第七話~修羅場ってどうやってできるんだろうね。添え~
よろしくお願いします。
――――現在、深夜の二時半。
「先生!あと三十分ですっ!」
編集者のユノさんに急かされる。
「わかってますよ、やればいいんでしょやればっ!!」
猛スピードで漫画を書き上げていく。
「こっちの背景終わりましたぞ」「こっちのベタ塗りもオーケーだ」
フェルマンさんとレバンさんが自分の仕事を終える。
あとは僕とペン入れと効果線を書く担当の腐ロリ様だけだ。
「あたちももうすぐ終わる。そっちの仕事手伝えるぞオタク」
「じゃあ、これとこれのページの効果線とペン入れお願いします」
この二枚さえ、腐ロリ様に書いてもらえるなら、あとは下書きだけのこの一枚。あと二十五分、余裕!!
――――カリカリカリ。
「なぁ、オタク」
――――カリカリカリ。
「何ですか、腐ロリ様」
――――カリカリカリ。
「これって立場逆転してね?」
「ですよね~」
今、僕は漫画家として働いていて、レバンさん、フェルマンさん、腐ロリ様にはアシスタントをしてもらっています。何故かって?
それは随分遡ることになる。
◇◇◇
~1ヶ月前~
紙とインクとペンを夕食の食材のついでに買ってくると、さっそく腐ロリ様は本を描き始めた。
「ていうかお前、嘘ついてたな、ベタ塗り、背景、効果線、ペン入れまで完璧じゃねぇか!下手するとあたちより上手いぞ」
手伝っていると誤魔化せずさっそく漫画を描ける事をばれてしまった。
「だって描けるとわかったら僕の負担重くなりそうなんですもん」
「わたちに嘘ついたんだ。罰とちてベタ塗り、背景、効果線はお前担当な」
「ほらぁやっぱり。そうなるとわかってたから言いたくなかったのに」
僕の愚痴りもそよ吹く風。しっかりと手伝う事になった。
おかげで夕食作りが遅れて腐ロリ様に叱られる。
僕にどうしろとっ!?
結局、漫画作りは、深夜まで及んだ。
腐ロリ様が舟を漕ぎだしたし、そろそろ休むかと思っていると、いつもの軽快なレベルアップ音が頭に響いた。
ステータスを開いてみると、ついにレベル20に到達した。
やったぞ!さっそく明日は冒険者ギルドに行かなくては!
あとは、能力値に変動はない。
新しいスキルは…………作画オタクレベル3っていうのが増えてる。
確かにオタクの人は絵が上手かったりするけど、何にでもオタクってつければいいわけじゃないぞ。
描くのを手伝わされたからこのスキルを覚えたのは、納得できるけど。
こうなるとこのスキルの力が気になる。
紙とインクとペンはあるし、ちょっとだけ。
腐ロリ様が寝てる横で久しぶりに自分の漫画を描いてみることにしよう。スキルの確認の為に少しだけね。
―――チュンチュン。
朝です。
ちょっとだけのつもりが、あまりにスムーズに漫画が描けるから思わず集中して冒険物を一話描いてしまった。
この能力、漫画を描くのにすごい便利!それに描いていくうちにレベルもあがり、作画オタクレベル5にまで上がっている。
眠気が半端じゃないが、朝食を作らないと腐ロリ様に何をされるかわかったものじゃない。
それに今日は冒険者ギルドに行くのだ、腐ロリ様の昼食も今のうちに作って保冷機に入れておこう。
「腐ロリ様、朝食ですよー。あと今から僕出かけるので昼食は保冷機に入ってるのを魔導レンジで温めて食べてくださいね」
リビングに雑魚寝状態の腐ロリ様から聴こえてるのか「んあー」と返事が帰ってきたので、靴を履きドアを開け外に出る。
外に出ると燦々と輝く太陽が。寝ていない頭にはつらい。
「ふぁぁあ」と大きく欠伸をしながら冒険者ギルドに向けて重い足を進める。
冒険者ギルドにつくとアリシアさんが手を振ってくれる。
相変わらず色っぽい。何回か会ってくうちに種族がエルフとわかったアリシアさん。やっぱり僕は年上好きらしい。いくつか聞いたら怖いので聞かないけど。
「いらっしゃい、タクミ君。今日はどうしたのかしら」
「どうもアリシアさん、実はですねレベルが20になったのでジョブチェンジをお願いしにきました」
「そうなのジョブチェン………えっもうレベル20に上がったの?………冗談………はわざわざ言いに来ないだろうし、ステータスを見せてもらえる?」
訝しげなアリシアさんにステータスを見せる。
「嘘っ!?本当にレベル20になってる!?まだ冒険者になって一週間ぐらいしかたってないのに。………いったいどうして?」
うん、この早さでレベル20になったらそりゃ驚くし、どうやって上がったのか知りたいよね。
でも家事をして上がったなんてとても言えない。
「ごめんなさい、あまり人に言いたくなくて」
「ううん、こちらこそごめんなさい。個人情報だものね。聞いたこちらが悪かったわ。でも一週間でここまであげるなんて相当無理して頑張ったのね」
寝不足気味な僕の顔を見て、死に物狂いでモンスターと戦っていたとでも解釈したのだろう。
申し訳ない。ただ家事をして、漫画を描いていただけなんです。
「それよりもジョブチェンジできるんですよね?」
「できるわよ。冒険者カード貸してもらえる?」
「はい、どうぞ」
アリシアさんは冒険者カードを受けとると呪文を呟いている。
するとカードが発光し、ステータス画面のように空中に文字の羅列が浮かんで見える。
「すごいわ、タクミ君!また見たこともない職業よ!」
アリシアさんは喜んでくれているが………………なんじゃこりゃ!!
~ジョブ可能な職業~
·オタク(深度 中) ·家政婦 ·漫画家
…………戦闘職一個もねぇじゃんっ!!
オタク(深度 中)ってなんですか?その上は大ですか?
家政婦は確かにここ一週間家政婦みたいな事はしていましたよ。だからと言ってなりたい訳じゃない。
漫画家も今朝まで描いていたせいだろうな。
オタク以外リアルな職業って、ここ異世界ですよね?
えぇ、この中からしか選べないの?
オタク(深度 中)はまず論外として、家政夫か漫画家か。
このままあの腐ロリ勇者の世話ばかりも嫌だしなあ。
ここは消去法で漫画家かな。
「変えるジョブは決まった?」
「はい、漫画家にします」
「マンガカね?了解。………はいジョブチェンジ完了したわよ」
◇◇◇
~ステータス~
オザキ タクミ
レベル20
職業 漫画家
体力D
魔力 F
攻撃力 F
守備力 F
素早さ D
知力 B
運 B
スキル
·料理オタクレベル5 ·掃除オタクレベル5 ·二次元オタクレベル8 ·作画オタクレベル5 ·アイデアレベル1 ·作画スピードレベル1
うん、やっぱり漫画家になった影響が出てるな。
漫画家は体力がないとやってけないし、原稿を落とさない為にも作画は早く描けたほうがいい。
運が上がったのは、漫画の世界が実力だけじゃなく、運も必要だからだろう。
スキルは元々保持していたスキルがいくつかレベルが上がり、新しいスキルは漫画家に関係したスキルが二つ。
こりゃ普通の冒険者にはなれないなぁ。
ま、いっか。オタクじゃないだけマシだ。
冒険者ギルドでの用も済んだし、アリシアさんに別れを告げ、外に出る。
今は………ちょうど昼時だな。お腹もぐぅぐぅなっているし、どこかで昼を済ますかと、食事処を探していると、ある食堂のテラス席で一緒に食事をしているフェルマンさんとレバンさんを発見。
「レバンさん、フェルマンさん。お食事中のところ申し訳ないのですが、僕もちょうどお昼をと思ってところなのでご相伴してもいいですか?
「おう、もちろんいいぜ」「ええ、タクミ殿とゆっくり話してみたかったのでぜひ」
二人の了解を得て、同じテーブルに座る。
「その節はお二方には本当に助けられました。改めてお礼を。ささやかですがここのお代は僕が払うので」
「おう、じゃ甘えさせてもらうぜ」
「これは断るのは失礼ですね。ではお言葉に甘えて」
◇
昼食を食べた後、三人で話していると今腐ロリ様が本を描いてる話になった。
「おい、大丈夫なのかよ。以前みたいな騒動になるのはごめんだぜ」
「それは大丈夫です。今回はあくまで自分用を描いているだけですから。それに僕も見てますし」
「うーむ、タクミ殿の事は信用しておりますが、前例がありますからな」
うーむ、と悩む二人。
なら、と僕は妙案が浮かぶ。
「実は今、本の手伝いでろくに家事ができていないんです。眠れてもないですし。そこでお二人に本の手伝いをしてもらいつつ監視してもらうのはどうでしょう。僕は家事ができる余裕ができるし、二人は身近で腐ロリ様の動向をチェックできる。」
二人は数秒思案したあと、
「仕事は有休貯まってるしそれもいいかもな」
「私も宮廷魔術師長というのは名ばかりでして、暇なのでその案に乗らせていただきます」
意見が纏まったことで食堂をあとにし、家に帰る道中、急にフェルマンさんとレバンさんが僕の腕を掴んで脇道に入る。
「こりゃ、尾行されてますねフェルマンさん」
「ですな、ですが尾行してるのはどうも素人さんですな。動きに無駄が多い」
「尾行が居るんですか?」
「ああ、どういう目的かは解らねえが、つけられてる」
「とりあえずこの先の角で待ち伏せて本人から事情を聴きますか」
言われた通り角で待ち伏せて一人の怪しい人物をとらえたんだけど。
「違うんです違うんです。お三人さんがメロリー様の本の事をはなしているのを聴いて、編集者として気になっただけなんです』
「編集者?」
「私はランドセイル出版社に勤めてるユノと言います」
まぁ、本があるんだろうから出版社もあると思うけど………
「その編集者さんがなぜ僕らのあとをつけたんですか?」
「それは、食堂でメロリー·フラットパイン様が再び本を作っているとお三方が話されてるのを聴いたからです。私はメロリー様の作品に憧れて出版社に就職したんです。なのに肝心のメロリー様は封印され、残った本も禁書としてすべて燃やされました。だけど、メロリー様が再び本を描いてると聴いて、どうしてもその本を拝見したくてつい」
「ついって。過去の混乱はあなたもしているでしょう」
「もちろんです!だから出版しようなんて思ってません。ただ一人のメロリー先生のファンとして拝見だけでもさせてほしいんです」
彼女からは、本に対しての熱い情熱が伝わってくる。
まぁ、出版しないって言ってるし、見せてもいいかな。
「見るだけならいいですよ。ただし外に情報を漏らさないで下さいね」
「本当ですか!?はい、絶対に誰にも言いません!」
こうしてレバンさん、フェルマン、ユノさんを連れて家に帰る。
読んで頂きありがとうございました。