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柴犬とコーヒー

作者: 神谷深月


ベランダから追いかけた後ろ姿がまだ

坂の下で立ち往生している。


西日に細められた交差点に、

少し猫背なマスタード色のシャツを捉える。

ゆるくウェーブした黒髪が艶めいている。


あの人はあの日のまま、

まだこの街から帰っていない。



ーーーーーーーーーーーーーー



あの人がじゃあまたとドアを閉めてから、

まだまたは訪れていないけれど、

私の部屋にはあの人の好きなものが

こっそりとディスプレイされている。


あの人を思いたい部屋にやってきたのは

全く別の人で、

新しい私の恋人。


今では新しい彼からの贈り物で溢れている。

今の彼は確実に、今までで一番素敵な人だ。


それなのに、

最低なあの人はまだ居座っている。


早く、追い出さないと・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーー



この薬指に魔法をかけて

時間を巻き戻したら、

指輪が現れる。


私は過去を気にしない。



液晶ディスプレイに浮かぶ

「み」からのメッセージ。

あぁきっと、女の人だ。


私は今にも干渉しない。



「実家に遊びに来てほしい。

軽い気持ちで大丈夫だよ。」

深い意味なんてきっとない。


私は未来を求めない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



確かめたいこと、

確かめたくないこと、


不器用な心は上手に処理できずに、

心臓の奥の方へ積み重ねられ、

重々しく拍動する。


見えるものだけ、聞こえるものだけ

信じていようとしても、

その裏側を想像しては闇に落ちる。


あんなに温かいと感じたのに

こんなに好きだと感じているのに

それを信じればいいのに

いつかやもしで陽の光は遮られる。


気まぐれに照らす歪んだ眩しさが

私の行くべき道を惑わす。


「今日も空いてないです」

「じゃあまた今度。空いてる日あったら教えて」


あの人の存在は、

不安を誤魔化すのにちょうどいい。


「わかりました。また今度。」


でも、不安を取り除いてはくれない。



そう、気づく。




交差点の信号を渡るあの人は、

ゆっくりと駅の方へ消えていった。


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