第二十話:アレックスとクリスのグライダー再挑戦
この前、トムさんが行ったグライダー飛行やグライダー競争大会がナロードリア王国の中でけっこう話題になったらしい。トムさんのところに、グライダー体験の申し込みやら、新聞社の取材が殺到した。
そこで、トムさんは本格的にアタラ街に店を開くことにし、年長組のカロリーンが雇われて、店番をすることになった。扱うのは基本的にトムさんが乗っているような、折りたたみのできるグライダーだけど、希望があればカクムール王国に発注して、大型のも買える。カロリーンは頭が良くて、特に算数が得意だったから、商売とか金勘定も得意かもしれない。けど、大丈夫かなあ、ちょっといいかげんで、おっちょこちょいの子だけど。
孤児院ではトムさんがグライダー講習会を開いた。教室で簡単な講習を受けて、平地の広場で基本操作の実施訓練、その後、すぐ近くの坂道で初心者の訓練をし、うまくなったら本格的に山の上のほうから飛ぶことにしたようだ。
この前のホーグ山のクエスト成功でお金が余っているので、トムさんの店に行って、グライダーを一機買った。トムさんが使っているのと同じ、折りたたみが出来るグライダーだ。スザンナが大喜びしている。彼女はすっかりグライダーで飛ぶことが気に入ったらしい。店はかなり繁盛しているようだ。
クリスが店番のカロリーンに聞いている。
「耐寒帽子付きの防風眼鏡はないのかよ」
「あっと、まだ取り扱ってないんだ。今度、カクムール王国から取り寄せるから、待っててね」
「早くしくれよ」とクリスが急かしている。どうやら、あたしが首にぶら下げているこの耐寒帽子付きの防風眼鏡と同じものが欲しくて仕方がないようだ。
さて、アレックスとクリスの自作グライダーだけど、ようやく坂道でも、それなりに飛ぶようになった。と言うわけで、山の崖の上から挑戦ということになった。アレックスもクリスも張り切っている。操縦席にはクリスが乗る。あたしとユリアーナが見てる中、ユリウスが羽ばたいてやって来た。「俺たちもユリウスのように飛ぶぞ!」とクリスが張り切っている。実は、ユリウスが見物に来たのは、もし墜落しそうになったときはクリスを助けてくれるよう、あたしからこっそりと頼んでおいたからなんだけど。
さて、翼の端っこをあたしとアレックスが掴んで走って、崖から離陸。おお、きれいに飛んでいる。これは成功だ。と思ったら、すぐに動きがおかしくなった。急降下をはじめた。遠くから見ても、クリスが操縦席で焦っているのが見える。ついには、翼が折れて空中分解。クリスが転落していく。見ていたユリアーナが悲鳴をあげた。クリスが落ちていくのを、危うくユリウスが助けたが、グライダーはそのまま地上に激突して大破した。
アレックスとクリスはすっかりしょげている。クリスは、「また作る!」と言い張っているが、アレックスは、「もう自分たちで作るのはやめて、グライダーはトムさんの店で買うよ」と意気消沈している。しょんぼりと孤児院に帰ると、広場にこの前買ったグライダーで颯爽とスザンナが着陸した。どうやら、クリスが乗ったグライダーが空中分解したのを見ていたらしい。「お前らはニワトリどころかアホウドリだな」なんて言うもんだから、激怒したクリスとスザンナがついに殴り合いなった。あたしとアレックスが止めに入るが、それをすり抜けて、なおケンカが続く。ついにはユリウスまで入って、なんとか二人を引き離した。
さて、困ったな。一応、あたしはパーティのリーダーなんだから、メンバーであるスザンナとクリスを仲直りさせなければいけない。スザンナがフィリップ爺さんと森へ材木を取りに行ってしまったので、とりあえず、山を少し下ってアレックスとクリスがいる川岸の小屋に行ってみた。クリスは二段ベッドの上段で、機嫌悪そうに寝ている。ふて腐れている感じ。黒猫のニャーゴも怖がっているのか、クリスに近づかない。あたしはベッドの梯子を登り、顔をのぞかせて、「仲間なんだからスザンナと仲直りしてよ」と言ったけど、「二度とあの女の顔は見たくない」と、かなりお怒りのご様子。アレックスがなだめても、全然ダメ。やれやれと仕方がなく、また山を登り孤児院に戻ると、スザンナが森から帰ってきて自分のベッドに寝転がっているので、そこに行って、「あんたが、最初にバカにしたんだから、まずクリスに謝ってくれないか」と頼んだら、「あのクリスって奴が、あたいのことを丸太のように太っている女だって言いやがったんだ、失礼な奴だ」と怒っている。それはひどいなあ。そんな事があったのか。
うーん、これは、クリスが悪いんじゃないかと思ったあたしは、また山を下って、クリスのとこへ行って、「スザンナが言うには最初に悪口を言ったのはクリスってことみたいなんだけど。あんたから謝ってくれない」とお願いしたら、「そんなことは言ってねーよ。女なのに太い丸太を斧で切っているのですごいとスザンナに声をかけたことはある。バカにしていないよ、褒めたんだよ」と言った。そうなんだ、これはどうやら二人に行き違いがあったようだな。
あたしはクリスに、「誤解を解くため、ルーカス孤児院に来てよ」と頼んだんだけど、「あの女がこっちに来ればいい」とベッドの上で、あたしに背を向けてつれない返事。仕方がなく、また山を登ってスザンナのとこへ行って事情を話し、「一緒にクリスのとこへ行ってくれないか」とまた頼んだのだが、「あいつがこっちに来ればいい」と、これまたつれない返事。頑固な二人だなあ。
クリスの小屋と孤児院を上ったり下ったりと二往復したうえに、事態は全然進んでいないので、「もう疲れたあ!」と自分のベッドで横になってへばっていると、ユリアーナが、「エイミー、どうしたの」と聞いて来た。事情を話すと、「私がクリスを連れてくる」と言って、出て行った。しばらく待つと、しぶしぶといった表情でクリスが孤児院にやって来た。とにかく、誤解だったので、仲良くしようよと両者をなんとかなだめる。目を合わせない二人の両手を掴んで、無理矢理握手させる。
仲間は大切にしなくてはいかんけど、ああ、リーダーというものは疲れるなあと、あたしは思った。




