特別編 もしもの話
これで終わりとなります
拙い文章ですがよろしくお願いします
初夏。
例年より曇天だった梅雨も明け、俺にも数ヶ月遅い春がきた。
大学のコンパに誘われて、渋々ながらついていった矢先の出会い。
彼女は太陽の下で咲く向日葵のようだった。
意を決して、彼女にアタック。話題は俺の学んでいる音大について。すると彼女は私、声楽科なんです。と仰ったじゃありませんか。そのまま、音楽についてとか、誕生日はいつだとか、取り留めもない話をした気がする。
かくして俺、井ノ原光太郎は彼女、藤宮優未の誕生日にデートする約束を掴みとった。
夏休みに入り、蝉の声と若者たちの喧騒が競うように、夏だ夏だと教えてくれる。
とある駅前、緑豊かな青葉の並木のベンチに座り、藤宮さんの到着を幸せ半分、不安半分の面持ちで待っていた。
若干暇なので、スマホでも弄ろうかなと思ったが、熱心にスマホを弄ってる姿を見られて根暗な奴だと思われたくない。名前のように明るく生きたいのだ。
そろそろ待ち合わせ時間十分前という頃に、彼女は駆け足でやってきた。
「ごめんなさい。お母さんに男の人と出かけるって言ったら、お母さん張り切っちゃって……お洋服選ぶのに時間かかっちゃった。……待った?」
「待った」
本音を告げる。
「うぅ〜そこは俺も今来たところ。っていうのがセオリーでしょっ」
藤宮さんは淡い薄紅色のチークをしてるであろう頬を、ぷぅーっと膨らませる。その仕草はとても愛おしく、俺の心を優しくなでる。
「でも、その薄桃色のワンピース、俺は似合ってると思うよ。俺の主観でしかないけど」
恥ずかしかったが言わずにはいられなかった。噛まずに言えてほんとよかった。
「あ……ありがとう…ございます」
…………。
お互いが赤くなった顔を悟られないように視線をそらす。
しかしこのままでは俺のデートプランに支障をきたす恐れがある。仕方ないので、デートの最後に渡すつもりだった誕生日プレゼントをいま渡して、空気の循環をはかろう。
俺はおもむろにバックの中から、長方形の赤と白のチェックのラッピングをした箱を取り出す。
「あの…誕生日おめでとう」
「えっ……これ…私に?」
「そりゃね。俺は、自分へのプレゼントを、わざわざ包装紙でラッピングするほどナルシリズムは強くないからね」
「…ありがとうございます」
藤宮さんは遠慮がちにプレゼントを受け取る。
「開けてもいいですか?」
やっぱりそうきたか。自分のセンスが問われる誕生日プレゼントを、目の前で開けられるというのは、めっさ恥ずかしい。
「開けてもいいけど、見るのはちょっと」
「開けて見てもいいですか?」
……覚悟を決めよう。
「おう。ただ不満不平は受け付けないぞ」
「それは見てみないとわからないですね」
「おい」
俺の気持ちを知ってか知らずか、楽しげな様子で箱をあける。その顔は幼い女の子のように無垢な表情だった。
「……綺麗……」
箱の中を見つめて、率直な感想を抱く。
俺が藤宮さんにプレゼントしたのは星型のチャームが付いたシルバーネックレスだ。
俺が苦労に苦労を重ねて選んだものだ。しかも結構高い。明日以降はバイトの虫だ。
「まあ、それ高かったから、使ってくれたほうが助かる」
「高かったんだ!?」
「そのネックレス…藤宮さんに一番似合うと思ったから、これしか考えられないから金を気にせずに買った……それだけ」
格好つけてみたが実際は自分の経済力でなんとか買える程度だったので心底ほっとしたものだ。あれが手の届かない金額だったらローンを組むとこだった。
「うれしい……ありがとう。つけてみてもいいかな?」
「藤宮さんがつけたいなら」
「うんっ、つける」
ネックレスのチェーンを首裏でくっつけようとしてるが、うまくいかないらしく、『ふぬっ』とか『えいっ』などと声を出しながら奮闘している。
「つけてあげようか?」
「え………はい……お願いします」
ためらい気味だったが、このままではいつまでたってもつけれないと悟ったのだろう。俺の提案を飲んでくれた。
ネックレスを受け取り、藤宮さんの後ろにまわる。
藤宮さんが髪を上げているのでつけやすかったが、少し汗ばんだ白いうなじは、とても艶めかしく、俺の視線は釘付けだった。
「はい、つけた」
つけ終わると、藤宮さんはくるっとターンして向きなおる。
「ありがとうございます。どうですか? 似合ってます?」
胸元で太陽の光を反射して輝く星は、藤宮さんの向日葵のような笑顔によく似合う。
「自分のセンスも捨てたもんじゃないと実感できた」
「もう…素直に褒めてくださいよ」
ちょっと拗ねたような顔をするが藤宮さんのこんな顔は初めてだ。
藤宮さんは表情がとても豊からしい。これから先、もっと藤宮さんを知りたいと思った。
「藤宮さん、立ち話もアレだから、どっか涼しいところに移動しない?」
「それもそうですね。でもその前に………私のことは名前で呼んでください。私もコウくんって呼びますから」
コウくんって。
「……ちょっと藤宮さん? それはちょっと早いというか恥ずかしいというか……」
「違う。優未」
「へ?」
「優未って呼んで。苗字で呼び合うのあんまり好きじゃないの」
名前で呼び合うのは素直に嬉しいが、どこの馬の骨かもわからない俺に、そのまで許していいのだろうか? この子の将来が不安だ。守ってやらねば。
「じゃあ…優未さん」
「さんなんて敬称は堅苦しいよ」
「…優未ちゃん」
「仕方ないですね〜。とりあえずは良しとしましょう」
渋々といった感じだが、表情は少し微笑んでいるようだった。
「それじゃあ行こうか、優未」
そう言って優未の手を握り、歩きだす。
優未は少し驚いた顔を見せたが、すぐに頬をほころばせる。
「いじわる…ですね、コウくんは」
優未は俺の手をぎゅっと握り返してくる。俺の手は汗ばんでいたと思うが、せれでも優未は手を離そうとはしなかった。
「優未は男の人と二人で買い物行ったことって、あるの?」
青葉の並木に沿って歩きながら、ふと気になったので聞いてみる。
「いえ、ないですよ。コウくんが初めてですよ。誘われたことは何回かあったのですが」
「そりゃお母さんも張り切るわけだ」
えへへ、と苦笑いする優未。
「でも、なんで俺は良かったんだ? そこまでルックスは良い方ではないと思うけど…」
自分で言って、とても悲しくなる。
「コウくんの笑顔が、向日葵みたいに見えて、すごく輝いて見えたんです」
俺が向日葵……。どうやら俺たちはお互いに同じ感想を抱いていたらしい。
「向日葵か……」
そうだったらいいな。
一面の向日葵畑のなかで、太陽にそっぽを向いて向き合う二輪の向日葵。
その向日葵は太陽が落ち、深い夜に包まれてもなお咲き続ける。お互いがお互いを寄る辺にしながら。そんな向日葵があってもいいのかもしれない。
そうなりたいと俺はおもう。同じ空の下でいつまでも優未と一緒に笑い合って咲き誇っていたい。そう思った。
ねえママ。私の名前どうやって決めたの?
どんな時も希望を忘れないでほしいっていうパパの願いと、私の名前から一文字とって決めたのよ。
そっか! だから私の名前は優希なんだね。
ママの胸にはいつも、お星様が輝いていた。
次回作もよろしくお願いします




