第4部 真実
突然、携帯電話の着メロが鳴り出した。画面に菜穂の名前が映し出されていた。真理亜は通話ボタンを押す。
「菜穂?」
「あ、真理亜。もう落ち着いた?」
「うん・・・・・・」
真理亜はまだショックを受けていた。身体が崩れてしまうほどの大きさだ。
「何か用?」
「うん。真理亜を元気づけたいと思って夜に一緒に出掛けない? 隆雄くんも来るけど」
真理亜は菜穂の誘いに乗るのか迷った。
「8時までに西公園に集合だけど」
菜穂が私のことを心配しているのか。
真理亜は彼女に感謝した。
「ありがと。でも今日は隆雄くんと楽しんできて」
「・・・・・・わかった。じゃあまた明日ね」
携帯を閉じた真理亜。
「菜穂・・・・・・」
菜穂と真理亜は小学生の頃からの付き合いだ。小学生入学のときからずっと一緒であった。よく遊んだし、よく相談し合った。お互いに悲しいことがあれば慰め合うこともあった。
真理亜にとって菜穂は大事な友達だ。
「やっぱり行こう」
真理亜は携帯電話の液晶モニターを開けた。メールボタンに指を伸ばす。
『やっぱり行く。8時に西公園で』
メールを送信した後、真理亜は静かに約束の時間を待っていった。
午後7時40分。
約束の時間が近くなってきた。
菜穂は親に、本屋で問題集を買ってくる、と嘘をついて家の外に出た。
集合場所の公園までは歩いて10分もかからない。
先ほど真理亜からのメールで一緒に行くことを聞いて菜穂は喜んでいた。
「真理亜、元気になればいいのにな」
菜穂はとてもウキウキとした気分で公園に向かっていた。
その頃、隆雄は公園近くの公衆電話の前にいた。片手に携帯電話を持って菜穂にメールを送ろうとしていた。
すると彼の背後に何者かがいた。彼はそれに気がついて後ろを向く。
相手の姿を見て言葉を漏らした隆雄。
「お前・・・・・・」
真理亜は2人よりいち早く公園にたどり着いた。腕時計で時間を確認する。
午後7時50分。まだまだ時間に余裕があった。
「早く来すぎた」
とりあえずベンチに座る真理亜。
すると隣に誰かが座ってきた。真理亜は菜穂かと思って振り向いた。
だが彼女ではなかった。なぜならそいつは真理亜の腕にナイフを刺してきたからだ。菜穂にはあり得ない。
では一体誰が?
彼女の腕から多量の血が吹き出ていた。
真理亜はそいつの顔をしっかりと視界に収める。だが彼女の目の先にナイフの刃が迫っていた。
夜空に真理亜の悲鳴が響いた。
場所は公園からだ。
「真理亜!」
菜穂は全速力で公園に向かう。公園に着くと真理亜は何者かに殺されていた。「そんな・・・・・・」
真理亜の目にナイフが深く刺さっていた。おそらく脳まで届いているだろう。 菜穂は真理亜に近寄り、身体を揺する。だが彼女は2度と起き上がらなかった。
菜穂は今自分の目の前にいる者に怒りを表した。
「よくも真理亜を・・・・・・」
菜穂は犯人の顔を見て言葉を失う。
「嘘でしょ・・・・・・」 何と菜穂の前にいるのは、隆雄であった。
隆雄は狂気の目で菜穂を見つめていた。
「どうして? 何で隆雄くんが?」
隆雄は怒りを混じりながら答えた。
「お前を早く目覚めさせるためだ」
「どういう意味?」
隆雄は不気味な笑顔を浮かべ答える。
「彼女が全てを知っている」
そういって彼の横に現れたのは、尚美だった。
「尚美」
菜穂は尚美に近寄る。
「どうして真理亜を殺したの!? 何で優も殺したの?」
「いい加減にしてよ」
菜穂にはこれがどういう意味なのかがわからなかった。
「どういう意味?」
すると尚美が妙な質問を返す。
「じゃあさ、あなたは私が誰かわかるよね?」
「ふざけないで!」
「いいから、答えて」
菜穂は腹のそこから沸き上がる怒りと共に言った。「照沢尚美! あなたの名前は尚美よ! いつめいじめられていた落ちこぼれよ!」
「違うよ」
尚美は菜穂の耳元に近寄り、こっそりと秘密をばらすような言い方をした。
「私はあなたの分身なの 尚美という私は存在しないの」
尚美の顔が離れる。
「あなたが存在しないってどういうこと?」
「私はあなたって言うことなの」
菜穂にはわけがわからなかった。尚美は続けて答えた。
「尚美、つまり私はあなたによって想像された人物で、あなたは私のように自殺したの」
「よく意味がわからない」 尚美はクスクスと笑い出していた。
「それもそうよね。本当のあなたはいつもいじめられていた。全員からね。全員。そしてあなたは、1人でいるときで自分が持っている理想を想像の世界で作ったの。それがここ。あなたの頭の中だけの世界だから、何でも想像ができた。だからあなたは昔仲良しの人をこの世界で作り出し、さらには私も作り出して、想像の世界であなたの身代わりとなっていた。想像の世界で作った友達と散々私をいじめた。
悲しい話よね? 想像の世界だけで自分の理想を掴むなんてさ」
ここが私の想像の世界?「もちろん、あなたには恋人はいない。隆雄くんはあなたの片思いの相手。あなたは隆雄くんにいじめられても平気だった」
そんな。
菜穂は自分の記憶を呼び覚ました。
菜穂は複数の同級生がタバコを吸っているところを目撃し、それを先生に告げ口をしてしまったため、周りからひどいいじめを受けるようになる。
主犯は真理亜。昔仲良しだった菜穂を簡単に苦しませた。
だから菜穂は頭の中で自分の理想を作った。
だが現実に耐えることができずに自殺をした。それ以降は自分の想像の世界で生きていたのだ。
それは死んだことに未練があったから。自分が死んだ記憶がなかったのは、未練の現れだ。
しかし疑問が生まれる。なぜ真理亜と優は殺されたのか。
それはすぐにわかった。隆雄が人を殺したのは、菜穂自身がこれからやり遂げたいことを、自分の想像の世界で無意識に作り出していたのだ。
菜穂は全ての真実を知った。いつのまにか目の前の世界が消えた。そして彼女は霊体となって現実の世界に降り立った。
今、彼女の前には真理亜の家が見えた。
菜穂は怨霊となった。
今までの苦しみを晴らす。
「皆殺してやる」
菜穂は真理亜の家の中に忍び寄った。
気づくと菜穂は外にいた。そして彼女の足元に真理亜の亡骸が横たわっていた。
菜穂は歓喜した。
彼女の復讐がこれより開始された・・・・・・。