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第十九話:ホーグ山の宝

 グライダー競争大会で多少儲かったが、そう毎日開催するわけにはいかないし、ルーカス孤児院もまだまだお金が必要だ。ちまちまとスライム退治をしていてもジリ貧になるだけだ。このままでは、孤児院経営が赤字転落しかねないと、またもやソフィーが騒いでいる。「エイミー、何とかして!」とあたしにやたら文句を言ってくるんだよなあ、ソフィーときたら。会計以外でもなんでもかんでも口を出してくるんだ。


 と言うわけで、ソフィーに、「あんたを孤児院の事務長に任命する」と言ってやった。「事務長は責任重大だぞ。何かあったら、あたしとあんたが責任を取るんだ」と脅かす。これで、少しは静かになるかと思ったんだ。けど、すっかり本人はその気になって、自らソフィー「事務長」と名乗り始め、空き室の扉に手書きの紙で、「事務長室」と貼って居座り、ますますうるさくなった。やれやれ。


 しかし、ソフィー「事務長」にうるさく言われても、冒険者ギルドではスライム退治しか依頼されないし、そもそも、スライム退治も完全に飽きてきたぞ。ユリアーナやスザンナのような強力なメンバーもいるっていうのに。「もっと報酬の高い仕事をやらせてください」とアオイノ村の冒険者ギルドに行き、再びねじこんでみた。ギルドの外でユリアーナの火炎魔法とか重力魔法を披露するが、いまいちギルドの主人の反応が鈍い。「お前らは、まだ子供だろ」と相変わらず、つれない返事で小馬鹿にしたような態度をとりやがる。


 この前の巨大蜘蛛が出てきたダンジョン探索みたいな仕事はないかと聞いたが、やっぱり、「お前らガキには無い」と冷たく言われた。がっくりする。仕方がないので、参考にでもなるかと、一番高額な依頼は何だと聞いたら、「ホーグ山の宝だな」と言われた。


 しかし、冒険者ギルドの主人は、またバカにしたような態度を取る。「不可能だけどな。今まで、挑戦した冒険者たちはみんな失敗したよ。お前ら、子供には絶対無理だ」とせせら笑ってやがる。とは言え、他の冒険者がみんな失敗したとは、そんなに難しいのか。どんなクエストなんだと内容を聞いてみた。


 ナロードリア王国でも、かなり高い山のひとつ、ホーグ山。まず頂上付近までいくと、横穴がある。そこまで登るのが第一目標。ただ、かなり高くてもユリウスのゴンドラを使えば、簡単に行けそうだけど、問題はそこからだ。その横穴は小さくて、ユリウスが入れないどころか、スザンナでも無理みたいに小さいようだ。入れるのは、小柄なあたしとクリス、それに体が細いユリアーナくらいかな。横穴は真っすぐで、そこを這いつくばって入って、少し中に進むと、出口に平らなスペースの出っ張りがあって、その後は、断崖絶壁。全く、手をかける場所がないほど、まっすぐな垂直の崖になっているそうだ。


 その山の中は、全体的に円筒状の巨大な空間があり、天井にはでっかいランプが等間隔で中を照らしている。ランプは天井にめり込んでいるようだ。仮に、その出口のスペースからロープで降りたとしても、真下には酸性かなんかの毒に満ちた巨大な赤い色をした池がある。そこに落ちたら死んでしまう。小さい船を下ろそうとした冒険者もいたのだが、池にその船をロープで降ろしたら、あっという間に溶けてしまったそうだ。かなり頑丈な物質の船でもダメだったらしい。おまけに、その池には、毒に耐性がある蛸のようなモンスターが住んでいるようなんだ。


 その池のちょうど真ん中に丸い円筒状の高い塔があり、その一番上にはかなり広い、四角い台があって、横穴から斜めに見下ろす辺りにある。そこに到達するのが、第二目標。そして、その台の中央に宝箱が置いてあって、それには、『魔法の水』が中に入っている球形の透明な容器があるようだ。


 モンスターが襲いかかってくるかもしれない中、台の上の宝箱を開けて、中に入っている容器を取り出すのが第三目標。そして、それを無事に冒険者ギルドに持ち帰ってくれば任務完了。但し、『魔法の水』というより、軟らかいスライムみたいなグニャグニャした赤い物質らしいんだ。その物質は軟らかいし容器も固くないので、取扱いに注意すること。これが、このクエストの目的だそうだ。それにしても、誰も成功していないのに、何でこの冒険者ギルドの主人が宝箱の中身を知っているのか不思議だったけど、この際どうでもいいや。


 この場所は、なぜか結界が張ってあって、魔法は一切使えない。何人かの魔法使いが挑戦したが、全く結界を解くことは出来なかったようだ。つまり、一切魔法無しの普通の人間の体力勝負なのだ。木の板をつなぎ合わせて、中央の塔に伸ばそうとした冒険者もいたそうだが、遠すぎて不可能。気球を試した冒険者もいるらしいが、火が点火しないようなのだ。どうやら、この結界は火を使えさせないようにもなっているらしい。ランプが天井にめり込んでいるのも、そのせいじゃないかとギルドの主人は推測しているようだ。しょうがないので、気球の袋を両手でつかんで飛び降りたけど、真っ逆さまに赤い池に落ちて、あっという間に溶けちゃった冒険者もいたらしい。ひい、恐ろしい。


 他にも、大きい弓矢で台に向かって、銛を撃ってロープを張ろうとした冒険者もいたらしいが、台が遠すぎて何度も失敗したあげく、やっと当たったと思ったら、ものすごく硬くて刺さらなかったようだ。天井に撃って、ロープを吊ろうと試みたが、やはり同様に刺さることは不可能だったみたい。どうも、この施設全体を誰かが人工的に造ったようなのだ。

 

「どうだい、お前らには全く無理だろう、これは不可能なクエストなんだよ。誰も達成出来なかったもんな。お前らはガキなんだから、もっとダメだろうな、あきらめろ」と冒険者ギルドの主人が、さらに馬鹿にした顔で言いやがった。ホント、この主人は嫌な感じがする。顔は怖いが、実はやさしいレオンさんとは大違いだな。


 とは言うものの、あたしはひらめいた。グライダー、それもトムさんの折りたためるグライダーを使えば小さい穴に入れる。それを使って中に入り、真ん中の台に着陸すればいい。グライダーには細いが頑丈な紐をつけて、飛行の邪魔にならないようにする。宝箱に入っている、『魔法の水』かなんか知らないが、透明の容器をいただいた後は、その紐で太いロープを手元まで引っ張って、後は他のメンバーにグライダーと一緒に引き揚げてもらう。これは可能なんじゃないのか。「グライダーってものがあるんですよ。それがあれば、中央の台まで行って宝箱を開けて、透明な容器を持って帰ることが出来るかもしれない」とあたしがこの考えを披露すると、冒険者ギルドの主人が急に態度を変えて、「ぜひ頼む!」と依頼された。


 さっそく、孤児院に戻ってトムさんに、「折りたたみの出来るグライダーを貸してくれませんか」とお願いすると、「カクムール王国の村の丘で、ワイバーンから助けてくれたから、かまわないよ」と快く貸してくれた。ところで、山の内部を飛ぶから無風状態なんだけど、グライダーは飛べるかと聞いてみた。トムさんが言うには、このグライダーは上昇気流があれば、一時間くらいは楽に飛ぶことが出来るようだ。しかし、無風状態の場合、下降するだけですぐに着陸してしまうらしい。


 そこで、冒険者ギルドで教えてもらった横穴から、斜め下にある中央の四角い台までの距離を示して、トムさんに検討してもらったら、「まっすぐ飛べば、大丈夫だろう」と言ってくれた。むしろ強風が吹くと操縦が難しいうえ、離陸する時、急に追い風なんて吹くとあっという間に墜落する場合があるそうなんで、今回の場合は無風の方が成功しやすいようだ。


 あたしたちは、近くの崖をホーグ山に見立てて猛特訓することになった。なるべく風が吹いていないときに練習し、小柄なあたしとクリスが二人でグライダーに乗ることにした。トムさんが指導してくれる。グライダーは行きたい方向に体重移動するだけで傾きがつき、方向を決めることができる。


 さて、訓練もだいぶやって、かなりうまく操縦できるようになったし、本番は、目標にむかって真っすぐ飛べばいいだけなんで、意外とうまく出来るのではないかとあたしは思った。


 いざ、冒険に出発。あたしとユリアーナ、スザンナ、アレックス、クリスの五人で、ゴンドラに乗り込む。ユリウスのゴンドラに乗ってホーグ山に向かった。けっこう厚着をしてきたのだが、「寒い、寒い」とみんな凍えている。


 山の頂上付近まで飛ぶと、小さい横穴を発見。確かに、この穴はあたしやクリスみたいな小柄な人しか入れないな。近くまで行って、クリスと二人で降りる。とりあえず、第一目標達成。グライダーを持ち運んで、横穴に入る。這いつくばって、中を進む。あたしは、今回はナイフの他に、剣もアレックスから借りた。クリスも弓矢を背負っている。モンスター対策だ。


 やっと横穴を出て、中に入ってみると、平らなスペースがあったが、そこからは、想像以上に深い断崖絶壁だ。広い空間の天井には冒険者ギルドで聞いたとおりに、大量にランプが付いていて、わりと中は明るい。あのランプはいつまで経っても消えないそうだ。だれが作ったのかわからないらしい。


 ユリアーナもゴンドラから降りてきて、横穴をもぐって、出口に到達。紐がグライダーの飛行を邪魔しないよう、順調に伸ばしていく役を担う。ユリアーナから、「エイミー、クリス、がんばってね」とそれぞれ小さい袋を渡された。お守りだそうだ。


 このお守りは、魔法がかかっているのかと聞いたら、そんな効果は無くて、単に幸運の印の四つ葉のクローバーが中に入っているだけだそうだ。ただ、あたしたち二人の無事を祈って、昨夜は寝ずに神様に祈っていたみたい。「ありがとう!」とあたしはユリアーナに抱きついた。


 さて、操縦を誤って毒の池に落っこちたら、あっという間に溶けて死んでしまうので、さすがに緊張する。クリスも同様のようだ。なんせ、一発勝負だからね。寒いのに、あたしもクリスも額に汗をかいている。心の準備をした後、グライダーを広げて、クリスとがっちり握手をする。「よし、行くぞ!」とクリスと一緒に乗って、平らなスペースから飛んだ。


 スイーっとうまく飛んで、円筒状の中をゆっくりとグライダーで下降する。下を見ると、禍々しい赤い色をした毒の池が見える。そこに、あたしたちが操縦しているグライダーの影が天井のいくつものランプに照らされて映っている。ドキドキしながら飛んで行く。おっと、右に方向がずれていきそうになる。このままだと、台に到達できずに池に落ちて死んでしまう。


 何とか、恐怖心をおさえて、クリスと協力しながら少し軌道修正して飛んでいく。塔の上の台が近づいてくる。うまく操縦しつつ、中央に立っている塔に向かう。台が近づいてきた。高度が足りない。やばい!


 しかし、ぎりぎり台の端っこに着陸成功。「助かった!」と思いきや、そのままグライダーと一緒に台の上を滑っていく。やばいぞ、このままだと勢いよく台の反対側まで滑って行って、下の池に落っこちてしまう。手で押さえようにも全く平らな台で、平面がつるつると滑って、引っ掛けるところが何もない。スーッと滑っていく。クリスもあわてている。


 危うく、台から落ちる寸前で止まった。グライダーの翼が上下に揺れている。もし、突風でも吹いたら、そのまま落下して、あの世だったなあ。あたしとクリスは体が固まってしまい、しばらく動けなかった。ふう、なんとか第二目標達成。


 ようやく起き上がると、台の中央に宝箱がある。さっそく、クリスが開けようとしたがけっこう難しそうだ。難儀していると、変な物音がする。気味の悪い触手が現れた。蛸みたいなモンスターが塔を上ってきて、クリスを襲って来た。あたしは剣で触手を切断したが、何本もあるのか次々に襲って来る。あたしが、囮になって、四角い台の上を走り回って、クリスが攻撃されないようにがんばる。しかし、しつこく襲って来る。困っていると、蛸のようなモンスターの胴体が見えた。クリスが、一旦、宝箱を開けるのをやめて、弓矢で矢を放った。見事、そのモンスターの胴体に命中した。蛸のようなモンスターは池に落っこちて、沈んでいった。


 宝箱の方は、クリスがやっと開けると、なかには宝なのか知らんけど、透明な容器が入っていて、中にはゼリーみたいな軟らかそうな赤い物質が入っていた。第三目標達成。二人で、「やった、『魔法の水』の宝を手に入れた!」と抱き合い、おお喜び。台の上で二人で踊って調子に乗って、危うくまた下に落っこちそうになった。


 さて、落ち着いたところで、宝は布袋に入れて、紐を引っ張りロープを取り寄せ、グライダーはたたんでロープでくくりつける。あたしとクリスはグライダーにしがみつき、一緒に、アレックスとスザンナ、ユリウスに引き上げてもらう。台の上から離れるとき、重みで毒の池の水面近くまで下がってしまった。池に落ちる寸前だったので、クリスと震えながら、お互いグライダーに思いっきりしがみつく。なんとかグライダーと一緒に、横穴まで引っ張り上げてもらい、ゴンドラに乗り込む。


「よし、クエスト大成功だ!」とクリスと再び二人で抱き合って喜ぶ。アレックスもユリアーナもスザンナも大喜びだ。みんなで、ゴンドラの中で踊り踊る。「みなさん、危ないですよ」とユリウスに怒られちゃった。アオイノ村に戻り、冒険者ギルドに行って、その容器を渡したら、主人が跳びあがって喜んでいる。今まで見たことのない莫大な報酬を受け取った。

 

 やったぞ! これで当分孤児院の経営が楽になるぞ!

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