空の布団
ちょっと試したいことがあるので、ライト風の話を書くことにしました。
「こりゃ、いい加減に起きんか、もう明けとるぞ」
夢と現の間際、眠りの一番気持ちのいい頃合いはいつもの嗄れ声に妨げられてしまいました。目覚まし時計が鳴る時刻までまだ一時間以上あるけれども、相手は強情な爺さんですから狸寝入りしたところで無駄でしょう。叩き起こされた斎木梛 周は、おはようと言うよりも先に不満足な眠りを訴える欠伸をしてしまいました。
「お前も春から高校生というのに、こう寝呆助では先が思いやられるわい」どうにも仕方のないそれもお年寄りには目に余るのか、少し呆れながらいいます。
「いつもじいちゃんが早すぎんの。ほら、父さんと母さんだってまだ寝てるくらいなんだから」
寝間の奥と手前で休む父母は、周が起きたのを感じてはいるようですが、寒ければまだ冬を思い返すほどの時候ですから、いま少しは夢現を行き来しているようでした。
「じゃあ、新聞持ってくるよ」
「うむ、頼む」
寝具一式を静かに畳んで寝間を出ようとする周の足下、襖障子と一等近いところに、もう一式の布団が敷かれてありました。その敷き布団はまるで使われた跡もないように皺一つなく折り目もしっかりとしていて、掛け布団は入りやすいように隅が折り返されているのに、奇しくも枕だけがそこにないのでした。