Tech City① 自動運転
将来の世界について書きます。
「ほー、ここが2040年の未来ですか…」
ようやく視界がひらけてくると、私は辺りを見渡しながら、そう呟いた。見渡すと、綺麗なガラス張りのビル群の海が目に入ってきた。下方の地上には高速道路のようなものが張り巡らされており、ものすごい速度でブンブンとたくさんの車が走り抜けていった。
「あなたが過去から来たということは未だに信じがたいのですが、そうですね。ここが2040年の我が国をもっとも象徴する都市を見渡すことのできる場所になります。」
そう私の隣にいた永井愛が答えた。
しばらく、景色を眺めていたが、空飛ぶ車とか、子供の頃に想像していた華々しい未来が、まだまだ実現されないのだと思うと、すこし残念な気もした。
「でも、先ほどの道路もそうでしたが、車がものすごいスピードで走っていましたね。やはり車の性能なども格段に上がっているのでしょう。とりあえず一度、乗ってみたいものです。」
ドライブはこちらに来る前から、ずっと好きだった趣味であったし、見ているだけで爽快なスピードに対しては、純粋な憧れもあった。
「はい?人間による手動の運転は、娯楽用を除けば、すでに30年代前半には全世界で禁止されていますよ。今目の前を走っている自動車は全て自動制御です。多発していた交通事故や一台一台が排出する廃棄ガスが問題視されて、早々と個人の自動車の運転を禁止する条約が作られることになりました。我々の国も含め、いくつかの国も反対しましたが、時代の流れには逆らえません。どうしても乗りたいのであれば、特別の免許を取得して、郊外にいけば、国内でもドライブを楽しめる場所もあります。それか、まだインフラが発達していない国にいけば、車にのるしかないですし。」
「なんと、それは残念だな。」
とは言え、自動運転は自分のいた時代にすでに実用化が進んでいたし、そこから20年以上も経てば、そういうことになるのも容易に想像できた。
「それにもともと、今使われている主な自動運転の技術自体は2010年代の後半からすでに完成していたのですよ。」
「自動運転の一番難しかったことは、人間のヒューマンエラーも全て含めて、自動で走る車が問題なく走る社会にすること。つまり人間の活動がある状態、つまり人間の歩行者や運転手がいる社会の中に、自動運転を紛れ込ませること。人間が見るための標識を自動で認識しながら、一方で人が標識を無視、読み間違えることを考慮したり。でもよく考えてみてください。」
息を吸って、彼女はさらに続けた。
「それらは本当に考慮する必要がある事なのでしょうか。それは人間が運転をしない事ですぐに解決することではないのでしょうか。機械のバグであれば、すぐに直すことで改善することはできます。でも人間の判断ミスというバグはなくなることもありませんし、全て網羅することもできません。そして、ついに自動運転にとって一つの大きなきっかけとなる出来事がありました。」
「それが、「テックシティ(Tech City)」の登場です。」
彼女は私に向けて手の平を軽く私の方に向けた。すると、ヨーロッパのような風景がそこに映し出された。
「もともと、都市の人口密集に対する対策として、都市機能移転計画というものは世界各地にありました。古くは大ロンドン計画などを始めとして、主張されてきましたし、日本各地でもニュータウンという名前で開発が進みました。でも、どれもうまくいなかった。それは、もともとの人口集中都市の機能そのものが移転しなかったから。日本のニュータウンも都市部で働く人にとってのベッドタウン機能と成り下がりました。でもテックシティは違いました。」
「まず、はじめに、ここでは実験的な側面もありはしましたが、都心での自動車の手動による運転が禁止となりました。廃棄ガス問題への対策として、都心での自動車の規制というのは各国で実施されていましたので、当時あくまで、世間ではその延長上と捉えられていました。」
「ただ今までとは違ったことがありました。まずは、都心部において、人間と車が三次元的に住み分けされたことです。車が走る道路部分。その上を覆う形で、歩道が各建物をつなぐ形で整備されました。」
彼女の映し出す、ホログラムに都市の設計図が浮かび上がる。彼女の説明に合わせて、町の様子が鮮明に映し出されていく。
「そして、もう一つが、自動運転タクシーの導入です。言ってしまえば、それはドアからドアを直接つなぐ公共交通機関のようなものでした。各地にかつてのコインパーキングのような形で地上や地下に車が各所に整備されます。それを専用のアプリケーションを使い、呼び出すと、一分もかからずに乗り物があなたのもとへ到着します。そして、目的地を地図上で設定すると従来とは格段に速いスピードで目的地まで連れて行ってくれます。そして、乗り捨てられた乗り物は、補充されるべきベースへと戻っていきます。」
「この二つの要素が集まったことにより、従来の都市部の様子とは大きく変わっていきました。」
「まず人は一階部分を歩くことは基本的になくなりました。そしてビルや建物の玄関は基本的に二階に作られるようになっていきます。次に道路から、横断歩道はもちろん、信号や標識などもなくなっていきました。なぜなら、自動制御された自動車間にはそのようなものが必要ないからです。」
「そして、最大の功績とも言えますが、交通戦争と揶揄されていた、交通事故による死傷者が激減しました。当然、機械の故障による事故は起きますし、当時は誰が責任を取るべきなのか論争にもなりました。他にも人間の飛び込みなど、予期せぬ事態による事故も当然ありました。でも、公共交通機関としての整備がすすむともに、そちらも法整備が進み、今ではだれもが受け入れているものとなっております。」
「この移動インフラが確立されたことにより、このテックシティは爆発的な盛り上がりを見せます。世界中から、ネットを通じて、リアルタイムで様子が取り上げられていきました。」
雪崩のように、押し寄せてくる新しい情報を全力で整理しながら、私は確かめるように彼女に言った。
「その流れで世界中はテックシティのようにどんどん作り変えられていったのかい?」
「そうです。ただ、このインフラ整備を持ってしても、都市部の機能を移転するだけの力はありませんでした。なぜなら利便性というものは、目に見えない付加価値だからです。都市機能集中の大きな一員でもある企業にとって、単純なコストという面では、まだ移転するだけの価値が見いだせなかったのです。」
「そこに現れたのが、あたらしい形でインフラを提供する企業でした。そのサービスが企業や個人のコスト面で、都市に移転する莫大なインセンティブを作り出すことに成功したのです。」
「へえ、それはどんな企業なんだい。」
「それは実際に提供するインフラを見た方が早いでしょう。一旦私の家に戻って、夕ご飯でも食べながらお話しましょう。」
「それはありがたい。ぜひ、お願いしたい。」
私は空腹でなりそうなお腹を押さえながら、すたすたとエレベータに向かう彼女の後を追いかけていった。
ありがとうございました。