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第2部 前触れ

次の日。

尚美の同級生たちは普通に学校に出かけた。まるで彼女が死んだことを忘れたかのようだ。もはや誰1人として、尚美のことを口にしなかった。彼女は過去の人物として生徒たちの無数の記憶の中に呑まれていった。


菜穂、真理亜、優は学校からの帰り道でべらべらと喋りながら歩いていた。

その会話の中でも誰も尚美のことを口にしない。唯一真理亜が言ったのが、葬式ウザかった、ぐらいのため口だけで後は何もなかった。

「ねえ、この後どうする?」

優が2人に尋ねる。最初に答えたのは真理亜。

「買い物行こうよ。近くのアーケードに行ってさ」

優は賛成するが、菜穂は浮かない顔をしていた。それを見た真理亜。

「菜穂、どうしたの?」

菜穂は正直に答えた。

「ごめん、今日は隆雄くんと一緒にデートの約束をしちゃって」

最初は何を言われるか不安だったが、2人は笑顔を浮かべる。

「なんだ、デート? 頑張りなよ!」

「彼氏に振られないようにね!」

そう言っている2人。

「本当にごめんね」

「いや、いいよ」

「頑張れよ」

3人は公園の前で別れていった。菜穂は2人が去ったところを見届けた後、さきほど彼氏から送られた待ち合わせの場所に向かった。 近所の本屋。店の前で菜穂は彼氏を待つ。

数分後。

「菜穂」

男性にしては落ち着いた声であった。振り向くと菜穂の彼氏である尾崎隆雄が彼女に手を振る。

「隆雄くん」

菜穂は喜びを噛みしめながら、隆雄に近づいた。

「ちょっと、遅かったね」「ごめん、部活から抜けるのに時間がかかってさ」

2人はそこで笑い合う。

「じゃあ行こうか」

隆雄が積極的にデートを進める。彼は何でも積極的であった。菜穂と隆雄は同じ学校で同じバドミントン部。菜穂は彼と同じ学年のためよく一緒に練習をしていた。それがきっかけで彼とは友好関係になり、そこからの付き合いが積み重なり現在に至る。

はっきりとした恋人関係ではないが、それでも菜穂は満足していた。

2人は近くにある若者向けのブティックに入った。若者が好むと言っても女性向けの店だが。

菜穂は入ってすぐにアクセサリー売り場に向かった。

「あまり高いのは選ぶなよ」

「わかってる!」

彼女は物色を始める。どれも手頃な値段でデザインがよかった。

「決まったかい?」

「うん、これ」

菜穂が選んだのは、ハートの形をしているキーホルダーだ。証明の光でシルバーに輝いていた。

「600円。いいよ」

隆雄は彼女が選んだキーホルダーを受け取り、それをカウンターに持っていき支払いを済ませる。

「はい、これ」

隆雄は袋に包みこんだキーホルダーを尚美に渡す。「ありがとね」

「俺のときは何か買ってくれよ」

「どうしようかな」

2人は店を出た後、一緒に通りを歩きながら会話をした。


それから1時間後。

2人は近所の公園にいた。ブランコに乗って楽しげな会話を続けていた。

すると、隆雄は自分の腕時計を見た。

「ごめん。俺そろそろ帰らないといけない」

「じゃあ、またね」

「おう、また学校で」

そこで2人は別れた。菜穂は自宅へと向かう。

彼女は自宅の帰り道で笑顔を浮かべていた。もはや彼女は隆雄に夢中であった。だが菜穂は笑顔を浮かべるのを止める。

それは後ろから何者かの気配を感じたからだ。

菜穂は恐る恐る後ろを振り向いた。

「!」

彼女は言葉を失う。なぜなら、彼女の目の前に死んだはずの尚美がいたからだ。

尚美の顔はとてもじゃないほどボロボロだった。半分腐っているように見えた。

そんな彼女の腐った唇が動いた。

「私のことを覚えているのね?」

菜穂は恐怖で身動きが取れずであった。すると尚美が思いがけない言葉を発した。

「今日から人を殺すからね」

そう言った後、尚美はまるで幽霊のように消え去っていった。

菜穂はようやく体に自由が聞き始め、自宅に逃げるように駆け込んでいった。 これがまさか、彼女自身の人生の前触れになるとは誰も知りよしもなかった。

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