2話 燃える村
村が燃えてるところからスタートです。
~レンゲ村~
燃える家々。
逃げ惑う人々。
それを楽しそうにマシンガンで撃ち殺す男。
ツンツンに尖った金髪にサングラス、黒いロングコートに両手にはマシンガン。
男はゆっくり歩きながら、ひたすら乱射を繰り返している。
逃げていた1人の少女が地面に蹴つまづいてその場に倒れた。
男はそのこめかみに銃口を突きつけた。
「残念。ゲームオーバーだ」
男は引き金にかかった指に力を入れた。
ドゴォーン!!
男は蹴飛ばされ燃えてる家の壁に身体がめり込んだ。
男を蹴飛ばしたのはイータだった。
「大丈夫?」
「うん」
「みんな北のシェルターにいる。1人で行ける?」
「うん」
「いい子だね。さぁ行きな」
イータは優しく微笑んだ。
少女はそのまま走り出した。
「さて・・・と、
分かってるんだろうね?
こんな真似して、ただじゃ済まさないよ」
イータは男の方に向き直った。
「やるじゃねーか。
誰だ?お前」
「人に訪ねる前にまず自分からだろ?」
「ああ?まぁいいや。俺はアステロってんだ。
お前は?」
「イータ、善良な村人だ」
「村人?ただの村人の蹴りじゃなかったな。
お前クラスの村人がいるって事は、真実味をおびてくるな」
「何がだ?」
「魔剣」
「何の事だ?」
「とぼけたって無駄さ。調べはついてる。
この村の先の洞窟に魔剣が眠っている。
そして、この村はその魔剣を守るために作られた。
実はさっきな~。魔剣の力が使われたみたいでよ~。
・・・どいつだ?
封印をといたのは?」
「何の事を言ってるのか見当もつかない。
ただお前は許されない事をした。
死んで詫びろ!」
イータは一直線にアステロの方へ駆けてった。
アステロは壁にめり込んだままマシンガンの銃口をイータに向けて、そのまま発砲。
無駄のない動きで全て紙一重で避ける。
回しげり。
アステロは横にふっ飛んだ。
アステロは倒れた姿勢のままマシンガンを乱射している。
高く飛び、全ての弾丸をかわしつつ男の顔面に踵落とし。
アステロはマシンガンを交差させ、銃身でこれを防いだ。
そのまま銃口をイータに向け、一斉に発射した。
後方に飛びこれを回避した。
「・・・人魔か」
アステロの口から紫の血が流れている。
「だったら何だってんだよ?」
「来ているのはお前1人か?」
「ああ?
1人だ。だったらどうした?」
いや、1人じゃない。
もし本当に魔剣を奪取するつもりなら、もっと大人数で来るはずだ。
そして村に入るまで気付かれない人数。
もう2人か3人いる。
常駐の兵士達がここにいないとなると、
今他の人魔と戦っているか、あるいは・・・
嫌な想像が頭をよぎった。
私がこいつをここで倒して、加勢に行く。
「俺はな・・・」
アステロは立ち上がった。
「お前みたいな強い女が大好きなんだよ。
お前みたいな強い女がどんな顔して死ぬのか。
楽しみでたまんね~なぁ!!!」
アステロは両手のマシンガンを乱射させた。
「アッハッハッハッハ~~!!
蜂の巣にしてやるよ!!」
馬鹿の一つ覚えか
イータはその場で弾幕を避け続けている。
あれだけ乱射してたんだ。そろそろ・・・
カチッカチッ
弾ぎれだ
一足飛び。
アステロとの距離をつめた。
相手の攻撃を避けてる間、魔力を右拳に溜めていた。
これで終わりだ
『白竜一閃』
アステロの腹にイータの拳が突き刺さる。
相手を突き抜けた魔力の残像は、まるで白き竜。
アステロは大量に吐血し、動かなくなった。
次!
イータは踵を返し、他の人魔がいるであろう場所に向かおうとした。
が、その時後ろから銃撃。
その場に膝まづいた。
な?
確実に入ったはずだ
例え生きていてもすぐ動けるはずは・・・
『不感症』
「俺は痛みを感じねーんだよ。
残念だったな。それと・・・」
『無限装填』
「俺に弾ぎれはねぇ。
本当は向かって来るお前にぶちこんでやりたかったんだが、速すぎだバカやろ~」
足を撃たれた
まずい…
アステロは銃口を向け、ツカツカこちらに近づいてくる。
イータの前で立ち止まり頭に銃口を突きつけた。
「終わりだ・・・」
「そっちはもう終わったの?アステロ」
そこに妖艶な女性と上半身裸の男が現れた。
シースルーのローブに黒のランジェリーにガーターベルト。
かたや、筋骨隆々の肉体美。
新手か…
「ああ、今終わるところだ。ナサリナ」
「魔剣は?見つかったの?」
「いや、まだだ。こいつを殺してから探す」
「なら、殺さない方がいいんじゃない。
この人、魔剣の在りか知ってそうだし。
ねぇ、タツマ?」
「ああ」
「ああ?俺はこの女を殺すって決めたんだよ。
すっこんでろ」
「じゃあ、魔剣どーするのよ?
片っ端から探すなんて、私嫌よ?
ねぇ、タツマ?」
「ああ」
「逃げた村人がいる。
どこかは分からねぇが1ヶ所に集まってるはずだ。そこを襲う。誰かしらが知ってるはずだ」
「あらそう?それならいいけど。
ねぇ、タツマ」
「ああ」
「そういうわけだ。じゃあな」
3対1
あれをやるしか・・・
イータの身体中に白いオーラが現れた。
地面に両手をつき、足でアステロのマシンガンを蹴りあげた。
マシンガンはアステロの手から離れた。
「こいつ!ぶっ殺してやる!」
もう一方のマシンガンをイータに向ける。
しかし、またもやマシンガンは蹴り飛ばされた。
連続でアステロの身体を蹴りつける。
アステロは後方にぶっ飛んだ。
『白竜陣』
「魔力を身体中に纏っているわね。
単純な身体能力向上・・・ってわけじゃなさそうね。タツマ」
「ああ」
タツマは拳を振り上げイータに向かって行った。
連打連打連打連打。
イータは最小限の動きで全て防いでいる。
「いいわよ。タツマ」
ナサリナの指先から糸がとび出した。
その糸はイータの右腕にぐるぐるにまとわりついた。
イータの右腕は動かなくなった。
「今よ。やっちゃいなさい。タツマ」
タツマはさらに連打を繰り出した。
が、イータは左腕一本で全て防いでいる。
タツマの拳が肥大化した。
その剛腕でイータを殴ろうとした。
しかし、タツマの腹にイータの左が突き刺さった。
「グッ・・・」
タツマはその場にしゃがみこんだ。
「ふぅん。
攻撃力向上、防御力向上、瞬発力向上、動体視力向上、自己治癒力向上といったところかしら。
でもね」
ナサリナの左の指先から糸がとび出した。
イータの左腕に絡み付く。
ナサリナの指先の糸が四方八方、周りの木々、家々に放たれた。
まるで蜘蛛の巣のように。
その中心にイータ。身体は宙に浮いている。
『蜘蛛の晩餐』
「どんなに強い力を持っていても、動けなければ使えないわ」
ナサリナはイータの傍の糸に飛び乗った。
「あなた綺麗ね。あなたみたいな綺麗な人を食べたら、私もっともっと美しくなれる。
安心して。あなたの美は私の中で永遠に生き続ける。
それじゃあ、いただきます」
喉元に噛みつこうとしている。
『白竜尾』
イータの纏っていた白いオーラが尾骨に集められた。その形は竜の尻尾。
イータは尻尾を振り回し、自分を捕らえていた糸をバラバラに切り裂いた。
イータとナサリナは受け身をとりながら着地した。
『白竜咆哮』
間髪いれずイータの掌から白いオーラが放たれた。
アステロ、ナサリナ、タツマはその範囲内にる。3人に直撃した。
ナサリナは地面に這いつくばっている。
「強い。この強さ聖騎士並み?
あなた、何者なの?」
「ただの善良な村人だ」
「村人?そんなわけないじゃない」
「おしゃべりは終わりだ。死んでもらう」
「母ちゃん!!」
!?
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこにはイチル、ツバメ、ユズが立っていた。
「あんたたち!」
一瞬安堵したが、すぐ気を引き締めた。
イチルの右手には魔剣が握られている。
「こっちに来るな!」
「母ちゃん。何だよこれ。何で村が燃えてるんだ?」
「いいから!逃げなさい!!」
「何でだよ?母ちゃん置いて行けるわけないだろ?」
「見ぃ~つけたぁ~」
マシンガンの銃声。
イチル達目掛けて弾が飛んでいく。
「くっ!」
イータはその瞬発力でイチル達の目の前まで、弾丸より速くたどり着いた。
そして、3人を抱き抱える姿勢になった。
その背中に弾丸は容赦なく突き刺さった。
白いオーラは消え、身体中から血を流している。
「・・・え?母ちゃん?」
「お母さん!」
「ママ!」
「・・・あんた・・たち
にげ・・なさ・・・い・・・」
「母ちゃん!母ちゃん!」
その時イータの頭が鷲掴みにされた。
タツマだ。
イータの体を持ち上げると、その辺に放り投げた。
「タツマ、魔剣を奪うのよ!」
遠くからナサリナが叫んだ。
「ああ」
タツマの掌がイチルに向かって来る。
イチルは倒れているイータから目が離せなかった。
母ちゃん?
何で、なんでだよ?
母ちゃんが・・死ぬ?
こいつが、こいつらがやったのか?
こいつらが、こいつらが・・・
許さない・・・
許さない
許さない許さない許さない許さない
村一帯に冷気が走る。
イチルを中心に周りの地面が凍りついていく。
氷はツバメとユズを避けて拡大しつつ、燃えている家々を炎ごと凍らせて鎮火していく。
村中が氷で覆われた。
タツマは下半身を凍らされ、身動きがとれない様子だ。
氷を砕こうともがいているタツマの胸を地面から生えてきた氷の刃が容赦なく貫いた。
ナサリナは木の枝に糸をくくりつけ、身を宙に浮かせ、氷を回避した。
アステロは焼け落ちた民家の屋根の残った木材の上まで飛び、やり過ごした。
「魔剣が目覚めたようね」
「ああ、このままじゃまずいな」
「出し惜しみしてる場合じゃないわね」
ナサリナは糸を離し、氷の上に降り立った。
魔剣の方へ左手を向け、その指先から糸を放出。
糸が魔剣に絡み付く。
ナサリナは糸を引き魔剣を取り上げようとした。
が、魔剣側から糸が徐々に凍りついていったため、これを離した。
「死ね。クソガキ」
アステロはイチルの死角からマシンガンを撃ちまくった。
ツバメ、ユズもろとも撃ち殺すつもりだ。
地面から氷の壁が隆起する。
弾丸は全てそれによって防がれた。
「タツマ!」
ナサリナの言葉を受けて、瀕死?だったタツマの身体が震えだした。
自身を拘束していた氷、胸を貫いた氷の刃を砕きながら、巨大化している。
肩甲骨からさらに2本の腕が生えてきた。
四つ腕の巨人。
4メートルはあるであろうその身体からパンチが繰り出される。
風圧だけで吹き飛んでしまいそうな威力。
氷の壁。
ヒビは入るが拳は通らない。
タツマは4本の腕で連続で殴ってきた。
氷の壁が割られた。
また、氷の壁を出すが割られる。
何度も氷の壁を出すが割られる。
その攻防は続いた。
割れた氷の破片は宙に舞っている。
『氷粒乱舞』
砕けた氷の粒がタツマの周りを旋回しながら襲いかかる。
一つ一つは大した傷は与えられないものの、その無数の氷粒はタツマの身体を引き裂き続けている。
ズゥ~~~ン!!
タツマがついに膝をついた。
イチルの剣に巨大な氷の刃が形成された。
そのまま振り下ろす。
『氷柱剣』
タツマの頭から股関節までを切り裂いた。
大量の出血。
その場に仰向けになって倒れた。
『蜘蛛の晩餐』
イチルの両腕にナサリナの糸が絡み付いていた。
イチルの身体が宙に浮く。
「イチル!」
ツバメがイチルを目で追いながら叫んだ。
「ツバメ!今はイチルに任せてお母さんを」
「う、うん。」
ツバメとユズはイータの倒れている場所へ向かった。
イータの身体は動かないが、かろうじて息はしているようだった。
「アステロ!」
ナサリナの合図とともにアステロはマシンガンを発砲した。
イチルは身動きがとれない。
弾丸が迫って来る。
その時、地面に散らばっていた無数の氷の粒が浮き上がり、弾丸を弾いた。
弾丸は全て逸れてあさっての方向へ飛んでいった。
『氷粒乱卵』
「くっそ!魔剣野郎がっっっ!!
死ね死ね死ね!!!」
アステロはさらに両手のマシンガンを連射する。
氷の粒はイチルを中心に球体を描き、全ての弾丸をいなした。
「この野郎!!」
アステロは両手のマシンガンを密着させイチルの方へ銃口を向けた。
銃口に魔力が溜まっていく。
「死ね!このダボがぁぁぁぁ!!!『魔機関銃』!!!」
溜まった魔力がマシンガンの弾丸の如く放出された。
それが一迅の光となり、球体の氷粒乱卵を貫いた。
氷の粒が霧散していく。
そこにイチルの姿はなかった。
!?
「あのやろぉ~。どこ行きやがった?」
アステロは辺りを見渡した。
「ぐっっっ!!」
あさっての方向から声が聞こえた。
ナサリナの両腕に氷の針が刺さり、釘付け状態になっている。
イチルはナサリナの眼前にいた。
そしてナサリナの腹をイチルは殴った。
「がはっっ!」
吐血。
紫の血をイチルは浴びながら、
殴る。
殴る。
殴る。
何度も何度も何度も何度も。
ナサリナはぐったりした。
もう血と胃液を出しきってしまったようだ。
「そこまでだぁ!魔剣!!」
アステロはツバメとユズに銃口を向けている。
「こいつら殺されたくなけりゃあ魔剣を渡せ」
「…」
イチルは魔剣を手離した。
大きすぎる力を使った代償か、イチルはその場に倒れこんだ。
「イチル!」
ユズが叫んだ。
「僕達がいなければ…」
ツバメは今にも泣き出しそうである。
「安心しろ。すぐに同じ場所に送ってやるよ」
アステロが引き金を引く指に力を入れたその時、
激しい突風が吹き荒れた。
アステロは後方に吹き飛ばされた。
「いやぁ~、危機一髪かな?
間に合ってよかった」
そこには一人の剣士が立っていた。
白い鎧に羽のついた黒マント。
「大丈夫かい?」
「あ、はい」
その高貴なただずまいにツバメは目を奪われた。
「…何だよ?何でお前がいるんだよ?
英雄!『シャーレ・グリシオン』!!」
アステロは動揺を隠しきれない。
「何でって?
英雄だからさ!」
はい。決め台詞っぽいのです。