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Sechs.視察2

 この世界の艦船と海戦術は、色々とおかしな方向へ発展している。それが魔法の無い異世界からやって来た僕の意見であり、それを聞いたレーダー提督やその他有識者達の総意だ。


 例を挙げて説明してみよう。


 まずは海戦術についてだ。この世界の海戦は、一に衝角二に衝角、三に衝角四に衝角と衝角攻撃に終始している。砲火器はあくまでも小型船を追い払う物に過ぎず、巨大な船体で敵の船体を叩き割る事が最も良い攻撃方法だとされていた。


 そしてその攻撃を最も効率良く実現する為に、艦船の形も妙な方向へと発展して行く。艦の尖端はドリルのように鋭くなり、貫通力を高められた。破壊力を生み出す為に、敵の衝角攻撃を回避する為に速力が異常なほど速くなった。


 その原因は、勿論魔法――敷いては魔導の存在だ。魔導があったからこそ、この世界の艦船や海戦術は変な方向へと進化して行く事になった。


 魔法や魔導の中には、障壁魔法という物理的な障壁を展開する物がある。魔力の消費こそ激しいものの、展開している間は外側から与えられるありとあらゆる物理的な現象を食い止めるという反則的な魔法だ。


 魔導機械を人の魔力で動かしていた内は特に問題にならなかった障壁だけど、魔導の発展によって魔蓄金属――魔力を溜める事が出来るタンクのような金属が生まれ、使用出来る魔力が爆発的に増えた事で一気にその存在感を増した。


 障壁によって砲弾が防がれるようになった時代、それを打ち破る為の手法が研究された。様々な方法が研究された中で、最も効率が良いとされたのは、導材という魔力を通す為の素材の限界を超える量の魔力を流させる――障壁に強大な負荷を掛ける事だった。


 海の上でそれを実現するには、超巨大な砲を積むか、艦船という巨大な質量をぶつけるという二択があった。そして実現しやすい方を実用化した結果、火砲は衰退し、艦船は歪な成長を遂げ、艦隊突撃ドクトリンという突撃戦法が世に跋扈する事になった。


 それによって生まれた最初の戦艦が、グラトニア帝国の戦艦ドレッドノート――奇しくも地球の大英帝国が生み出したドレッドノートと同じ名前の戦艦は、艦隊突撃ドクトリンを遂行出来る初の大型艦としてこの世界に誕生した。


 以降、世界中の国がドレッドノート以上の艦を建造するようになり、建艦競争が加熱した。それによって生まれた大型戦艦を、現在のフライハイトでは旧弩級戦艦と称している。


 しかし、僕から地球の海上戦闘の話を聞いたフライハイトの技術者達は、それを打ち破る新たな物を何故かいとも簡単に生み出した。大口径の砲にしか搭載出来ないけど、障壁に対しては確かに有効な魔導兵器を。


 対障壁砲弾アンチ・バリーレ・シャーレ――A-BSである。出来るなら作ろうよ。試作だけでもしておこうよホント。






「撃てーいッ!」


 土人の技術者が叫ぶと、左側にある六十口径C型ZNDZ砲が爆裂音を轟かせた。そこから吐き出された砲弾は右側に展開されている薄緑色の障壁に食い込み、暫く拮抗した後に貫通する。


「おぉ、貫通した」

「うははっ! どうですどうです、遂に成功したんですよぉぉぉっ!!」


 試射が成功した事がよっぽど嬉しかったのか、土人の技術者は飛び跳ねて喜びを顕にしている。もう艦に積んであるんだからに試射は済ませてある筈だけど、そこまで嬉しそうにされると、何だか僕まで嬉しくなってしまうから困る。


「やりましたね」

「本ッ当に苦労したんですよ、この小さな口径に対障壁魔導回路を組み込むの! 何年掛かったと思ってるんですか!!」


 この技術者が言う通り、今までの対障壁魔導回路は三十センチ以上の大口径砲にしか搭載出来なかった。砲弾内部に仕込まなければならない魔導回路が巨大な為、どうしても肥大化してしまうのだ。


 その為、大口径砲を積む事が出来ない中型以下の艦は砲撃によって敵艦を屠る事が出来なかった。基本的に障壁の効果が及ばない水面下を走る魚雷という兵器はあったものの、手数の面で火砲のそれには及ばなかった。


 しかし、この砲弾が実用化された今、中口径砲を搭載出来る重巡洋艦は、魔導障壁を持つ艦に対する大きな攻撃力を得た。これからは、巡洋艦の速度と高い砲撃力を持つ重巡洋艦が脚光を浴びる事になるだろう。今度総統に進言しておこう。


「我々の悲願達成ですよ! もう何も思い残す事はありません!! 今なら死ねます!!!」

「いや死なないで! 死なないで下さいっ!!」


 興奮のあまり何時の間にか持っていた金槌を自らの脳天に打ち込もうとする技術者を止め、次の研究成果の所へ案内してくれるように促す。途轍もなく有能なんだけど、極端なのがこの国の技術者の玉の傷なんだよねぇ……。


「うぅぅっ……さて、次の成果ですね。此方です」

「ほうほう。これはあのエンジンですか」

「その通りです! 新型戦艦に搭載した機関を参考に再設計し、小型化に成功したんですよ!」


 次に技術者が示したのは、高さ一メートルほどのエンジンだった。以前に見た時と比べて高さが抑えられていて、代わりに全長が少しだけ長くなっている。基本的な構造も、以前の物とは大分変わっているようだ。


「前の機関はどうしても縦に長くなってしまうのが欠点だったのですがね、思い切って気筒数を半分にしたら意外と上手く行きましてね。馬力は下がりましたが、それでもまだ一万二千馬力はありますよ!」

「ふむ……片舷それだけあれば十分でしょう」


 寧ろこの大きさに一万二千馬力もの力が詰められている事が驚きですわ。流石魔導、訳が分からない出力を生み出す魔法のエネルギー。


「でしょうでしょう! これだけの馬力があればもう何も怖くありませんよ! 小型船舶なら十分な速度で動かす事が出来ます!」

「はいはい落ち着いて下さいね」


 またもやぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ技術者を宥めながら、新しい機関を眺める。この形の機関が生まれてからまだ四年しか経っていない筈だけど、本当に良く此処まで発展した物だ。


 昔の推進機関や動力機関は、それはそれは力技で動かしている物ばかりだった。どうして巨大な船舶や人のいる場所を走る車を、魔導で生み出した風を噴射する事で動かそうと思ったのか。本当に訳が分からなかった。


 パワー自体はあって、戦艦であるヴェンデルスが五十ノット近くの速度を出せていたりしたけど、魔力の消費が激しかった。現在の機関ではヴェンデルスで四十ノット程度しか出せないけど、燃費は大分改善されて、航続距離や戦闘効率は段違いに良くなっている。


 それに、風を噴射する事で推進する機関も廃れた訳ではない。現在は魔導噴射機関というジェットやロケットに似た何かとして、至る所で利用されている。そう、例えば航空機とかね。


「これで最大のネックだった機関の大きさが改善されました! これで例の兵器の開発は大きく進みますよぉ!」

「ハハハ……あまり無理はしないで下さいね」


 確かに例の兵器が完成すれば、大きな戦力になる事は間違いない。だけど、開発する研究者が無理して倒れると研究すらも進まなくなるから、体は大事にしてもらわないと。


「あっはっはっは! この私が! 病に! 倒れる! 研究を続ける限り、そんな事はありえませんよ!! あっはっはっはっは!!」

「…………」


 大丈夫かなぁと、僕はこの時、心の底から思った。

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