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第十八話:グライダー競争大会

 ユリアーナのケガはルーカスさんの回復魔法で治ったが、念のため、少し休ませることにした。しかし、ユリアーナという強力なメンバーがいないと冒険に行くのも、多少躊躇するし、だいたいスライム退治だけじゃあ、おもろーないぞ。


 今後のことを考えて、「うーん、どうしよう」とあたしが悩んでいると、スザンナがやって来た。あたしのことをいきなり、「エイミー院長」と呼んだ。いつの間に、あたしは院長になったんじゃ。確かに、何でもかんでもあたしが決めていたような気がするが。


 スザンナが言うには、「カロリーンとソフィーがケンカしてるんだけど」と言ってきた。今、孤児院経営のことで悩んでいるので、「二人のケンカなんてたいしたことないし、いつものことだから、放っとけば」といいかげんな返事をすると、「この孤児院の事実上の経営者なんだから、あんたが何とかしろ」と言われた。これまた、いつの間に、あたしは経営者になったんじゃ。まだ十三歳だぞ。


 仕方がない。二階の会計室に行ってみると、ソフィーが泣きながら、カロリーンとケンカしている。と言うか、一方的にソフィーが責めてるって感じ。カロリーンはヘラヘラしている。どうやら、カロリーンがテキトーにやっているので、孤児院のお金が足りなくなりそうみたいだ。どれくらい足りないのかさえ、わからなくなったみたい。


 で、ソフィーが泣いているわけだけど、カロリーンは、「いざとなったら借金すればいいんじゃない」って能天気な態度を取っている。だけど、真面目でお堅いソフィーは、「心配で、お腹が痛い、頭が痛い。エイミー、何とかして!」とヒステリーを起こし、号泣している。ソフィーに泣かれると、正直うるさいし、あたしたちも困るぞ。うーん、さすがにスライム退治だけでは、経営資金が足りなくなってきたようだ。困ったなあ。冒険者ギルドも、高額な依頼はあたしたちには回してくれないんだよなあ。子供扱いで、相変わらずのスライム退治の連続だ。


 何か良い方法はないかと、みんなを集めて経営についての会議を開く。すると、スザンナが、「この前、キイロノ村の宿屋で寝ていたら、いい考えを思いついたんだ。グライダー競争大会ってのはどうよ」とアイデアを出してきた。ルーカス孤児院主催で、観客を集めてお金を取って、山の上から一斉に飛んで競争しながら、山道を沿って飛び、孤児院の広場がゴール。優勝者には、観客から集めたお金の半分を賞金として渡し、経費を引いた残りは孤児院に寄付する。おお、それはいい考えだ。


 トムさんに相談して、「グライダーの宣伝にもなるから、どうですか」と聞いたら、乗り気になった。しかし、トムさんは出場しないそうだ。自分が勝ったら、詐欺みたいで嫌なんだそうだ。言われてみれば、自分で主催して、自分が勝ったら詐欺みたいだよなあ。そこで、あたしとスザンナが出場することにした。二人ともほぼ素人なんだから、孤児院の関係者だけど、もし優勝して賞金をもらってもかまわないだろう。


 あたしとスザンナは、トムさんの指導で、猛特訓することになった。山の上部にある幅広い坂道から飛んで、山道の上を飛ぶ。なぜ、山道の上を飛ぶかと言うと、これは、なるべくグライダーを観客に見せるためだ。レースではグライダーの種類は自由。あたしとスザンナは、トムさんから、例の折りたためるグライダーを借りた。何度も繰り返し練習する。ナロードリア王国ではグライダーをやっている人はほとんどいないので、カクムール王国からトムさんが誘うと、何人かやって来た。その結果、八人の選手でレースをやることにした。


 さて、今回もユリウスのゴンドラに乗って、また上空からビラを配ったり、村や街に行って、宣伝をする。レースだから優勝杯とか必要なので、アタラ街で金メッキの適当なカップを買ってきたのだが、ルーカスさんが趣味の彫刻で副賞を作ると言い出したので、そっちの方が楽しみだ。


 大会当日は、想像以上に観客がやってきた。レースのスタート地点の山の上部には、カロリーンが受付をしている。

「エイミー、スザンナ、二人ともがんばってね」

「うん、がんばる。ソフィーが泣くのを止めないといけないからね」


 カロリーンと話していると、見たことある四人組が近づいてきた。例のろくでなし外国人ではないか。「あんたたちも参加するのか」と聞くと、「そうだよ、ブサイク少女冒険者」と笑われる。「やい、ろくでなし! 巨大蜘蛛退治の報酬返せ」と言うが、「知ったことではない」とまたせせら笑う。相変わらず、嫌なやつらだなあ。


 レースにエントリーしたのは、あたし以外にスザンナと、ろくでなし外国人冒険者の中から二人、こいつらはあたしと同じような、三角形のグライダーに乗るようだ。それから、翼の上に立って乗るグライダーを持ってきた人。下に車がついている。このグライダー、飛ぶのだろうか? 残りの三人はアレックスとクリスたちが作った機体と同じような形のグライダー。翼が大きい。トムさんが言うには、この型のグライダーは、あたしが乗る三角形型のグライダーの二倍から三倍はスピードが速いそうだ。これは、優勝は無理かなあ。


 さて、レース開始。今日はけっこう風が強い。観客たちが、スタート地点に集まっている。アレックスが旗を振り、スタート。一斉に、坂道を下りながら上昇する。一機だけ、まったく飛ばずに坂道を転げ落ちていった。翼の上に乗っていた人のグライダーだ。そのまま、崖から落ちていった。やはり、無理があったか。大丈夫かなと見ていると、下の木にひっかかって、どうやら助かったようだ。


 他のみんなは一斉に離陸する。あたしたちが飛んでいるのに合わせて、坂道を走って下りていく観客たちもいる。トムさんの予想通り、アレックスとクリスたちが作ったのと同じような形のグライダーが先頭を飛んでいる。これは、追いつけないな。しかし、やはり、レースは別として、空を飛ぶのは、本当に気分が良い。鳥になった気分。


 気持ちよく飛んでいたら、おっと、後ろから強風、急降下、なんとか操作して、うまく上昇する。すると、「お前ら、ひどいぞ!」とスザンナが叫んでいるのが聞こえてきた。


 例のろくでなし外国人冒険者二人が、他の選手の大きなグライダーの翼を空中で蹴っている。そのグライダーの翼が折れて、真っ逆さまに落っこちて、他の似たような機種の二機も巻き込んで墜落して、坂道で転がっている。まったく、本当にひどい奴らだなあ。


 ろくでなし冒険者二人が先頭を飛んでいる。なんとか追いこせないかなと思っていると、向こうから攻撃してきた。あたしを挟み撃ちにするつもりらしい。せこいぞ。これは、まずいと思っていたら、上からスザンナが下降してきて、ろくでなし外国人のグライダーを蹴っ飛ばした。そのためか、そのグライダーがあたしに迫ってきたので、うまくよけたら、そいつは、もう一機のろくでなし外国人のグライダーとお互い激突して、操縦をあやまって、急降下。山の坂道に激突。連中のグライダーは大破した。スザンナが、「ざまあみろ!」とろくでなしどもを罵っている。ふう、助かった。


 あとは、あたしとスザンナで競争。スザンナは少し遅れているので、そのまま、あたしが広場に下りて優勝してしまった。観客からは万雷の拍手を受ける。トムさんから優勝カップを渡された。

「おめでとう、エイミー、がんばったね。グライダーもだいぶうまくなったね」

「ありがとうございます。トムさんに褒められるとうれしいです」

 嬉しくなって、みんなに飛び跳ねながら手を振る。あたしは、優勝金を孤児院に全額寄付、優勝カップも、助けてくれたお礼に、「ありがとう。事実上はあんたが優勝者だ」と、スザンナにあげた。スザンナが喜んでいる。


 あたしは、副賞として、ルーカスさんが作った彫刻をもらった。三角形のグライダーで飛んでいるかわいい女の子の彫像だ。顔はあたしと全然似てないけど。自分のベッドの枕元に飾ることにした。時たま、さわったり、眺めたりしている。とは言え、あたしとしては、お金なんぞよりこっちのほうが断然気に入っている。

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