに、謝っている。


「冒険者登録抹消か、それは、ちょっとかわいそうかなあ、みんなどうしよう」と、アレックスとクリスに相談を持ちかけると、連中が丸めたグライダーを掴んで、その先っぽをあたしの顔面にぶつけてきた。あたしは、その衝撃で欄干を越えて、橋の下の川に落ちてしまった。逃げ出すろくでなし四人組。しかし、怒ったユリウスに、これまたあっさりと羽ばたき攻撃をやられて、遠くに吹っ飛ばされて、地面に激突。今度は気絶してしまった。


 びしょ濡れになって川から上がってくるあたしに向かって、クリスが言った。

「エイミー、甘いなあ。世の中にはとことん屑な人間はいるもんだぞ」

「だって、土下座してきたんだもん。冒険者登録抹消ってつらくない?」

「泥棒なんだからしょうがないだろ、あんな奴らは冒険者を名乗る資格がない」とクリスが怒っている。


「エイミーは人が良すぎるよ」とアレックスにも言われてしまった。

 警察にろくでなし外国人を引き渡すことにした。まあ、仕方がない。その後、トムさんの店に行って、グライダー四本を戻す。アレックスとクリスは、貯金をはたいて大型のグライダーを注文したようだ。


 クリスが、前回のように耐寒帽子付きの防風眼鏡について、カロリーンに聞いている。

「この前言った、例の防風眼鏡はないのかよ」

「あ、まだ、発注してないんだ。忙しくて、忘れてた。ごめんなさい」

「早くしくれよ」とクリスがちょっとイライラしている。カロリーンって、頭がいいのに、変なとこでドジっ子だからなあ。


 数週間後、孤児院の広場に大きいグライダーを業者が持ってきた。アレックスとクリスが注文したやつだ。でかい。翼がすごく細長い。胴体より長いぞ。驚いたことに、操縦席に二名乗ることが出来る。縦に二人乗る形だ。両方の座席で操縦できるみたい。馬で引っ張って、スピードを上げて離陸するようだ。


「けど、あんたら馬なんて持ってないじゃん」とあたしが疑問を向けると、

「そういうわけで、エイミーからユリウスに、このグライダーを引っ張ってもらうよう頼んでもらいたいんだが」とアレックスが揉み手で頼んできた。仕方がないなあ。ユリウスにお願いして、引っ張ってもらうことにした。今日は風が強い。向かい風の中、ユリウスがグライダーの先頭に立ってロープで引っ張る。グライダーはあっという間に上昇していった。ある程度の高さで、ユリウスが引っ張っていたロープのフックがはずれる。アレックスとクリスのグライダーは遥か遠くへ飛んでいく。スゲー、と感心していたらユリウスが戻ってきて、「ちょっと重たかったです」と言われてしまった。しかし、遥か遠くまで飛んで行って、いつまで経っても帰ってこない。大丈夫かなと、トムさんに相談しに行ったら、「あのタイプはうまく上昇気流に乗れば、二、三時間は飛行できるよ」と言われて安心した。


 三時間後、アレックスとクリスが戻ってきた。どうやら密かにトムさんに頼んで、カクムール王国に行って、操縦の練習してたみたいだな。最近、姿が見えない時があったがそういうことか。広場に着陸して、すっかりご満足の様子。あたしも乗らせてもらおうかなあ。


「ところで、このグライダーは普段どこに置くの」って、あたしが聞いたら、「この広場に置かしてもらうよ」って二人が答えた。ここは、児童の運動場なんだけどなあ。確かにだだっ広いけど、四分の一は占拠しちゃうじゃないか。そこに、ソフィー「事務長」がやって来て、アレックスたちに、「こんな巨大なもの置くな!」と怒っている。しかし、クリスが言うにはカロリーンの了承は得ているそうだ。


 仕方がないので、ユリウスにアタラ街のトムさんの店に飛んで行ってもらって、カロリーンに聞いてもらうことにした。しばらく待っていると戻ってきて、なんだかユリウスが困ったような感じで、「カロリーンさんが言うには、広場に置いてかまわないと、言ったかもしれないし、言ってないかもしれないし、両方言ったかもしれない。忘れちゃったんで、その三つの中から適当に報告しといてとのことです」と言った。


 それを聞いたソフィーがまた、突然、泣き始める。「カロリーンはいいかげんすぎる」とわめいている。なんとかなだめたが、とりあえず、アレックスとクリスたちからはグライダーを広場に置いておく間、利用料金を取ることにした。しかし、貯金を全部はたいてしまったらしく、お金がまったくないので出世払いになってしまった。やれやれ。


 それはともかく、あたしもこの大型グライダーに乗りたくなった。二人にお願いして、クリスと一緒に乗ることになった。ユリウスに、また引っ張ってもらう。前にクリス、後ろにあたしが乗る。ユリウスが猛スピードで引っ張ると、一気に上昇する。フックを切り離して、あっという間に上昇、みるみるうちに孤児院が小さくなった。


 今日は晴れていて、遠くまで景色が見える。なかなか気分が良いけど、なんとなく、このグライダーはユリウスの背中に乗っているのと一緒で、乗らしてもらっているって感じかな。あたしとしては、トムさん型グライダーの方が好みだな。そっちの方がより鳥になったような感じがする。このグライダーには、あたしの席にも操縦桿があるので、クリスの指示で操作してみる。そんなに難しくないなあと、ちょっと上昇してみる。おお、ついに雲の上まで来たぞ。雲の絨毯だ。前に、ユリウスに乗って見たことがある。


 きれいだなあと思っていたら、急に暗くなった。何事かと思って、上をみたら、バカでかい動物が飛んでいる。この巨大なモンスターはドラゴンじゃないか。ひえー、これは敵わん。操縦をクリスに代わってもらう。二人で、どうしようか、逃げようかと相談するが、このグライダーは速いけど、ドラゴンには簡単に追いつかれてしまうだろう。二人でビビっていると、ドラゴンがあたしたちのグライダーと平行に飛びはじめた。こちらをちょっと興味ぶかそうに見ている感じがするが、攻撃してくることはない。これは、とりあえず刺激しなければ大丈夫じゃないかとクリスに言って、普通に飛んでもらう。


 それにしても、このグライダーの三十倍もある大きさのドラゴンだ。ドラゴンなんて、本物は初めて見るぞ。全体が黄金色の鱗で光って、神々しい感じのドラゴンだ。横顔がカッコいい。前の孤児院で、夜中に毛布ドラゴンを何匹も倒したけど、実際に本物を見ると、これを倒すのは不可能じゃないかとドラゴンさんに謝りたくなった。しばらくしたら、そのドラゴンはまたすっと上昇していって、遥か上空へ消えていった。「いやあ、珍しい体験をしたなあ、これは、みんなに自慢できるぞ」とクリスと喜んだ。その後、孤児院の広場に着陸。今度は、スザンナが乗せろと言ってきたけど、もう夕方だし、ユリウスに悪いから、また今度の機会にとクリスが断った。また、ケンカになるかとひやひやしたが、そんなことはなくてホッとした。まあ、お互い、いつも殴り合いしていても、アホらしいと思うようになったのかな。


 そんなところにルーカスさんがやってきて、「どえらいもんが出来たなあ、これで三時間も空を飛べるのか」とグライダーを見ながら感心している。「さっき、このグライダーに乗って空を飛んでたら、ドラゴンを見ましたよ」と報告すると、びっくりしている。「ドラゴンに何かされたか」と聞かれたんで、「ただ、平行に飛んだだけです」と答えた。ルーカスさんは「そうか」と言ったきり、ちょっと難しい顔をして孤児院に戻って行った。どうしたんだろう。

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