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プロジェクト・スター  作者: 森林
7/9

そして交わる

拙い文章ですがよろしくお願いします


 ウェディンググランプリ当日。

 ユウキは最後に軽めのトレーニングをし、午後5時から行われる本番に向けて最終調整を行っていた。

「ユウキ、大丈夫か?」

「はい」

「……そうか」

 俺たちの間には少しばかりの緊張がはしる。

 今日が俺たちの今後を左右する大事な日だ。生半可な心持ちじゃいけない。そんなことはわかっているが……

「大好きだ」

「ご主人様っ、それは……」

「今日のような晴天が」

 ついからかってしまう。こんなことしてると愛想尽かされるぞ、と思いながら。

「…………」

 少し呆れた表情でまじまじと顔を見られる。

「ん…………すまん」

 そう言うとユウキは何も言わずに黙々とトレーニングを再開した。


 午後2時。

 俺たちは会場の受付とリハーサルのために会場となるミルキーウェイスタジアムに向かう時間となった。

「デイブと奈津時さんも先に行ってるから俺たちもそろそろ行くか」

「はいっ」

 ユウキはもう準備万端といった感じだ。

「ユウキ、お前の武器はなんだと思う?」

「武器ですか。うーん…………すいません。わからないです」

「笑顔だ」

「ベタですね」

「笑顔だ」

「わかりましたから2回も言わなくていいです」

「これマジだからな!?」

「行きますよ。Δデルタサーバー、ミルキーウェイスタジアム」

「えっ、ちょっ!」

 画面が眩い光に包まれた。




 目を開けると俺はテディーベアになっていた。もちろんアバターである。

「遅いお、タロー」

 不意に声をかけてきたのは厚い肉壁……もといデイブであった。その傍らにはみぃちゃんがスク水姿で立っていた。

「……ユウキ、頑張って」

「うんっ、ありがとう」

 そう言ってユウキは慣れた手つきでみぃちゃんを抱き上げる。

 はぁ〜、娘欲しい。もちろんユウキとの。

 ユウキとみぃちゃんが仲睦まじいのはとても良いことだが、みぃちゃんのスク水が異様に気になる。いや、慣れてきたかも。

「そういえば奈津時さんは?」

 奈津時さんがいないと大会の出場権をもらうことができない。

「中で待ってるらしいお」

「おう、そうか」

 まだ早いから大会の関係者しかこないんだよな。それなら中でも見つかるか。


 スタジアムに入ると、そこでは何人かの電子少女とそのご主人が念入りに話している姿がちらほらと見受けられた。

「相変わらず広いですね」

 そりゃスタジアムが縮むわけないだろ、と言いたいところだが、そんな台詞は野暮だと思ったので、心の中に収める。

「……それに綺麗」

「そうだお、このスタジアムの空には24時間365日、天の川が観えるようになってるからね」

 デイブは諭すようにみぃちゃんにゆっくり丁寧に教える。

「とりあえず裏に行ってみようぜ」

 俺たちは関係者以外立ち入り禁止の入り口にパスをかざす。すると扉がポリゴンとなり、消え、通路が開いた。

 パスはあらかじめ奈津時さんからもらっていた。なぜデイブがもらっているかは疑問だが仲間が居るというのは心強かった。

「あの人は多分取材してるお」

 そうか、あの人は仕事があるのか。大変だなぁ。

 白く無機質な通路を歩くこと約5分、ようやく楽屋が見えてきた。楽屋はもちろん個人ごとにバラバラだ。

 出場選手は全部で12名。これはいままでのあらゆる大会の成績を残した。上位12名が、このウェディンググランプリに参加できる。奈津時さんも上位12名に選ばれている。

「お、ここだ」

 たどり着いたのは『アカネ』と書かれたプレートがかかっている部屋だ。

 数回ノックすると中から

「あ〜い」

 と気の抜ける返事が返ってきた。

「入りますよ〜」

 相手の返事も待たずに中に入る。そこにはよくテレビで観るような一般的な楽屋がそこにあった。

「表はあんなに幻想的なのに、裏に来るとこれだもんな」

 初めて入ったときは拍子抜けして、逆に腰が抜けた記憶がある。

「同感」

 と感情の薄い声を出したのはアカネだ。奥の一部だけ畳になっている場所でグータラしていた。

「奈津時氏はどこだお?」

「さぁ、そろそろ戻ってくるとは思うけど」

「それはいいけど、人と話す時ぐらい身体起こしたらどうだ?」

「そうですよアカネちゃん、もっと女の子らしくしてください」

 ユウキはアカネの身体を引っ張り上げ、服のシワを直してあげる。

 アカネもユウキには歯向かえないのか、なされるがままになっている。

 ユウキお母さんみたいだな。早く嫁に欲しい。

「すみません、遅くなりました」

 ユウキとアカネの微笑ましい姿を見ていると、不意に後ろから声をかけられる。

「あっ、奈津時……さん?」

 そこに立っていたのは紛れもない奈津時さんだ。どうして?

「奈津時さん……それ、アバターですか?」

 俺の問いに奈津時さんはしれっと答える。

「ええ」

「すごいですね、自分そっくりのアバター作るなんて並みの人じゃ無理ですよ」

「ええ、並みの人ならこの大会には参加できないですね」

 そう言って奈津時さんは不敵に微笑む。

 心なしかアバターの方が感情が顔に出るかな?

「ご主人様も作ればよかったのに」

「俺には無理だよ、めんどくさい」

「まあ、この姿は可愛いので別に良いですけど。よしよし」

「こらっ、頭を撫でるな。噛むぞコノヤロウ」

「こわいこわい」

「バカにしてるだろ」

 イチャイチャ。


「どうやら普段どおりみたいですね、ユウキさん」

「すいません、お騒がせして。今日は頑張ります。

 すると奈津時さんはユウキの手を両手で握る。

「大丈夫よ。貴女は強いわ」

「えっ……」

「緊張してるみたいだから、ほら、こんなにも手が冷たい」

「わ……わかるんですか?」

「わかるわ、パソコン越しでも。私、並みの人じゃないから」

 奈津時さんがそう言うと、緊張の線が切れたのか、ユウキはそのまま尻をつく。

「こ、怖いんです」

 わかってた。ユウキが緊張してたことも不安に押しつぶされそうなことも、だからデイブと俺はいつもどおり振る舞うことを選んだが、奈津時さんは一歩踏み込んできた。女性の感性というやつだろうか。

「大丈夫よ。安い台詞だけど言わせてもらうわ。……貴女は一人じゃない」

「……大丈夫」

「…………」

 みぃちゃん、アカネも握った二人の手に手を重ね合わせる。

 女同士の友情っていいな。なんて感慨深くなってると、アカネから視線で合図してくる。

 ……たく、仕方ないな。こういうのは絵面的に俺とかデイブは入っちゃいかんでしょ。

 俺とデイブもゆっくりと手を重ねる。

「頑張るお」

「はい」

 …………。

 みんなが俺を見る。みんなの目が何か言えよと訴える。

「いや、俺は直前に言うよ」

「この空気で言わないとか空気読めないね、あんた」

 ウルセェ、空気は吸うもんだろ。

「……まあいいわ、とりあえず私たちの気持ちは伝わったと思うから」

「はいっ、ありがとうございますっ」

 それを聞き、みんなが各々に手を放してく。

 最後に奈津時さんが手を放すと、金色に輝く羊の模様がついたコインが一枚、

ユウキの手に握られていた。

「それが出場権。約束どおり貴女にあげるわ」

「ありがとうございます。苦労されたのに……」

「いいのよ。貴女が勝てば来年があるもの。私は勝つ確率が高い方に賭けてるだけ」

 ユウキは俺に、コインを渡す。

「さあ、エントリーしに行きましょう」

「…………ちょっと待って」

 これって、

「ご主人様?」

「これ、磨羯宮まかつきゅうじゃないですか!」

「そうね」

 そうねって、反応が薄い。

 大会に参加する上位12名は1位から12位まで横道十二宮の天使になぞらえて順位づけされる。そしてそれぞれの宮には司る月があり、それにより踊る順番が決まる。磨羯宮は12月を司る宮。つまり踊るのは最後になる。

「審査されるときは最後の方が印象に残りやすいから有利なんですよ。最後じゃないですか!」

「ええ」

 マジっすか奈津時さん。一生頭あがんねぇっす。

「これは私のためにやってることだから、気にしなくていいわ」

 俺の心を読んだように、言葉を返してくる。

「ありがとうございますっ」

 俺とユウキは急ぎ足でエントリーに向かった。




「しまったな……迷子だ」

「ご主人様っ!?」

 エントリーを無事に済ませた帰り道、真っ白い通路が続くため帰り道がわからなくなってしまった。

「どうするんですかっ、あと一時間したら大会始まりますよっ」

「なに、一時間も歩けば着くさ」

「いろいろ準備があるんですけど」

「お前は覚えてないのかよ、帰り道」

「…………」

「わかった、お前に俺を叱る権利がないということが」

「うぅ〜」

「だいたいこんな小さい身体だと視線が低くて、よくわからん」

 見回すかぎり白、右を見ても白、左を見ても白、後ろを見ても白、前を向いても人。……人?

 目の前には北欧人の色男を体現したような金髪の優男やさおとこが、紫の着物が似合う、日本人形のような黒髪をした女性(四つん這い)の上に座っていた。

「…………」

「…………」

 沈黙。

「い、いや〜いったいここはどこなんだろうな、なあユウキ」

「え、えっと〜…… どこなんでしょうねご主人様!」

「ねえ、きみ」

「あはははは」

「うふふふふ」

「いや、ちょっと君達……」

「あっはっはっはっ」

「うっふっふっふっ」

「ちょっと待ちたまえ! 君たち!」

 突如として現れる金髪色男きんぱついろおとこ。……まあ、そうだよね、関わってくるよね。

 運悪く逃げることに失敗した俺たち。絶対に関わってはいけない特殊なプレイに興じる人たち。プロスタの闇を見た。

「なんですか? 私たち楽しくおしゃべりしてたんですけど」

「すまないねお嬢ちゃん。君があまりにも可憐だったのでつい声をかけてしまった、許してくれ。そもそも『うっふっふっふっ』て笑ってるように聞こえないよね?」

 くそ、ユウキの演技力不足か……。

 それにしても身振り手振りがかんに障るさわるな〜、そして漂うヘタレ臭。

「君たち……いや、ユウキちゃんとぬいぐるみ君。初めまして、僕の名は島英しまひで・S・エムデナイ。よろしくベイベー。

 クールにそう言う。

 まじか、ベイベーか。

「ご、ご主人様。こ……この人……!」

「どうしたユウキ!?」

 ユウキの緊迫した声に俺も無意識に緊張がはしる。

「なんで……この人、私の名前を知ってるんですか?」

「はっ……!」

 俺たちは同時に視線を金髪野郎に向ける。

「君がさっきユウキって言っていたから」

 くそが……なんてこった……こんな奴に名前を覚えられてしまった。ユウキが危ない。

「てめぇは、大会出場者か? こんな時間にここにいるんだ、嘘をついてもムダだぜ」

「元から嘘をつく気は無かったが……そうだとも、これを見たまえ」

 金髪野郎はポケットから金のコインを取り出す。

 そこに描かれた模様は描かれた模様はひつじ、白羊宮のコイン。横道十二宮の天使……第一番、三月を司る天使。

 指先から全身に鳥肌が駆け巡る。

 第一位、優勝候補、世界を終わらせる死神。

 目の前にいるのは俺たちのラスボスだった。

「……お前はなぜ世界を終わらせようとする……?」

「おや……、そんなの簡単さ、それが澄子の願いだからさ」

「……澄子?」

 金髪は自分の下を指差す。

「僕のパートナー」

「お前、澄子ちゃんがかわいそうだろ、澄子ちゃんもこういうのはちゃんと断らないと……」

「…………」

 澄子ちゃんは心外という風に首を横にふる。

「澄子はドMなんだ、そして僕はドS、これはお互いのための行為」

「歪んでる……」

 ユウキは思わず本音を口にしてしまう。

「本当なんですか? 澄子さん」

「…………」

 澄子ちゃんは首を縦にふる。

「澄子さん……?」

 さっきから一言も喋らない澄子ちゃんに俺たちは疑問をおぼえる。

「澄子はね……話せないんだ。声帯の機能がバグってるんだ」

「えっ……」

 その声はユウキか、俺だったのか……もしくは二人からでた声かもしれなかった。

「聞くところによるとユウキちゃん、君もバグってるってきいたんだが?」

「……どういうことですか」

 金髪は俺たちを昔から知っていた。

「踊れないんだろ、君は。それは通常ならありえない。ならばそれはバグじゃないか」

「違います!」

 ユウキが金髪の声をかき消すように怒気をはらんだ声をだす。

「じゃあなんだというんだい?」

「人です。私は人になったんです」 

 まっすぐに臆することなく、そう言って見せた。

 そして静寂が俺たちの間に蟠る。

「人か……」

 静寂を打ち破ったのは、侮蔑の言葉や冷笑だと思っていた俺にとって、意外な心情をはらんだ声だった。

「……お前……は」

 次にでかかった言葉をぐっと飲む。証拠が足りない。だからもう一度問う。

「お前はどうして、この世界を終わらせる?」

「澄子のためだよ」

 今まで通りチャラけて、でも瞳は本気で語っていた。

「話せない自分が澄子は嫌いらしい、ドMになったのはその自傷行為さ」

「だからあなたは世界を終わらせるというんですか?」

「もちろん」

「澄子さんのために?」

「そう言った」

「……そんなの間違ってる」

「いや、ユウキ」

 俺はユウキの言葉を否定する。

「こいつのやり方は間違ってない」

「ご主人様……どうして」

 認めたくないがこいつと俺は似ている。愛する人のため、愛する人の願いを叶える。この前までの俺だ。そしてそのやり方は決して間違いではなかった。

 ただ俺は愛する人よりも自分の願いを一番にした。それが彼女の本当の願いと同じだとエゴイスティックな判断をして、それも間違いではなかった。

「行くぞ、ユウキ。もうこいつと話す必要はない」

 そう言って金髪の横を通り過ぎる。くそ、なんで俺のアバターぬいぐるみなんだよ。

 ユウキもうつむき無言でついてくる。

「勝つのは僕だ」

 後ろから決意に満ちた声が響く。

「ユウキ……あれは俺たちが選ばなかった未来の俺たちだ」

「はい」

「踊れるか?」

「はい」

「勝てるか?」

「はい」

 ユウキの目に迷いはない。

「なんつーかお前、カッコいいな」

「もう負ける気がしません」

「その心は……?」

私は私だからです(・・・・・・・・)

「……そうか、だよな」

 本当にカッコいいな、こいつ。


「とりあえず、デイブと合流しよう。全てはそこからだ」

「……そうでした、忘れてました」


 デイブと合流できたのは開会式が始まった五分後のことだった。


 



 

 

 

 




 

 



 




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