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復活のロリ勇者~腐属性添え~  作者: 立鳥 跡
2/11

第一話~嵐の前の静けさだ……これで?~添え

よろしくお願いします。

 

「………も………し……………だい………ぶ………」


 ―――うーん、すごく嫌な事があったような気がする。 

 確かドブ川に落ちてそこから記憶が………でも意識があるってことは、生きてる? 

「……も…し……大………夫………か?」

 ―――うーん、さっきから何かうるさいなぁ。


「気……つい……のか?…………もし、大…丈夫……か?」

 ―――ペチペチペチペチ。

 なんか頬を叩かれてるのかくすぐったい。でも、まだ眠気があるし眠ってたいなぁ………眠っとこ。


 ―――ペチペチベチベチベチベチ。

 気のせいか叩く力が強くなった。ちょっと痛いなぁ~。寝ぼけた振りして手で払い除けよう、そして再び微睡みの世界へ。

 ―――うーん、バシッ!

 我ながら良い演技だ。これならもうしばらく寝させてくれるだろう。

「……ぬぅ、これでも目覚めぬのか……致し方あるまい」


 ―――やっと諦めてくれたか。これでゆっくり寝「ヌンバラヱ!?」

 ―――痛っっ!?頭にズドンと強い衝撃が来たんですけど!?めっちゃ頭痛いんですけど!?


「おう、やっと起きてくれたの~。体は大丈夫かの~。」

 あまりの痛みに目を開けると、王様っぽい格好をした小太りのおっさんが優しい声色で両手で極厚の本を持ちながら僕の顔を覗きこむ。いかにも目が覚めて良かったと安堵の表情を浮かべているが―――。


「明らかにその極厚の本で僕の頭ドついてますよね!?」

「お主がなかなか起きぬからつい余の蔵書の中でも一番重い本で小突いてしもうたわい」  

「眠気が取れなかったとはいえ、なかなか起きなかったのは謝りますよ!だからと言って殺人事件とかに凶器として出てきそうなものわざわざ使いますっ?!それと、小突いたってレベルの衝撃じゃねぇっ!!」

「眠気が取れなかったのはおそらく召喚魔法のせいであろうな」


 ―えっ!?今スルーされたんですけどっ?奴の頭にもあの凶器本を叩きつけたい欲が半端ないんだがっ!?

 しかし奴は『召喚魔法』という気になる単語を口にした。

 ここは、殺意を心の薄皮一枚の場所に留めて、話を促すことにしよう。うん、僕って冷静だなぁ。 


「こほんっ、あのー、眠気がとれないのが召喚魔法の所為というのは?も、もしかして勇者を召喚する為とか?」


 召喚魔法で異世界の人間が召喚されるといったら、勇者として魔王を倒す為だと決まっている……のだが。 


「……ふむ、召喚魔法は召喚した者にも、された者にも同様に眠気、倦怠感の後遺症を起こす。そのうえでランドセイル国九代目国王であるこのレッド·ランドセイルが、わざわざ自分の城の敷地内にある庭園で、わざわざ数名の近衛兵と宮廷魔術師長を率いて、召喚魔法を施行したその理由とは……」


 誰に説明してるのかは定かじゃないが、やはり一国の王様らしい。良かった~、鈍器なような本でド突き返さなくて。そんなことしてたら、王様の後ろに控えている数名の屈強な兵士に取り押さえられて、最悪死刑に何てことにもなっていたかもしれない。殺意を心の内にギリギリで押し込めた沈着冷静な自分を褒めてあげたい。よしっ、もっと心の奥のほうへ押し込んでおこう。


 しかし、人って驚くような事があると視野が狭くなるらしい。

 王様の言葉で、王様の他に人がいることに気付き、自分が今目の前に壮大とそびえ立つ城の敷地内の庭園にいると気付けたのだから。

 しかし、これだけの人数を揃えて行うのだから、やはり勇者を召喚する為の魔法か?いや、わざわざ間を貯めてまで言う事なのだからそれ以上の理由かも?

「―その理由とは?」

「………その理由とはっ!………………ある人へのプレゼントのためじゃ!!」


 ―はっ?プ、プレゼント?

 意味がわからん。人へのプレゼントでなぜ異世界に召喚されたんだ?


「なぜその召喚で僕が呼ばれたのでしょうか?」


「少し言いづらいのじゃが、余がプレゼントしようとした相手は、何が欲しいかと聞いたら、ドラゴンやそれと同等の魔物の使い魔を所望したのじゃ。じゃから城中の魔物の召喚にまつわる書物や魔道具を探させて、例えドラゴンだろうと召喚させ契約できる、古の召喚書物と魔道具を使って召喚魔法を施行したのじゃが………てへっ、失敗したのじゃ」


「………はぁぁぁぁあっ!?失敗ってどう言う事ですか?そんなこと言って実は成功してて僕が強い力を持っているとか」


「いんや、お主からは何の力も感じん。それどころかこの場にいる人間の中で一番弱い。それにお主が先程からいっている勇者は、余の住む世界では召喚では呼べないのじゃ。じゃからお主は事故でこの世界ロリンにやってきた異世界人だというだけの存在じゃよ」


「…………じゃあ元の世界に帰れるですか?」


「無理じゃのう。余達もよくわかっていない古の召喚魔法じゃからのう。貴重な召喚の為のアイテムも一回使ったら壊れてしもうたし、今回は痛み訳という事で、じゃあのう」


「いやいや、何お互い様ムード出して話終わらせようとしてんですか!勝手に呼ばれて、召喚の後遺症で芝生の上に長い間寝かされて、なかなか起きないから頬バシバシ叩かれ、そのうえ凶器で頭を殴られ、召喚はミスでした、じゃあね。はねぇっ!!」


「そう言われても余も召喚の後遺症で眠くての、そろそろ寝室でたまっている内務放ったらかしにしたまま、熟睡したくての」

「自分のミスで巻き込んだ何も知らない異世界の人間をよく放っておけますね!僕はこの世界の事は何も知らないんですよ!」

「……じゃあ、どうすればいいんじゃー?」


 ―ムカッ。先程から話を聴いていたら、この王様どうもダメ王っぽい。奥に押し込めた筈の殺意が這い出してきたんで、やっぱり一発ぶちかましちゃおうか……と思いもしましたが、ダメ王の後ろに控える兵士さんや魔術師の格好をした老人がすごい警戒した目で見てくるので、堪えるしかない。

 非常にドつきたいのを心の薄皮一枚でなんとか堪え、今はこの世界で生きれるよう努力するしかないのだ。そう言い聞かせるしかないよね。


「……例えば、この世界ロリンの事が、ある程度分かるようになるまで城に住まわせてくれるとか?」

 いやー沈着冷静な僕だからこそナイスな提案。

 ダメ王の後ろに控えている兵士さん達も良い提案ですよと言っているかのような顔している。そうですよね、この提案でとりあえずこの場は平和的に―


「えー余の城に赤の他人で平民っぽい異世界人のお主を泊めるのは無理~。良い年して『僕、もしかして勇者として異世界に召喚されたのかも』とか夢みがちな平民っぽい異世界人を泊めるとか断固として無理~」


 ―ぷちん。僕の頭の中で堪忍袋の緒が切れる音がしました。つまり――

「こっちこそ無理だボケ~っ!!お前のミスで呼び出されてんだよ、こっちは!!お前みたいな常識はずれのバカ王の城なんか頭下げられても泊まるかボゲ~っ!!というか今すぐテメーの王冠頭をドついたる(メテオストライク)からその手に持っている凶器本寄越しやがれ~っ!!」


 ――もう心の薄皮一枚で堪えてた殺意、大放出だよね。

 沈着冷静?何それ美味しいの?……過去は振り返らない男、それが僕。つまり、今はこのバカ王ドつきまくる事のみに集中……したかったが、兵士さん達に羽交い締めにされてしまう。

「放せやごらぁあ、僕にそのバカをドつかせろやぁあ!」


「落ち着いて下さい」「ぐうぅ、この貧弱な体のどこにこんな力が?」「お前も押さえるのを手伝え!このままじゃ振りほどかれるぞっ!!」「えっ?振りほどかれても別にいいじゃん。バカ王がドつかれるとこみたいし。がんばれー、応援してるぞ異世界の少年!」


 ひとり兵士のお兄さんが僕の応援をしてくれている。


 ――ならば!

「よっしゃぁぁぁぁあ!!任せてくださいっっ!ふんぬぉぉお!!」


「「「何っっ!?」」」


 ―――羽交い締めにしていた近衛兵達の足が浮く。

 ―――ズシン、一歩前へ進む度体が軋む。

 ―――ズシン、体がどうなろうと構うものか!奴が持つ凶器本で奴をドつく事ができるならば!!


「何なのっ!?何なのじゃ、あやつは!?宮廷魔術師長!お主、あやつは何の力も持たないただの少年って言っておったよな!?」

「左様で。しかし、レッド陛下への純粋な殺意が彼に尋常じゃない力を与えているようで。これを世では火事場のバカ力と申します」

「ええっ、そこまで殺意持つことした余!?ちょっとした熱血バトルもののラスボスと戦う主人公みたいになっとるんじゃけどっ!?というか後ろの方で一人だけ止めに入ってないのは、近衛隊の副隊長じゃよね!?あやつ、副隊長のくせに余をディスってね!?不敬罪じゃねっ!?」

「空耳です。召喚魔法の副作用によっておきる重い眠気のせいで幻聴を聴いたのでしょう。王直属の近衛隊副隊長が、まさかバ、賢王レッド陛下をディスるなど、ありえないことです。それが証拠に近衛隊の皆が異世界の少年を押し止めに行っているのに、更なる不測の事態に備えて、あえて後方で全体に注意を向けてくれているのです。それよりも今は陛下を殴らんとする目の前の少年でしょう」

「………そ、空耳?……そ、そうじゃな。今は、少年が余をドつこうと少しずつ近づいておるし。て言うか、あれってあの少年も不敬罪に該当するんじゃね。近衛兵に剣で刺してもらうか、何なら少年が狙っているこのお気に入りの『世界の小さな希望図鑑』で奪われる前に再び、ドついてもよいが」


 ―――と言いながらバヒュンバヒュンと本で素振り始めるバカ王に僕は身構えるが、魔術師の格好をした老人もとい宮廷魔術師長が待ったの声をかける。


「それはまずいですなぁ」

「何がまずいんじゃ?」

「何がとは……まず、古の召喚魔法がこのランドセイル王国及び、ランドセイル王国と同盟を結んでいる六国において第一級危険魔法として禁術になっているのはご存知ですよね?」

「う、うむ。じゃからこそ、城の庭で、信頼できる少数精鋭の兵士と、余の国で一番の魔術師であるお主を率いて召喚魔法を行ったんじゃろうが」

「はい、そのままドラゴンかそれに値するものを召喚し、あの方に内密にプレゼントできれば良かったのですが……ミスをなさいましたよね」

「しょうがないじゃろ、あの呪文難しかったんじゃもん」

「はぁー、だからあの時私が代わりに召喚しましょうかとお伺いをたてたのに代わられないから」

「何じゃっ!文句あるのか!?」

「いえいえ、決してそういうわけじゃありませんが、あのミスによって異世界の人間を、それもただの人間の少年を呼んだのは」

「な、何がじゃ?このまま、自由にして城下町で秘密裏に始末して終わりじゃないのか?」


 ―なっ!?ここで衝撃の事実発覚!!どうやらこのバカ王、僕を最初から殺すつもりだったらしい。

 そのゲスさにズシンとまた一歩足が進む。


「なぁ、本当にドついちゃダメかの~。殺意みなぎらせて近づいて来てるんじゃが」

「ええ、ダメです。禁術の魔法だろうが、プレゼントさえあの方に渡りさえすれば、あとから文句を言える奴など少なくとも七国同盟の中にはいません。しかし、召喚した中身がただの少年ではあの方はいらないでしょうし、そうなれば、異世界の一般人を禁術に巻き込んだと、反国王派に大きな隙を作る事になります」

「じゃから、秘密裏に殺そうと―」

「レッド陛下。ここにいるのは少数とはいえ、秘密とはどんなに厳重にしようとバレるものなのです。秘密裏に始末したのが反国王派にバレて御覧なさい?一気に国王から引き摺り下ろされますぞ」

「ぐぬぅうっ。それは非常にまずいぞ!それじゃあこの少年が言った通りに、ロリンの世界に慣れるまで余の城に住まわせるか?いや、それは嫌じゃ!ぐぬぅ、しかし………」

「さぞお悩みの事でしょう。そこで私にある考えがございます」

「考え?」

「今回の召喚魔法は王の暗殺を企てた者の仕業で、その魔法を阻止しようとした陛下が、召喚魔法のミスによって異世界から転移してしまった人間を保護したという話を裏から流すのです。そうすれば、怪しまれはしてもつつかれる事はないでしょう」

「なるほど。じゃがそれには、少年に口裏を

 合わせて貰わねばならないのでは?」

「ええ、その通りです。そこで、口裏を合わせてもらう代わりに、

 少年には、この世界で生きる為の資金を渡すのです」

「なるほど。………で資金はどのくらい?」

「そうですなぁ。秘密裏ですから王国のお金から出すわけにはいきませんので、そうなると一年分の資金、金貨十二枚を王様のポケットマネーから出していただく事となります」

「え~。余のポケットマネー!?………金貨一枚とかになんないのそれ?」

「それでは、口止め料として成り立たないかとせめて金貨十枚!」

「魔術師長、余の妃が金銭面で厳しいのは知っておるじゃろうがっ!余はお小遣い制なのじゃぞ!金貨二枚!」


 ―――バカ王と宮廷魔術師長の口止め料の交渉はヒートアップしたが、最終的に金貨三枚に落ち着いたらしく、数名の近衛兵を引き摺ったまままた一歩ズシン、と歩みを進めた所でバカ王から声がかかる。


「異世界の少年よ、先程は余が悪かった。兵士達も疲れておるし、和解案を聞いてくれないかのう」


「金貨三枚やるから今回の召喚魔法の件は、国王を狙う暗殺者のせいで、その召喚魔法で呼ばれた僕を王様が保護したと、口裏合わせをしろということですかね」


「ぬぅ!?こそこそと内密に話しておいたのに聴こえておったか。………ならば話は早い。贅沢をしなければ3ヶ月は暮らせるであろう金貨三枚くれてやる。じゃから口裏合わせよ」


 ………本当なら冗談じゃないと断り、本でドつきたい(メテオストライク)所だけど、この流れはおそらくあの宮廷魔術師長さんが僕の命を救う為に考えた道筋だ。だから肩の力を抜き、兵士さん達に抵抗するのをやめる。


「……僕の殺意を金貨三枚と交換なのは尺だけど、命が保証されるだけマシか。受け取りますよその金貨三枚」


「そう言いながら未だに殺意をビンビンに感じるのは気になるが、余もそろそろ眠気が限界じゃし、あいわかった。金貨三枚じゃ、受け取るがよい」


 こうして僕は、金貨三枚を受け取りバカ王達のいる城から出ることになった。

 なお、金貨三枚受け取る際に、目の届く範囲に留まらせたいらしく、基本城下町に生活の拠点を置くように言われた。

 金貨三枚渡し、用件言い終わるとバカ王は眠たいのか大きなアクビをしながら、そそくさと城内に引っ込んだ。その際、バカ王の横にいた宮廷魔術師長と目が合い、僕は礼のつもりで腰を折った。宮廷魔術師長は何も言わず、笑顔でウインクをし、バカ王と一緒に城内へと入って行った。


 異世界に来てバカな王様に出会って運がないなと思ったけど、宮廷魔術師長みたいに命を救ってくれるおじいさんもいるし、僕が街のことを知らないだろうと、街を案内してくれるために横に居てくれている近衛隊副隊長もいるし、この異世界ロリンでの生活もなんとかなりそうだと思いながら、街へと足を向ける近衛隊副隊長のあとを追いかけた。


読んで頂きありがとうございます。

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