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プロジェクト・スター  作者: 森林
6/9

ふたりの

拙い文章ですがよろしくお願いします。

 雲ひとつない星空が広がる夜。時計の短針と長針がてっぺんを越えた頃、俺はようやく帰路についた。

「ただいまー」

 一応帰ってきたことを告げるが、パソコンは切ってあるので返事が返ってきたら「お邪魔しました〜」と言って逃げなくてはいけまい。

 幸いなことに中から返ってきたのは重い静寂だけだったので、ビニール袋をガサガサいわせながら中に入る。

 照明を点けると家を出る前となんら変わらない光景がそこにある。それが俺にはユウキと一緒にこの場所の時間が止まっているように感じられた。

 とりあえず買ってきた物を適当に冷蔵庫に詰め、シャワーを浴びることにする。

 夜中といえど、この時期はコンクリートジャングルのせいで中々気温が下がらないので、汗がシャツの模様を変える。

 服を全部洗濯機に放り投げ、浴室に入る。浴室は少しひんやりとして汗ばんだ体には少し寒い。シャワーの噴射してお湯に変わるのを少し待つ。手の温度に馴染んだところで頭からお湯を浴びる。人肌温度のお湯は俺の体を包むように上から下へと流れていく。その後、頭、体を洗い10分もたたないうちに浴室をでる。

「ふぃ〜」

 と呼吸を整え、軽く体を拭いて冷蔵庫の中から先ほど買った紙パックの麦茶を取り出し、コップに注がず豪快に飲む。麦茶が食道を降りていくのが伝わってくる。

 エアコンをつけ、寝間着に着替える。

 大きく深呼吸し、パソコンの前にどかっと座る。

「腹割って話そうぜ、ユウキ」

 独り言ってイタイな、そう思いながらパソコンの電源を入れた。

 プロスタを起動させながら俺は最初は優しくいくべきか、それとも厳しくいくべきか悩んでいた。

 だがそんな考えをあざ笑うようにユウキはスヤスヤと眠っていた。

「…………」

 パソコンから流れてくるのはユウキの静かな息遣いだけ。

「…………」

 寝ている女の子を見るのはとても背徳的だが俺はユウキに話がある。起こすのは罪悪感を伴うが仕方あるまい。優しく起こしてあげよう。一言できちんと起きるようなインパクトのある言葉。うーん……これだ! 俺はパソコンのマイクに顔を近づけ、自分の出せる一番いい声でこう言った。

「……妊娠……」

 するとビクッと体を震わせユウキが目覚めた。周りをキョロキョロと見回している。

「おうユウキ、起きたか」

「はい、ご主人様」

 そう言ってまた横になるユウキ。

「ちょっと待って、話があるんだ」

「朝でもいいですか?」

「…大事な話だ」

「ダンスなら出れないです。ご主人様のためでも……無理です。あと少しでお別れです」

「ダンスのことでもあるがもっと大きくて大事な話だ」

 自分でも聞いたことのない、真剣味を帯びた声でユウキに話す。

 心臓の鼓動が早い。寒気までしてきた。バカなことかもしれない。それでも言わなくちゃ伝わらない。

「ユウキ……好きだ」

「はい」

「ん? ……それだけ?」

 あれ、感動的なシーンなはずなんだけど。

「いつもいつも似たようなこと言われてますし」

 真顔で返される。

「いや、そうじゃないんだよ。いつものとは違って本気なんだよ。一人の女としてお前のことが好きなんだよ! 愛してんだよ!」

 部屋中に響き渡る声。声は壁に当たり俺の耳に入ってくる。

「……そう言えば私が踊るとでも思いましたか?」

 帰ってきた返事はYesでもNoでもない辛辣な言葉だった。

「……ユウキ? ……」

「ムリですよ。私はプログラムでしかないんですよ。しかも踊れなくなった欠陥だらけのプログラム。そんな私には『好き』なんてものは組み込まれてません」

 卑屈そうに顔を歪ませるユウキ。そしてまた言葉を紡ぐ。

「私はご主人様を喜ばすことしかできない……いえ、喜ばすことすらできなくなったプログラム。『好き』という意味も『愛』という意味も文字や言葉でしか理解できない。電子の塊。私はご主人様に好意を抱いたことはありません。あったのは義務(・・)だけです」

「…………」

「わかりましたか? これが私です」

 ユウキの言葉は俺の心に深く突き刺さる。だが、これでいい。

「やっとだな……」

「……なんですか?」

「やっとユウキの本音が聞けた」

「なに……笑ってんですか……」

「ユウキが本音を話してくれたんだ。俺も本当のことを言おう」

 そこで一拍だけ間を置く。ユウキも経たずを飲んで、俺の言葉を待つ。

「ユウキとの今までの会話は全部嘘……というか本心ではなかった」

「えっ……」

「俺たちはお互いがお互いに上っ面を厚く塗りあってただけだ。俺たちが今まで交わした言葉は虚気妄言……だよな?」

「ご主人様……先ほどおっしゃった『好き』も結局嘘なんですか? 本気だって言ったのに……」

「ああ、嘘だ」

「そう……ですか」

 ユウキの瞳には動揺の影が見える。

「どうした。悲しいのか?」

「いえ、ただ私は素直に人を喜ばすことも出来ないなんて、本当に欠陥だらけだったんだなって」

 そう言ったユウキの声は少し上擦んで聴こえた。

「大好きだ」

「えっ……」

 俺の唐突な言葉にユウキは視線をこちらに向ける。

「『好き』ってのは嘘だ。本当は『大好きだ』」

「何言ってんですか。おかしいですよ、理解できません」

「プログラムだからか? プログラムだから俺の言ってる意味がわからないのか?」

「そっそうです。だから私にはわからない」

「お前はプログラムだ。けどそれは俺には関係ない。『大好き』に理由ない!」

「けど私には『大好き』は理解できないですよ?」

「だからそれも関係ない(・・・・)! 理解できない? 当たり前だ! 俺にもわからん。だから考え、間違う。それが人間なんだよ! そんなんが理解できる奴は人じゃねえ……お前の中身は俺たちと同じなんだよ。超遠距離恋愛上等。

触れ合えない距離……燃えるじゃねえか。いいか? 人間とユウキには違いなんてない。俺が言ってんだ間違いねぇ。いいかもう一度言うぞ」

 そこで俺は息を吸い込む。

「大好きだ、ユウキ、一生一緒に笑ってよう」

 俺の精一杯の本音を伝えた。あとはユウキの返事だ。

「うっ……う……んっ」

 ユウキは夏の夕立のように突然、そして激しく涙を流した。

「り…理解できますか? 届きますか?」

「そんなもん知らん。俺にもわからないもん。でも二人ならわかるかもな。いや、二人だからわかるかもな。でも、気持ちは届く」

 俺は手のひらを画面にぴたりと合わせる。

「なん……ですか?」

「手……合わせてみ」

 ユウキは恐る恐るといった感じでゆっくりと手を近づける。

「あっ……あったかい」

「俺にもわかる。ユウキの温もり。あったかい」

「これがご主人様の手……大きい」

 そう言ってユウキは頬を染める。それでこそユウキだ。

「なあユウキ。俺ずっとユウキのそばに居たいんだけど」

「踊ればいいんですか?」

「できるか?」

「わかりません、けど二人なら」

 

 こうして俺たちは二人の世界を守るために立ち上がった。

「私、踊る以外にもできないことがあるんです」

「え? なに?」

「ご主人様のこと名前で呼べないんです」

 えっ? そういえば初期設定で決めた呼び方以外はできないって書いてあった気がする。

「悲しいです」

「確かに恋仲になった今ではご主人様はちょっとな」

「えっ? 恋仲?」

「ぅえ? 大好きって言ったよね?」

「返事返しましたっけ?」

「…………」

「マジか……」

「マジです」

 ちょっとショックだよ俺。

「だから私がもっと人間らしくなったらお返事します」

「人間らしく?」

「具体的にはご主人様の名前を呼べるようになるまで、ですかね」

「なるの?」

「なります」

「だからちょっとだけ待っててくださいね」

 そうイタズラっぽく微笑むユウキは人間味に溢れていて、その日は遠くないと俺に思わせた。

「さあ、頑張りますよ」

 ユウキは長年のブランクを埋めようとダンスの練習を始める。

 さて、俺は何をしようか? そう考えたときに一通のメールが届いた。

 開いてみると中には歌詞のない楽曲データが添付されていた。差出人はデイブ。

 俺のやるべきことは決まった。


 ウェディンググランプリまであと3日。




 


お読みくださりありがとうございました。


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