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「くっそ…なんで俺の力が通じないんだ!」
追い詰められた男はナンシーに向かって吐き捨てた。
「あら、ごめんなさいね。私ね、他人の能力を無効化しちゃうのよ。」
「な、なんだとっ!ま、まさかお前がオーバーライド!?」
「私ってそんな名前で呼ばれてるのね~」
ナンシーは楽しそうに笑うと一歩一歩ゆっくりと男に近づいて行く。
背中に壁がぴったりと貼りついた男は逃げ道がないにも関わらずにやりと笑った。
「くくっ…」
「なーに?」
男の気味の悪い笑いにナンシーは眉を顰めた。
その瞬間、大きな爆発音と共に部屋全体が大きく揺れた。
「…どういうこと?」
呆れたようにナンシーが男を睨みつけると男は言った。
「下の階に爆弾を仕掛けておいたんだ。間もなくこのビルは倒壊するぜ。」
「はぁ…あんた馬鹿でしょ?」
「な、なんだと!」
「あんたの能力はヒュプノシス(催眠能力)。それで?どうやって逃げるのよ。言っておくけどあんたのお友達は今頃檻の中よ?」
「馬鹿な!!!」
「馬鹿なのはあんた。」
男が膝から崩れ落ちたと同時にまた部屋が大きく揺れた。
「主任!こちらです!」
部屋の外で待機していたザン達が部屋へと入ってきた。
催眠能力者がいるにも関わらずアンチ・サイ(能力の無効化)を持たないザン達が部屋に入ってきたということは大分倒壊が進み危険な状態なのだろう。
すると、一人の少女がナンシーの隣に立った。
「姉さん、後は私に任せて。」
「…仕方ないわね。シェリー、後は頼んだわよ!」
ナンシーは男を睨むとザン達と共に部屋を出て行った。
「…」
シェリーは長い髪を靡かせて男へと近づいた。
シェリーが眼鏡を外し男の視線を捕えると男の顔はみるみるうちに青ざめていく。
脂汗が頬を伝い喉に嘗てない渇きを覚えながらも男は声を捻りだした。
「レッド、アイ…」
「さぁ、私と遊びましょう。」
シェリーは紅に染まる瞳を細めてニッコリと笑った…