13につかれた男
ある男がいた。
男は、13という数字を異様に恐れていた。
不幸の数字、13――。忌み数と呼ばれるものの一つである。
宗教・神話において。
キリスト教における、それは裏切り者の数字。
最後の晩餐で、キリストを裏切ったユダが座った席順。
北欧神話における、望まぬ来訪者の数字。
12人の神々の宴に乱入してきたロキという13人目の招かれざる客。
現実において。
triskaidekaphobiaという、13恐怖症と呼ばれる英単語。
処刑台を意味する、13階段(戦後日本)。
エレベーターのボタンに13が存在しない、不幸避け(西欧・欧米)。
アポロ13号打ち上げ失敗。
挙げればきりがない、不幸を齎す呪われた数字。
男はそれを恐れ日々を暮らす。
朝目覚めた。
13日が始まる。
寝坊して、会社に遅刻した。
これはきっと今日が13日の金曜日だからだ。
おろしたての財布を落した。
これはきっと、13万円財布に入れていたからだ。
商談に失敗した。
13階での商談だったから失敗したんだ。
適当に買った昼の弁当にきらいなものが入っていた。
13時に買って食べたからだ。
今日もまた、上司に一人で残業することを命じられた。
13課なんてところに配属されているからだ。
古い友達から旅行の誘いが来た。
行きたかったが断った。
よりによって来月13日だったから。
今日は息子の13歳の誕生日。
祝ってやるべきだろうが……。
当然祝わない。
家に着く。
誰もいない。
さすが13日、とどめはこれか。
13日、まさに不幸の一日だった。
彼は床に就いた。
全て13のせいにして、自身の行動を省みない男。
不幸を自ら引き寄せてるとは気づけないでしょうね、きっと。