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スキル〝羊飼い〟

私の目の前には一人の女性が立っています。

背丈は高く、プロポーションも素晴らしい。顔立ちも素晴らしく、熱を感じる程に魅力的。眩しい位に白い肌も、蕩ける様な甘い金の髪も、熟れて今にも弾けそうな苺のように大きく柔らかな瞳の色も。

全部が全部美しい、そう意識して作られた美しい女性の姿。尚、中身は男でした。


と言うよりもこれこそが私をこのゲームに誘った友人である姉崎和樹、──もといこのゲームではアーデルハイトです。

なんとも化けた、と言うよりも、性格的に見ればこちらの姿の方が違和感はありません。元々の彼は、……止めておきましょう。気が付いたら東京湾にコンクリ詰めで沈められる、なんて未来の可能性は少しでも消しておきたいので。


「はぁいドゥムジ、なんとも珍妙な職業を引いたみたいね」

「珍妙とはご挨拶だな、私の愛しいはまるんを見てそんな事を言うとは常識を疑うぞ」

「……ネーミングセンス(笑)」

「ジャンガリアンハムスターに「公太郎」と名付けた姉さんに言われたくない」


ネーミングセンスについてともかくとして、こうして姉さんと合流できたので次はどうするかを決めるべきでしょう。

此処はこの世界の先輩であるアーデルハイトに決めて貰うとしましょう。流石に右往左往している私を前にして無理難題や頓珍漢な事は言わないと思いたいですね。まあ、いきなり戦闘だぜヒャッハー!! とテンションマックスで暴れる可能性は0ではないので警戒は必要ですが。


「ところでで姉さん、合流したけどこれからどうするつもりなの?」

「むしろソレは私の台詞よね? 最初に話してた通りにストレス発散にモンスターぶっ飛ばそうって言うには貴方の職業頼りないし、かと言って生産職と言うには、……ちょっと特殊過ぎて私の手に負えないもの。むしろ私は貴方がどうしたいのか聞いてソレに合わせるつもりだったのだけど?」

「えっと、急に言われてもやりたい事はないかな?」


まあ、強いて言うならはまるんを愛でたい、ですかね。

その毛の柔らかさを堪能し、最後は布団にして眠ってしまいたい。このふわもこした生き物を隅から隅まで味わいたい。

正直言うならお肉の味にもちょっと、ほんのちょっとだけ興味がありますが、それは流石に洒落になりませんし。……ラムもマトンも美味しく頂きますが、そういう目で見るべき対象ではないと言いますか。これは現実でお腹が減っているからですね。……ああ、そう言えば。


お腹が空いていると言えばはまるんは何を食べるんでしょうか?

やっぱり羊らしく草でいいんでしょうか、それともゲームらしくサラダとか作る必要があるんですか?

その辺りはまた調べるとして、とりあえずまずは食べ物を探してあげるのもいいかもしれませんね。


「はまるんのご飯を探したいけどいい?」

「もちろんよ、ファミリアの世話を真っ先に考えるのは眷属持ちにとって当たり前の事でしょうし、……羊タイプなら外に生えてる草でいいんじゃないかしら? 似たようなモンスターがそこらの草を食べてるの見た事あるもの」

「そう、ならまずは外に行こうか。……あ」


ふと思いついてはまるんの背中に乗ってみます。私が小柄だからか、それとも一人乗った程度ならまったく問題がないのか、はまるんは不思議そうに首を傾げるだけで極々普通に歩けるようです。……それにしても、この感触は凄いです。

人が駄目になるクッションをお試した時の同じ気分です。なんだか匂いも凄く気分が良くなります。はふん。


「……何してるの?」

「お構いなく。はまるん、この人についてってね」

「めぇ」

「……羊に寝転がってゆる顔曝したちびっこ引き攣れるとかどんな羞恥プレイだよ、おい」


アーデルハイトが何かぼそりと言った気がするが気にしません。というか男成分が出てますよ。

そんな事よりもはまるんのふわもこが気持ちいいのです。……あと、私はちびっこではありません。ちゃんと150はあります。



人々の奇異の視線を潜り抜け、私達は噴水広場から一番近い北側の門から抜けて外へと足を踏み出しました。

牧歌的な光景が平がるそこは、所謂農場が広がっていて、整備された道を少し外れると小麦が植えてあり、それが風に揺れるとキラキラと輝いているように見えます。その中をうずらのようなモンスターが飛び立っていく光景はなんとも長閑で実にいい。草を食む牛の姿もなんというか癒されますね。


まあ、それはそうとここら辺にははまるんが食べれそうな草はないようで、はまるんは草を前にしても微塵も反応がありません。食べないかと適当に引っこ抜いて顔に近付けても、嫌そうに丸くなって転がるだけで口にはしませんでした。その動き可愛い。


「草原地帯は此処を少し抜けた先にあるの。けどその辺りからはもうモンスターがポップするから気を付けてね」

「問題ない、喧嘩は苦手だけど多分勝てる」

「あんた今武器もないのにどうやって戦うつもりなのかしら? というか羊飼いのスキルって何なの? もし強力なスキルとかあるのならめんどくさい条件があっても戦略に組み込むわよ? あんたも戦わないと経験値入り辛いし」


そう言えば、この職業のスキルの確認はまだでしたね。

はまるん可愛さに忘れていましたが、もしかしたら結構戦い向きのスキルかもしれません。なんて、ちょっとだけ前向きにステータスを開き、………………そっと閉じました。

それを見て、なんとも言えない顔をしてこちらを見ている姉さんのジトっとした視線に根負けして、もう一度開きなおして、ウィンドウを姉さんの方へと押して見てもらいます。

その途端、なんとも言えない顔でステータスと私の顔を交互に見た後ため息を吐いた彼、もとい彼女は、頭に手を置いてから諦めたように歩き始めました。もちろん、私も続きます。

それを不思議そうな顔で見つめながらも、はまるんはゆったりと追いかけてきましたが。──何なんでしょうかこのスキル。



【スキル】羊飼い

詳細説明:羊飼い─牧羊犬召喚、薬学、植物知識、羊知識、投石技術、神聖魔法の複合スキル─

①このスキルはMPを5消費する事で牧羊犬を一匹召喚することが出来る。召喚された牧羊犬は狼型のモンスターからランダムで選出される。又、このスキルで召喚されたモンスターはモンスターにダメージを与える事が出来ない代わりに、羊飼いレベル+1~10未満のモンスターを追い払うことが出来る。追い払えるモンスターのレベルは召喚された牧羊犬の個体差によって変動する。また、召喚されたモンスターは育成可能である。

②このスキルは生産スキル薬学と同等の効果を発揮する。ただし、通常の薬学スキルとの相違点として、生産活動時に自ら容れ物を用意する必要がある。又、生産スキルに存在する必要作業時間に対する補正値が存在せず、システムアシストは最低限に設定されている。

③このスキルは知識スキル植物知識と同等の効果を発揮する。ただし、通常の植物知識スキルとの相違点として、自動で情報が更新されず、スキルの補助アイテムである植物手帳に書き込む必要がある。

④このスキルは知識スキルモンスター知識の一部機能である羊モンスターに関する知識を閲覧することが出来る。制限はない。

⑤このスキルは投石の際に威力に極小補正が発生する。投石方法により補正値が変わり、特定の武器を使用する場合に限り小補正に変更される。又、石以外を投げた場合このスキルによるアシストは存在しない。

⑥このスキルは魔法スキル神聖魔法と同等の効果を発揮する。ただし、通常の神聖魔法との相違点として、使用できる魔法は〝ヒール〟のみである。又、この魔法の消費MPは11、回復量は22×羊飼いレベルである。クールタイムは9秒。



……とりあえず、道中で何かあるかもしれないので石だけは拾い集めておくことにしました。攻撃手段が多いに越したことはないでしょう。……後で街に戻ったらスリングでも買いますか。




【アバター】ドゥムジ【職業】羊飼いLV1

【スキル】羊飼い─牧羊犬召喚、薬学、植物知識、羊知識、投石技術、神聖魔法の複合スキル─

【装備】若草色のシャツ、ジーンズ、サンダル、羊飼いのコート

【ファミリア】黄金羊のはまるん【性格】甘えん坊、短気、感情的


2018/2/10誤字修正、内容一部削除

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