第六話:ご飯は美味しい
チュートリアルを始めた次の日、俺はいつになくスッキリとした気分で目が覚めた。
今までなら、次の日のことをあれこれと悩みながら眠りにつくのだが、昨日は穏やかな気持ちで寝れたのが良かったのだろう。少年には感謝しなくてはいけないな。
ぐ〜〜
…俺のお腹がなった音だ。
お腹、すいたな。いつもなら朝ごはんなんて抜いても問題がなかったはずだが、高校生くらいの年齢になったからか消化するのが早くなったみたいだ。
「おはよう、お兄さん起きたみたいだね。朝ごはんの準備はできてるよ」
「ああ、おはよう。今は何時なんだ?」
いつの間にか近くにいた少年へと、ふと思った疑問を尋ねる。この場所にきてからなんだか時間の感覚がないのだ。
確かに日が昇って落ちるのでだいたいの時間はわかるのだが、細かい時間になると全く判断がつかなくなる。
「時間なんて気にしてもしょうがないよ。お兄さんが朝だと思えば朝だし昼だと思えば昼。それでいいじゃない」
「まぁ、たしかにそうなんだが、ご飯の時間がわからないのも辛いと思うんだよ」
「お兄さん、いつまでここにいるつもりなの?」
少年は呆れたような表情を見せながらそう尋ねてくる。
俺は何か間違ったことを言ったのだろうか?人としての3大欲求の一つである食について尋ねただけなので、何も呆れられるようなことではないはずだが…
もしかして、あれか?俺は食いしん坊なやつと思われてしまったのか!?
たしかにご飯を食べるのは好きだが、これだけは絶対に譲れないというほどでもない。一言訂正しておかねばならぬだろう。
「少年、何か勘違いしてるようだから言っておくが、ご飯の話をしたのは、あくまでも生きるのに必要なことだからだぞ。決して俺が食いしん坊だからじゃないからな」
「お兄さんこそ勘違いしてるようだけど、いつまでこの世界にいるのかを聞いたのはチュートリアルをいつまでも続けるつもりなのかなと思ったからだよ。それに食いしん坊ではないと主張するってことは、食いしん坊だと自覚があるんだね?」
うっ、勘違いだったのか。空回りしてしまった。
食いしん坊という言葉が頭にすぐに浮かぶあたり、俺はきっと食いしん坊なんだろう。そう自覚すれば思い当たる節はある。
俺は多忙な仕事をしていた中で何を生きがいにしていたかというと、美味しいご飯を食べることだった。
特に趣味が無かった俺は、美味い店を探すことが生きがいだったのだ。
ここにきて自分を知ることになるとは思わなかったな。
そうしみじみと自分について考えていると少年に声をかけられた。
「お兄さん、しみじみとするのはいいけど、僕の質問覚えてる?この世界から出る気はないの?」
「出る気はあるぞ。ただ、ここから出てもすぐに死んでしまうだろうからある程度戦闘に慣れるまではここにいるつもりだよ。だから、明確にいつまでいるのかはわからないな」
少年の質問に対して、今思っていることを答える。
この世界にいても何も成すことはできない。だからといって、すぐに立ち去ったところで、害意のあるものにすぐに俺が殺されてしまうのは明白だ。
たった一匹のウサギすら倒せないのだから異世界にいったらすぐに死んでしまうだろう。
だからこそ、ある程度戦闘ができるようになるまではここで訓練を積むつもりだ。
ぐ〜〜
そこまで考えていたらまたお腹がなってしまった。
「…お兄さん、ご飯にしよう。せっかく用意したのに冷めてしまうからね」
「あはは、ご馳走になります」
お腹の音を聞かれた俺は笑ってごまかすことしかできなかった。
小学生くらいの子に気を遣われる俺は本当に情けないと思う。
しかし、それとこれとは話が別で、少年に用意してもらったご飯はきっちりと食べた。日本人の朝らしく、ご飯と味噌汁、それにアジの開きだった。お腹が空いてたのもあって、ご飯ももちろんおかわりした。
……本当に俺は食いしん坊なのかもしれない。
「お兄さん、ご飯はもういいね?お兄さんがしばらくこの世界で訓練を積みたいというのはわかったよ。それとご飯もちゃんと食べたいというのも。
ご飯はしっかりと朝昼晩と僕が準備してあげるから心配しなくてもいいよ。だから早くこの世界から旅立てるように頑張ってね。それじゃ、またお昼くらいに来るね」
そう言うと少年はパッと消えてしまった。
昨日もそうだが、少年がいつの間にか消えていてびっくりする。一体どこにいっているのだろうか。きっと元の世界に戻っているとは思うけど、そんな簡単に世界を渡ることができるのか?
疑問なところはあるけど、まずは戦闘訓練からだ。
昨日はなかった《知見の目》を使ってみたい。使ったらウサギの本質というものがわかるかもしれないからな。
そうと決まればまずはウサギを探しに行こう!