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12. 調査


 十文字(じゅうもんじ) (はじめ)の帰還、それは葉月の父を襲った謎の集団の次の標的が判明した事に他ならない。

 謎の集団の指揮官と思われる西洋風鎧姿のマモノが口にした場所、葉月が耳にしたその情報を元に遂に辿り着いたのである。


「…"猫守社"、それはとある神社の渾名だった。 今じゃ使っている者は誰もなくて、辿り着くのに苦労したよ」

「勿体ぶらないでよ、始さん」

「いいから聞け、"猫守社"は隣の市の山奥にある古い神社だ」

「神社? あの紙人形たちは神社を襲っているんですか?」

「解らない。 一応その犬っころの神社と共通項を調べたが、由来やら祀っている主神や何やらは全く異なっていた。

 そもそも設立した年代も違ったからな、経歴だけ見たら共通項は神社って括りしか無い。」


 始の調査が予想外に時間が掛かった理由は、葉月の家を襲ったマモノたちが漏らした"猫守社"と言う名前が正式名称では無かった事にあった。

 それは極一部地域で以前に使われていた名称であり、その場所の正式名称は別に存在していたのだ。

 調査の難易度に拍車を掛けたのは、"猫守社"と葉月の住いである神社の関連が全く無かった事である。

 件のマモノたちは無差別でその辺の神社を襲っているのでは無く、明らかに狙いを定めて特定の神社を襲っていた。

 そのため始は当初、"猫守社"と葉月の神社には何かしらの関連性が有ると考えて、その線でも調査を進めていたのである。

 しかし始の言葉通り神社の関連性に関する調査は無駄骨に終わり、最終的に"猫守社"の名称のみで件のマモノたちの次の標的を見つけなければならなかった


「どうやら、連中はまだ"猫守社"に現れていないようだ。

 とりあえず俺は明日、その神社に行ってみる。 お前たちは…」

「あら、留守番はゴメンよ」

「"父の仇を前にして、自分は逃げることは出来ません!!"」

「えーっと、父上の仇を前に逃げることは出来ないで有りますって…」

「…まあそういうと思ったよ。 はぁ、まあ一応お前たちも家の事務所のメンバーだ。 来るからには働いて貰うからな」


 早速、件のマモノたちの次の標的である"猫守社"に向かおうとする始に、彼の弟子たちは当然のように同行しようとする。

 師匠であり保護者的な立場に有る始としては、襲撃の可能性がある"猫守社"へ弟子たちを連れて行きたくは無かった。

 しかし師匠の思いとは裏腹に弟子たちはやる気満々の様子であり、特に父親の仇に辿り着ける機会を前に葉月が黙って見ている訳も無く。

 丁度いいことに明日からは土日の二連休であり、部活に所属していない百目木たちは二日間丸々自由に使うことが出来た。

 半ば予想していた展開に始は軽くため息を零しながら、弟子たちの同行を認めるのだった。











 "猫守社"のある街は、百目木たちが住む街から電車で数十分ほどの距離であった。

 そこは百目木たちの街と良く似た、都会と田舎の中間に当る中途半端な雰囲気の場所である。

 特に目立った観光資源も産業も無く、恐らく用事が無ければ誰も立ち寄りそうも無い地味な街。

 実際、百目木もこの街の存在自体は知っていたが、実際にこの場所に来たことは一度たりとも無かった。


「あーあ、俺も"猫守社"に行きたかったなー」

「始さんは何時もそうよ。 独りで突っ走って、全部一人でやっちゃうんだから」

「"ああ、この瞬間に父上の仇が現れたら…"」

「大丈夫だって、もし連中が現れた師匠がすぐに連絡するって約束してくれただろう?」


 始と共にこの街までやって来た百目木と彼方であったが、現在彼らは師匠である始と別行動を取っていた。

 彼らの師匠である始は弟子たちを残し、単身で"猫守社"の方に向かっていた。

 そして残された弟子たちは師匠から、"猫守社"に関しての情報収集を命じられていたのだ。

 確かに自分たちは"猫守社"のことを何も解っておらず、件のマモノたちの目的を知るためには"猫守社"の詳しく調べるのは重要な事である。

 しかしどうしても師匠に置いて行かれた感が拭えず、弟子たちは若干不機嫌な様子で街中を探索していた。






 周辺の散策を指示された百目木たちは、とりあえずスマホの地図アプリ片手に歩き回っていた。

 連中、葉月を襲った例の紙人形たちの痕跡を探せと始は行っていたが、宛もなく闇雲に探して見つかる物では無いだろう。

 成果が見えないことに対して、彼らのモチベーションが下がっていくことは道理である。

 そんな時にである、気分晴らしに百目木が疑問を口にだしたのは…


「…でもまた神社か。 葉月の家といい、マモノってのは神社に居る事が多いんですね」

「ああ、そういえばその辺りの説明をまだしていなかったわね…」


 どうやら百目木の疑問の答えを、彼のマモノ使いとしての先輩である彼方は心得ているらしい。

 百目木の独り言に近い言葉を耳聡く聞きつけた彼方は、先輩らしく後輩への臨時の講座を開始する。


「百目木くん、マモノをこの世界に留めている物は何?」

「ええっと、生気って奴ですよね」

「その通り、マモノは生気が無ければ自然消滅してしまう。

 ではかつて葉月ちゃんのように、マモノ使いの下に居ないマモノはどうやって生気と言うエネルギーを手に入れていたのかしら?」

「…ああっ!?」


 それは百目木には全く思い付かなかった事であれば、言われてみれば当然の疑問であった。

 マモノ使いに使役されているマモノは、主から供給される生気によって生かされている。

 しかし少し前までの葉月はマモノである父と二人で生活しており、彼らに生気を供給するマモノ使いは存在しなかった。

 エネルギー源であるマモノ使いが居ないにも関わらず、どうして葉月たちはあの襲撃の日まで生存していたのか。


「神社、墓場、人の手の入っていない山奥、廃墟、風情の無い言葉で言うなら心霊スポットなのかしら。

 そういう場所には自然と生気が集まる物なのよ、だからその生気目当てで野良のマモノたちが自然に集まるのよ」

「へー、じゃあ葉月たちはあの神社に居たから、今まで生活できていたんですね」

「世間を騒がす心霊話の何割かはマモノが原因でしょうね。 マモノが居るから心霊スポットになったのか、心霊スポットだからマモノが集まるのか…。 まさに、鶏が先か卵が先かって所ね 」


 彼方の説明通りに神社などでマモノが存在を維持するための生気を手に入れられるのならば、そこにマモノが居ても決しておかしい事では無い。

 神社とマモノの関係を知って納得しかけた百目木であったが、そこで彼の中に新たな疑問が出てきてしまう。


「…あれ、ちょっと待って下さい。 なら葉月は神社から出てから俺と契約を結ぶまで、無事で居たんですか?」


 葉月、現在百目木の従えるマモノ。

 百目木は弟子入りの直後に師匠である始の手によって、正式にマモノ使いの主従の証であるパスを葉月と結んでいた。

 かつての葉月は神社に居たからこそ、体を維持するために必要なエネルギーを手に入れられていた。

 しかしあの紙人形たちに襲われて、住処である神社を後にした葉月はエネルギーの供給を断たれた筈なのだ。

 そこから百目木とパスを結ぶまでの間、葉月はどのような手段で生気を手に入れていたのか。


「百目木くん、あなた、葉月ちゃんに普段何を食べさせているのかしら?」

「ええっと、普段は徳用のドックフードを…」

「それが葉月ちゃんを活かしていたエネルギー源、」

「えっ、普通の食事でも生気を取り込めるんですか」

「ほんの僅かな量だけどね。 けどマモノとして未熟な葉月ちゃんを活かすには、十分な量だったでしょうね。」

 あの子がもう少し大きければ危なかっただろうけど…」


 体格が大きい人間ほど、その体を維持するためにより多くの栄養を取る必要がある。

 それはマモノも同じであり、マモノは強力な力を持つマモノほどより多くの生気が必要だった。

 逆を言えば弱いマモノであれば大した生気は必要無く、まだまだ未熟である葉月では食事を通して得られる僅かな生気だけで十分なのだ。

 彼方の言う通り仮に葉月がもっと強力なマモノであったならば、始たちに出会う前に生気切れで消滅していた可能性すらあった。

 葉月が未熟なマモノであったからこそ、こうして百目木のマモノとして今日まで生きながらえる事が出来たのである。


「…あれ、そういえば葉月ちゃんは何処に居るの?」

「えっ、俺達と一緒に居るはずじゃ…。 居ない!?」


 後輩に対するささやかな講座を終えた彼方は、そこで有ることに気付く。

 先程まで話題に上がっていたマモノの子、葉月の姿が何処に見当たらないことに気付いたのだ。

 慌てて辺りを見回す百目木たちであるが、何処を探してもあの小さなマモノ姿は見付からない。


「い、一体何処に!? まさか襲われた?」

「落ち着きなさい、百目木くん。 まずは葉月ちゃんを見つけないと…」


 百目木の脳裏につい先日の光景が、紙人形たちに襲われる葉月の姿が思い返されて動揺してしまう。

 狼狽する後輩を落ち着かせながら、彼方は建設的に葉月を見つける手段を考え始める。


「百目木くん、分かっていると思うけど、あなたと葉月ちゃんはパスでつながれているわ。

 それを辿ってあの子の居場所を探って」

「えぇ!?」

「パスの感覚を覚える訓練はしたわよね? これはそれの応用よ」

「…解りました、やってみます」


 師匠である始不在の中、意外にスパルタであった彼方の指導の元で行ったマモノ使いとしての訓練。

 そこで行ったパスを結んだマモノである葉月に対して、彼女を維持するためのエネルギーを意識的に送る方法を学んでいた。

 訓練の成果として、どうにか自分と葉月を結ぶパスの存在を感じることまでは出来るようになっていた。

 パスの感覚が解るのならば、その先に居る葉月の場所を辿れるのは道理である。

 百目木は葉月の居場所を探るため、意識を集中して自らとマモノとの繋がりを見出そうとした。



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