第十話:マルセル孤児院が全焼
あたしたちが地下室で騒いでいると、いつの間にかマルセル事務長が部屋に立っていた。以前、見た穏やかな表情じゃない。邪悪な顔をしている。
「お前ら、何をしている」とマルセルが怒鳴り、近くにいたクリスが蹴っ飛ばされた。壁に叩きつけられ、床にうずくまる。「この人殺しめ!」とアレックスが剣を振るうが、あっさりとよけられて、逆に首を掴まれ、これまた床に叩きつけられた。
あたしが魔法銃を向けて、「マルセル、覚悟しろ!」と叫ぶ。しかし、マルセルが、「おい、それはオモチャか、弾が入ってないじゃないか」とケタケタ笑っている。何だか気持ち悪い笑い方をする奴だな。「撃つわけじゃないよ!」とあたしは思いっきり魔法銃を投げつける。見事、股間に当たって、マルセルが悶絶して床に倒れた。その隙に、魔法銃をひろって、アレックスとクリス、ユリアーナを連れて、部屋からみんなで逃げる。そのとき、机の上のランプが倒れたが、気にしているヒマはない。
階段を駆け上って、外に出ると、うわ! 大勢、警官が駆けつけて来た。多分、さっきタコ殴りにしたエベレス院長が連絡したんだろう。ユリウスが翼を羽ばたかせて、対抗しようとする。しかし、ユリアーナがバカでかい鷲がいるのにびっくりしながらも、「みなさん、待って!」と抑えて、マルセルに閉じ込められたことや、変態院長の件など、いろいろと警官に事情を話す。お、やっとユリアーナも勇気を出したか。そうこうしているうちに、ありゃ、孤児院が燃え出した。さっきランプを倒したのがまずかったのかな。もう、殺人鬼のマルセルを逮捕するどころじゃなくなって、消火活動になってしまった。全員でバケツリレー。消防車も呼んだけど、結局、マルセル孤児院は、ほぼ全焼しちゃった。児童たちは全員避難して助かったのが、不幸中の幸いかな。
さて、ユリアーナの証言で、変態ロリコンのエベレス院長は逮捕された。但し、マルセルの犯罪には気づいていなかったみたい。あたしの嫌疑は晴れ、マルセルは焼死体で見つかった。
あれ、確か地下に置いてあった絵画を外せば、一階の裏口に続く階段があるので、あたしが以前逃げ出したように、そこから逃走できたはずなんだけど、変だなあ。そう思っていたら、あたしが脱走した後、フィリップ爺さんがあの裏口は厳重に釘を打って閉めちゃったんだと。「まあ、因果応報だな」とフィリップ爺さんがなにやら納得するように話している。因果応報ってなんだろう? あたしとしては、マルセルは捕まえて、ちゃんと裁判にかけてほしかったな。
どうやら、マルセルは孤児院の女の子を、養子に引き取られたとか、脱走したとかごまかして、地下室で殺して内臓を取り出して、残りの死体は、例のあたしが見つけた洞窟、と言うか、岩の亀裂か知らんが、そこに上の穴から捨てていたようだ。マリア先生が地下室の異常に気づいたので殺した後、一階に運んで先生の首に、あたしがエベレス院長を攻撃したフォークを刺したらしい。ロリコン変態エベレス院長どころじゃないな。猟奇殺人鬼ではないか。とんでもない孤児院じゃん。しかし、内臓を取り出して、どうしてたんだろう。一応、医者だから手術の練習? それとも、まさか食べてたのか。気持ちわるー! まあ、これは、あたしたちの手には負えないでしょう。後は警察にまかすことにした。
マルセル孤児院は全焼したので、あたしやユリアーナ、他の児童たちは、ただ呆然。マルセルの犯罪については、今まで何人が犠牲になったのかとシャルロッテ先生が泣いている。みんなでしょんぼりとする。あたしが知っている子もマルセルの犠牲になったのかと思うと腹が立ってしょうがない。
しかし、これからどこに住めばいいんだろう。孤児院は燃えちゃったし、フィリップ爺さんと給食担当のアナベルおばさん、シャルロッテ先生は失業だ。どうすればいいかなあと考えていると、思い出した。そうだ! あの魔法使いのルーカスさんのところに押しかけよう。とりあえずユリウスに、あたしとフィリップ爺さんをゴンドラで運んでもらう。空を飛んでいる途中に、ゴンドラを揺らして、爺さんを驚かせようと思ったが、やめた。また、ユリウスに怒られちゃう。それに、フィリップ爺さんが心臓麻痺とかで死んでも困るしね。
魔法使いのルーカスさんの家の前に着陸。突然、バカでかい鷲が降りてきたので、「何事だ!」とルーカスさんが飛び出てきた。あたしはゴンドラから飛び降りて、ルーカスさんに頼み込む。
「あたしたちが住んでた孤児院が火事で全焼したんで、住むところが無くなったんです。ここの家で暮らせませんか、あとフィリップ爺さんは住み込みで清掃員として雇って下さい。何卒よろしくお願いいたします」
「うーん、そういうことか。まあ、今は弟子とか取ってないので、部屋は空っぽだから、かまわんよ」
マルセルの犯罪についても、ルーカスさんに教えようかと思ったけど、フィリップ爺さんから、「あんまり残酷な話なんで、世間体が悪いのでやめとけ」と言われたので、単に火事で焼け出されたと言うことにした。そこで、ユリウスが何往復かして、もう少し、もう少しとルーカスさんに言い訳しながら、結局、孤児院のみんな、全員三十人で押しかける。シャルロッテ先生とアナベルおばさんも一緒だ。ルーカスさんは目を丸くして、ちょっと呆れていたけど、「この前、洞窟で助けてくれたしな、まあ、いいや」だって。
さて、この建物もあらたに孤児院としよう。
「ルーカス孤児院と名付けるのはどうですか」とあたしが聞いたら、「勝手にしてくれ」とルーカスさんは、あたしの強引さにあきらめているみたいだな。ただ、「わしはもう年寄りなんで、貸すのは名前だけだ。あとは自分たちでやってくれ」と言われてしまった。建物は巨大化したままにすることになった、と言うか、もともと大きかったんだけど。二階建てで、五十台のベッドがある。あたしたち全員が住むには十分だ。アレックスとクリスもこっちに引っ越すことにしたようだ。もちろん、黒猫のニャーゴも一緒にね。ただ、自分たちで、また家を作るみたい。ここは女が多くて、うるさいだって。
さて、せっかく、元魔法学校の先生ルーカスさんと一緒の家に住むことになったので、あたしは再度、「魔法使いになりたいんで、弟子入りさせてください」と懇願してみたが、またもや、ルーカスさんがあたしの頭を触って、「残念だけど、やっぱり、お前が魔法使いになるのは無理だなあ」と言われてしまい、がっかり。それでもしつこくねだったら、「じゃあ、テストをしてみるか」とペーパー試験を受けさせられた。ついでに他の児童も一緒に、全員で受けることになった。結果、ユリアーナが百点満点でトップ。あたしは五点で、全員の中で最低。もう、本当にがっかり。ついに、魔法使いになるのはあきらめたよ。
ユリアーナが、ルーカスさんに、「お前は頭が良いから魔法使いになったらどうだ、わしのとこで修行してみたらいかがかな」と勧められてた。ユリアーナは、「私なんて、無理です」と尻ごみするが、あたしが勝手に、「是非お願いします」と言ってやった。チャンスだろとユリアーナの背中を押してやる。
ルーカスさんから、「フィリップ爺さんの清掃員としての給料は、わしが払うが、他に食費とか燃料費とか、シャルロッテ先生やアナベルおばさんの給料とか、その他雑費をどうするんだ」と現実的なことを言われてしまった。よし、あたしが冒険者として、モンスターとかを退治して稼ぐ。ヒーローは一人で戦うもんよ! けど、信頼できる仲間がいたほうがいい。アレックスとクリス、そしてユリウスを誘うともちろん了解。ユリアーナから、「私も協力するけど、魔法ができるようになるまで待って」と申し出があった。わかった、魔法を覚えたら一緒に冒険しよう。
みんなで、「オー!」と手を挙げて、ハイタッチ。ユリウスは足だけどね。




