その思い
拙い文章ですがよろしくお願いします。
夏はまだ終わらない。
夏休みも終わらない。
気温も下がらない。
ユウキへの愛も冷めない。
冷めないどころか、外の気温が上がるのに比例する勢いでユウキへの愛のボルテージも上がっている。もしかして地球温暖化って俺のせい? オイオイ勘弁してくれよ、それじゃあ温暖化を止める方法なんてある訳ねえじゃねえか。
「――ん様」
そもそも俺ってば熱い漢だからな。そんな漢が恋焦がれて「――人様」りゃあ、気温も上がるし氷も溶けるか、すまねぇなペンギン達、これも一人の女のためなんでい。堪忍し
「ご主人様ッッッ!!」
「!!? なんでござるっ!!?」
突然目の前から発せられた声につい変な台詞を返してしまった。
「まったく、いっつもボーっとするんですから……なんなんですかござるって」
フンっとそっぽを向き、不機嫌そうにするのは最早ユウキのデフォである。
「何か考えていたんですか?」
身体を前に突き出し、ちょこんと首をかしげる姿はあざと可愛い。
「すまぬ、愛は世界を救うのではなく、犠牲にするものだという結論に至ったのでござる」
「何を考えていたんですか……まったく。またござるって…………まぁいいです。ご主人様がそのキャラを突き通すのであれば否定はしません。ニンニン♫」
以外と乗り気だ!?
「ところでご主人様。先ほどプロスタ内専用メールがホームに届いております。
メールをお開きすますか? ニンニン」
メール? 俺にメールを送る奴なんて一人ぐらいしか想像できん。ヤダなぁ。
「……ふむ、開いてくれ…………でごさる」
若干ジト目で睨まれたが、何も言わずに話を進める。
「了解しました。ニンニン」
ユウキが手を軽く手を叩くと一通の手紙が空から落ちてきた。ユウキはそれをキャッチすると、開いてこちらに掲げる。
俺は画面に近づいて文字を読み取る。
差出人: デイブ
件名: お買い物
僕だお。
久しぶりだお。
久しぶりに買い物一緒に行くお。
僕とみぃちゃんは先に行ってるから早く欲しいお。
場所はαサーバーのキャンロット街にある乙女の噴水の前にするお。
やはりデイブだったか、相変わらずキャラ濃いな。〜ごさるって言ってたのが恥ずかしくなるぜ。人の振り見て我が振り直せとはよく言ったもんだ。
行くかどうかは……どうすっかな、面倒なんだよなぁ。
椅子をギコギコと前後ろ動かしながら悩んでいるといつの間にかユウキが消えていた。
アレッ? ユウキ? どこいった? 画面に顔を近づけて中を覗く。
「おーいユウキー」
「はーい」
小走りでフレームインしたユウキは、薄桃色のワンピースに麦わら帽子という定番コーデに身を包んでいた。そして胸元には、この前買った星型のチャームが付いたシルバーネックレスが光輝いていた。
「さあ、行きましょう」
そう意気揚々と笑顔を向けられてしまえば断ることは憚れる。
まあ、予定はないしな。
「そんじゃあ行きますか」
「ニンニン♫」
楽しそうだなぁ。まぁ楽しいなら何よりだ。
「それじゃ行きますよ。αサーバー、キャンロット街!」
大仰に手を上に掲げた。
そして画面は眩い光に包まれた。
□
キャンロット街はプロスタ内では三番目に大きい街である。その街並みはさながら中世のヨーロッパを彷彿とさせるが、しかしながら目を凝らして見ると屋根はチョコ、壁はクッキーといったように街全体がお菓子で出来ているという見てるだけで胃もたれを起こしそうなメルヘンでファンシーな街である。心なしか
今日はいつもより人が多い気がする。天気も良いしな(天気は日によってランダムで決まっている)。
「あーっ、デイブさんですよ久しぶりですー!」
ユウキが知り合いを見つけた女子大生よろしく、小走りで走っていく。
俺も急いで後を追うが、歩幅が短いので全然追いつけない。
ユウキが止まり、俺もちょっと遅れて追いついた。
するとユウキが俺を見下ろしそのまま脇を掴んで持ち上げる。
「ご主人様、可愛いです」
そしてウリウリ〜と頬をなすりつける。あぁ〜くすぐったいっやめてっ! というのは冗談で実際はパソコンの外、見てるだけである。
「いつ見ても滑稽な姿だお」
と言ってユウキの後ろから顔をだしたのは無精髭をしたお腹がパンパンに膨れた巨漢だった。
「うっせー、可愛いだろこの姿」
「はい! 可愛いですご主人様のお姿」
そしてまたウリウリする。ふう。
俺の姿は今、どこにでもあるテディーベアのような姿をしていた。このゲームはホーム以外の場所に行くときはアバターを作るのだ。アバターの種類はデイブのような人型から俺みたいなぬいぐるみ、犬や猿といった動物まで多種多様である。
デイブの姿ももちろんアバターだがなぜにこんなキモい姿にしたのは謎である。ちなみに俺の場合はユウキの「可愛いです」の一言で決まった。
「そういや、みぃちゃんはどこにいるんだ」
みぃちゃんとはデイブの電子少女なわけであるが、辺りを見渡してもどこにもいない。迷子かな?
「ここに居るお。みぃちゃんおいで」
するとデイブの厚い体躯の後ろから黒い黒髪を両サイドで結び、紺色のスク水を装備したランドセルを背負った幼い女の子が現れた。
「ほらみぃちゃん、挨拶は?」
みぃちゃんはしばらくモジモジしていたが、デイブが小声でなにかを囁く。するとみぃちゃんはデイブの手を掴み、うん、パパと言いこちらを不安げに見つめる。つーかパパって……。
「タロ、ユウキ、久しぶり……」
一音一音を精一杯ていねいに話す。エライねーと言ってお菓子でもあげたい気分だが、残念ながらお菓子なんて持ってきてなかった。仕方がないと思っていたらユウキがおもむろに抱いていたぬいぐるみ—(俺)をみぃちゃんの前に差し出した。
「エライねみぃちゃん。お姉ちゃん嬉しくなっちゃったからこれあげる〜」
おい。
俺はなされるがままにみぃちゃんに抱かれた。……ふむ、来世はぬいぐるみで決まりだな。
「って、ユウキさんちょっとまって? 僕いらない子?」
「いいじゃないですか、少しぐらいなら」
いらない子について否定はないんですか?まあ確かにこういうのも新鮮でいいかもしれんが…………しかしユウキの腕の中のほうが落ち着くな。
「ユウキの中の方が落ち着く」
一瞬の間のあと、ポンッ! という擬音が聞こえてきそうなほど一瞬で顔を真っ赤にし、顔がゆでダコのようになるユウキ。
「な、ななななななに言ってるんですか!? 街中ですよ!」
手を忙しなく動かしながら目をくるくると回している。そうそうこれこれ。これでこそユウキだ。
ユウキがバタバタしていると今度はみぃちゃんが俺をユウキに差し出す。
「タロ、ユウキの……二人仲良く……」
ケンカしてるとでも思ったのか、そのみぃちゃんの気遣いにフッと笑みがこぼれる。
「イチャイチャ、自重しろjk」
そう言われれば、恥ずかしくなって何も言い返せなくなる。ユウキも同じ気持ちなのか赤い顔のまま俯いている。
空気を変えようとどこに買い物に行くのかと本題と問う。
「実は……買い物は嘘なんだお。本当は違う目的で呼んだんだお」
今までとは少し真面目な声のトーンに少しばかり動揺する。
「違う目的?」
「ダンスLIVEに出て欲しいんだお……」
デイブの声は徐々に弱くなっていって最後の方はうまく聞き取れなかった。
ダンスLIVEは電子少女のダンスの魅力を競い合うプロスタのイベントのひとつでこのゲームで最もポピュラーな競技だ。
でもそれは……。
「冗談はやめろよ。俺たちがダンスLIVEに出ない理由分かってるだろ。無理だ」
「承知の上だお、でもお願いだお。初代チャンピオンペアならきっと勝てるお」
その言葉を聞き、ユウキの俺を抱く力が強くなる。
「踊れなくてもですか!? 踊れなくても勝てるんですか! ……私はもう踊れないんです……」
ユウキは激情した。俺も見たことがない、怒りと悲しみがコーヒーに入れたミルクのように混ざりあった苦痛の表情をしていた。
「無理だ。絶対無理だ。いいだろ、用事がそれだけならもう帰る。……行くぞユウキ」
「え? あ……はい……」
ユウキが力なく頷き、この場を離れようとしたとき、ユウキのスカートの裾ををみぃちゃんが力強く握った。それは身体の大きさからは考えられないような力だった。みぃちゃんは俯いていて、その表情を窺い知ることができない。
「お願いタロ……みぃは……みぃはパパと離れたくないよぅ……助けてよ……」
クッキーで出来た地面にポツポツと水を垂らしなら、声を絞り出すように必死に声を届ける。
「……離れたくないって、どういうことですか……」
ユウキが真剣な面持ちで訊ねる。
「……そうだお、これは僕たちだけの問題じゃないお……」
俺たちでなく、自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。
「あと一週間すればダンスLIVEの世界一決定戦、第三回ウェディンググランプリが開催されるお。そして今日は予選の日。……ウェディンググランプリの優勝賞品は何かわかってるよね、初代チャンピオン」
「……ゲーム内におけることならなんでも好きなことをひとつ運営に叶えて貰える」
そうだ、それで俺はプレイヤーはアバターを作って女の子と街を歩きたい。とお願いしてアバターが作れるようになった。
「そうだお。そして今大会の優勝候補の願いはもしかしたら……」
そこからデイブが発した言葉の意味を理解するのに少しばかり時間がかかった。そしてそれを理解することはしたくなかった。
――――もしかしたら『プロジェクト・スター』のサービス終了なんだお――――
お読みくださりありがとうございました。




