第八話:再戦
パッと目の前に現れた少年へとウサギが生き返ったことに対する疑問を投げかけると答えをくれた。
「ウサギを倒せたんだね、おめでとう。ウサギがなんで生き返るかだったよね。それはお兄さんがこの世界で死なないのと同じ理由だよ」
少年は話し始める。なんでもこの世界では時間の流れ、生や死という概念が曖昧だそうだ。生まれることもなければ死ぬこともない。
また、生死の狭間にいるものがたまにこの世界へと来てしまうらしい。
先ほど戦っていたウサギがそれということみたいだ。
だから、ウサギは切られても死んでないし、俺も死なない。そういうことらしい。
それでも己の技量は磨くことができるため、その点で言えば初めての戦闘訓練を行うにはぴったりの場所だった。
時間の流れの部分を聞き、ふと思ったことがある。それは、お腹はすくのにトイレに行きたくはならないことだ。
普通食べたら出すはずだが、何故だか昨日から全く便意がない。便秘かなとも思ったが、尿意もないのでそういったわけではないだろう。時間が普通に流れていないというのならその影響でこういう自体が起きているのだろうと思う。
もしかしたら魔王のいる世界に行っても変わらないかもしれないが、まあ今は気にしてもしょうがないだろう。
「お兄さん、お昼の時間だけどどうする?というか、もう準備したけど」
俺が思考にふけっていると少年に声をかけられる。
ウサギと睨み合っていた間にだいぶ時間が過ぎていたようだ。
ウサギ相手にこれほど手こずるなんて先が思いやられる。しかし、お腹はすいているので腹ごしらえをしよう。
少年が用意したという昼食を確認する。
今日の昼食はスパゲッティだ。トマトソースのスパゲッティではなく、クリームスパゲッティのようだ。
ベーコン、ほうれん草、しめじ、それにカニ身が入ってるようだ。
美味しそうな匂いにやられ、お腹が鳴りそうになる。
では、手を合わせて
「いただきます」
脂の乗ったベーコンのジワっと広がる旨味。それでいてくどくならないようにほうれん草としめじでアクセントがついている。ただ、それだけではなく、カニのエキスの入ったクリームと一緒に食べることですごく美味しいものだった。
ご飯をゆっくりと味わい、食べ終わる。
「ごちそうさま」
さてと、お腹がいっぱいになったところで特訓の続きだな。
あたりを少し見回すと、いた!
さっき倒したウサギだ。
午後からもウサギと戦うことにする。なんとか簡単に倒せるようにならなければ生きていくことすら困難だろう。
そんなことを思いながらウサギを観察する。
おや?あのウサギの耳と耳の間に、小さいがツノみたいのがある。たしか《知見の目》で確認した時には種族が獣となっていたはずだから、魔物ではないはずなんだがよくわからないな。もしかしたら、アホ毛という可能性もある。…いや、ないか。
しかし、例え魔物だろうがそうでなかろうが関係ない。とにかくあいつを倒す手立てを考えるのが先だ。
あいつはウサギだけあって脚力が強い。一瞬で間合いを詰めてくるような奴だ。
そんな敵に対して有効なのは間合いの外からの攻撃。
弓などで攻撃をするのが効果的だが、今の手持ちには、剣しかない。ならば反射神経を活かして相手の初撃をかわし、カウンターを狙うしかないだろう。
そうと決まれば早速行動だ。
ウサギに近づいていく。
こちらに気づいたようだ。先ほど俺が切り裂いたからか、もの凄く警戒している。
耳と鼻をぴくぴくしながらこちらの様子を伺っているようだ。
俺も警戒しながらも腰に下げた剣には手を触れない。初撃をかわすことにまずは集中するためだ。
っ!きた。ウサギの間合いに入った瞬間一気にこちらに距離を詰めてきた。一瞬でお互いが触れ合えるほどの距離となる。
さらにウサギは距離を詰めた勢いそのままに体当たりをしてきた。
そのタイミングを見計らい俺はさっと横っ飛びをした。
かわすことばかりを考えていたため遠くに飛び過ぎた。しかもこの避け方だとカウンターを入れられない。失敗失敗。
カウンターを入れるにはなるべく最小で相手の攻撃をかわさなくてはいけない。
ウサギは、俺が避けたとみるやすぐに態勢を立て直してこちらを向く。
いつまでもただ攻撃を待っているだけではなんの進歩もない。一瞬で気持ちを切り替えると俺はウサギに横薙ぎの一撃を見舞う。
しかし、俺の攻撃をウサギは跳んでかわす。そしてそのままあのライ○ーキックで攻撃してくる。
振り切った反動で一瞬回避が遅れ、ウサギの足が俺の顔にめり込む。
俺はウサギの蹴りを受け、そのまま背中から倒れてしまい受け身すらも取れなかった。
何度も息を吸おうとしても呼吸ができず、パニックになる。
「っっ!っっ!っっっ!?」
俺がパニックになっていることで気を良くしたのかウサギがニヤリと笑ったような気がした。
俺の目の前にウサギの尻が近づいてくる。俺はウサギの尻アタックを受け、意識を落とした。
目が覚めるとウサギの尻が目の前に見える。俺に尻を見せつけるように、草を食べているようだ。
……仮にも雌のウサギなのに男の俺に尻を見せつけるのはどうかと思う。
ただ、これは屈辱的だ。ただの動物にここまでいいようにやられて情けない。
俺は寝ていた体を起こし、立ち上がる。
それに気付いたウサギだが、俺を見下しているのか鼻で笑う。
むっとするが俺はあのウサギに負けている。しっかりと現状を受け止めなくてはいけない。
俺の今までの戦いを振り返る。毎回剣を振り下ろすよりも先にウサギに攻撃されていた。俺の攻撃よりもウサギの攻撃の方が速度が速い。
今のままではいつまでもウサギには勝てない。攻撃を工夫しなくてはならないだろう。