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プロジェクト・スター  作者: 森林
3/9

誰しもが

拙い文章ですがよろしくお願いします。

ある夏の日、俺とユウキの聖域に二人の人が訪れる。

 由々しき事態である。しかも片方は女性ときたもんだ。

 いやはや困ったもんである。

 ユウキ以外の異性と話すのはいつぶりだろう。ふと思い出そうとしても思い出せない。そのぐらいの月日、現実の異性と話をしてないという現実に自分の将来が不安になるが、グダグダ考えるより先もユウキのスク水ポニテ眼鏡装備を見て不安はなくなった。むしろ俺の人生は薔薇色だと確信できた。


     □


 電話をかけてから三十分。

 家のインターホンが久々の仕事を喜ぶように小気味よい音を鳴らす。

 俺は小走りでドアの方に駆けていきドアを開ける。

 目の前に立っていたのは俺が電話をかけた相手、日部 文太だった。こいつは身長が低く、体型が丸型なので苗字とかけてデイブと呼んでいる。本人はえらく気に入っているそうで割りかし変人なのだ。

 そしてその後ろにはすらーっと背の高い黒いスーツ、黒髪の女性がエラい鋭い目でこちらを見ていた。

「えっと……俺の顔に何かついてます?」

 少し気まずさを感じた俺は恐る恐る訊ねる。

「ああ、いえそういうわけではないので、おきにならさず」

 顔ひとつ変えずにそう答える姿は仕事が出来そうなイメージを彷彿とさせた。

「えっと……とりあえず立ち話もなんですから」

 そう言って二人を部屋の中に招き入れる。

「ほう、以外と片付いてるお。ポテチの袋とかピザの箱とかがあちこちに散乱していると思ったお」

「お前の部屋と一緒にすんな」

 二人を居間に招き、準備していた丸型のテーブルの前に座らせ、粗茶ですが……と言って麦茶を出す。

 デイブだけだったらこんなことしないのだが如何せん俺は結構人見知りするタイプだ。

 俺もテーブルの前に座るとスッと名刺を渡された。

「どうも、ブッククリエイティブ社に勤めております奈津時 亜麻音と申します」

「あっどうも井原連太郎と申します」

 初めてこんな風に名刺をもらい、俺もできる限り慇懃な挨拶を返す。少し大人になった気分に自分が自分でないような違和感があった。

 名刺を見てみると亜麻音という名に彼女と違う印象を覚える。

「ところで取材とはどういったもので?」

 奈津時さんに訊ねてみるが反応は意外なものだった。

「そんなことより井原君、あなたプールと擬似太陽なんて買ったの?」

「ええ、まあ……」

 奈津時さんは俺のノーパソを覗きこみ、俺の愛しのユウキを無視して奥にあるプールに釘付けだった。

「奈津時さんもプロスタやっているんですか?」

 俺の問いに答えたのは何故かデイブだった。

「当たり前だお、プロスタ歴は僕たちと一緒」

 というと……サービス開始日からか! 意外だ。見た目からは判断が全く出来ないし、そもそも女性プレイヤーがプロスタにいたことが驚きだ。というかなにが当たり前なんだ?

「それじゃ有線で繋ぎます?」


     □


 取材そっちのけにして、プールで自分の電子少女を遊ばせたいという彼女の提案に、それでいいのかとデイブに訊ねようと目で合図したが、自分のノーパソに向かってデュフフフフと呪文めいたことを唱えていたので、結局取材は有耶無耶になった。

 ケーブルを三本、輪になるように繋ぐ。今時有線なんてと思うがハイスペックなAIを複数ホームに呼ぶため、無線には限界があるのだ。

 このゲームにはホームの外に出れば歴としたタウンもある。タウンに移動するためには何もいらない。サーバーが落ちない限り、数千人、数万人という電子少女がいても大丈夫だ。


「それじゃあ行くお」

 デイブの準備が終わったらしく、エンターキーをタンッと力強く叩く。壊れるぞ、それ。

 デイブは俗にいうロリコンというやつだ。だが昨今は小学生に話しかけるだけで事件になる時代、幼女は禁忌という木に実った禁断の果実なのだ。触れることも話すことをゆるされない。

 だがそれは三次元の話だ。もちろん二次元でも過激なのはアウトだが、このゲームは全年齢対象だ。

 このゲームは触れることは許されていない。たがしかし話すことは許されているのだ。

 つまりデイブが育て上げた電子少女は小学生くらいの幼女なのだ。

 その名をみぃちゃん。安定のスク水を安定の違和感のなさで着こなしている。そして髪型は黒髪ツインテ、これも安定感抜群で俺の父性をくすぐる。

「わあみぃちゃん久しぶりだね」

「ユウキ……ひさしぶり……」

 ユウキは目の前に現れたみぃちゃんを優しく持ち上げ抱きかかえる。

 その姿は正しく姉妹でまたも俺の父性をくすぐる。

「スク水姉とスク水妹……ktkr!!」

 デイブも同じことを思っていたのか興奮して鼻から蒸気を吹き出す。きたねえ加湿器だな。

 

「私も準備終わりました」

 そういってタンッとエンターキーを力強く叩く。それ流行ってんの?

 そして光に包まれてやってきたのはユウキと同じくらいの年齢の少女だった。

 髪ショートで明るいオレンジ髪胸は慎ましいが健康的な身体つき。一見活発そうに見えるが怠そうな目、そして安定のスク水……みんなスク水好きすぎでしょ、人のことは言えないが。……やっぱスク水は正義ってことか。

「ほらアカネ、ご挨拶は?」

「私はアカネ。よろしく」

 素っ気なくつぶやく。

「私の名前はユウキって言います。よろしくお願いします! アカネちゃん」

「みぃ……よおしく……」

 ユウキは新しくできた友だちに心躍らせているようだが、みぃちゃんはちょっと警戒してるらしい。そこが可愛いのだが。

「とりあえず水遊びでもしますか」

 若干強引だか積極的に攻めていかないと交友は深まらない。ユウキさんコミュ力高えなと思いつつ俺も見習おうと思い、奈津時さんに声をかけようとするが彷彿とした表情で画面に食いついていて声をかけても気づきてくれない。

 仕方ないなと思いデイブに話しかけようとするが、デュフぃフフフと気味が悪い声と今にも犯罪を犯しそうな顔をしていたので俺をかける勇気が出ない。もうユウキ以外いらない。

 ユウキに声をかけてみるが向こうは意気投合したのかキャッキャウフフと水のかけあいを楽しんでいるようだった。

 流石にこの楽園を絵に描いたような光景に交わるのは無粋だろう。俺も他二人を見習い、神の如く静観する。

 うむ、やっぱり水着は水に濡れてこそ真価を発揮する。ユウキの首筋から流れた落ちた水が白磁のような鎖骨を通り紺色の胸元へ溜まっていく。そこはオアシスですか?

 やがて水遊びに飽きてきたのか、アカネがプールからあがる。

 それに続き、ユウキがみぃちゃんを抱きかかえてプールからあがる。

 三人とも良い笑顔で、見てるこちらまで笑顔にさせる。こちら側の三人は下心ありありの笑顔? だが。

「それにしてもアカネたんの胸はまな板だお」

「なっ」

 デイブはひとりごとのようにそう呟いたが、一名反応した者がいた。

「誰がまな板だって」

 怠そうな目つきからは、想像も出来ないようなドスの効いた声で、デイブを睨みつける。

「アカネたん」

「なんだとコラァ! まだ発展途上なんだよボケェ!」

 アカネちゃんは想像以上に口が悪く、若干引いてしまう。が、デイブはそんなの馬の耳に念仏といった風に、平然と受け流す。

「発展途上て言う貧乳は結局死ぬまで発展途上だお」

 デイブが意外と良いことをいい感心する。隣では奈津時さんも頷いている。

「なっ……んなっ…………そんな……」

 アカネちゃんは結局言い返せず、口ごもってしまう。口は悪いが達者なわけではないらしい。

 奈津時さんは二人の会話を傍観しているが、何故か満面の笑みだ。あなたの電子少女ですよ? いいんですか?

 それにしてもこの人、俺の中で最初に抱いた印象とは全く違ってきてるぞ。口が少ないってのはイメージ通りだが、如何せんその分感情が顔に出るらしい。その表情はとても魅力的でユウキにはない不思議な力があった。

「ご主人様」

 奈津時さんの表情に見惚れていると、不意に声がかけられた。見惚れてたこと見られたか? と心臓の鼓動がアップテンポになる。

「みぃちゃんが寝ちゃって……」

 ……なんだ…………ってなにホッとしてんだ。浮気がバレそうな夫かよ。

「そうですね、そろそろお開きにしましょうか」

 最初に会った時のような顔つきで同意を求める。

「まだキャッキャウフフを見たかったお……」

「すみません、実はまだ今日の仕事終わってなくて、申し訳ないんですけど」

「……仕方ないお」

 どうやら二人とも帰るようだ。ユウキたちもお別れのあいさつをしている。

「バイバイ。アカネちゃん久しぶりに女の子と遊べて楽しかった。また遊ぼうね」

「……うん……また」

 アカネちゃんは恥ずかしがってはいるが満更ではない表情をしている。

「みぃちゃんも……バイバイ」

 寝ているみぃちゃんにも小声でお別れをする。良くできた嫁です。

 みんながそれぞれのホームに戻り、パソコンを閉じた。


「今日はありがとうね、大変有意義な時を過ごさせてもらったわ」

 帰り際、奈津時さんはヒールを履きながら礼を言う。

「いえいえ、どういたしまして」

 こんな時はどう返せば良いのか俺にはわからなかった。後で調べよう。

「あの、取材は良かったんですか?」

 ふと、今日の本題を思い出したので申し分け程度に聞いておく。

「ああ、良いのよ。まだ確証もないことだし、ここに来るまで日部くんにいろいろ聞けたし、多分それ以上の情報は入らなそうだしね」

 その答えにじゃあなんで来たんだろう、と疑問が浮かぶ。

 そんな気持ちが顔に出てたのか、彼女はこう答える。

「あなたの顔を見ておきたかったから……プロスタを救う人かもしれないから……」

「あ、あのっ」

 最後の方まで聞き取れなかったが、もう一度聞き返す前に彼女は軽く手を挙げて立ち去る。

「じゃあ僕も行くお」

 デイブも片手を挙げて立ち去る。

 また会おう、と捨てゼリフを残して。

 また……か。

俺は居間に戻りいつも通りに着替えたユウキと向き合う。

「『また』ですってよ、ご主人様。たまにはみんなでというのも悪くないですね」

 ふとさっきの時間を思い出す。会話はほとんどしていないが、会話以外でもいろんなことが分かった。

奈津時さんについてとか、アカネちゃんについてとか、まあデイブとみぃちゃんは通常運行だったがアカネといがみ合ったり。

 楽しかったかな。

 俺は窓に浮かぶ空、をデイブと奈津時さんに見立て、こう言う。


「ああ、『また』な」






 



 



お読みくださりありがとうございました。

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