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千葉利明の事情

「ちょっと、何するのよ姉さん。私がそれやろうと思ってたのに」

「うるさいわね。普段はあんたたちがトシの世話してるんだからたまには私たちにも・・・」

「何をそんな子供っぽいことをいってるの?」

「何を、って・・・姉さんもそんなとこで突っ立ってると私達でトシ兄とっちゃうよ?」

「・・・それは」

「もう、素直じゃないよねー、有紀姉さんは。カノ姉さんは素直・・・っていうか実直?っていうか欲望に忠実っていうんかねぇ」

「ちょっと、失礼ね」

「あ! 澄香が抜け駆けしてる!」

「え、別にそんなつもりじゃ・・・兄さん服脱がされっぱなしで・・・寒そうだったから」

「だからってそんなにくっつく必要ないでしょ!何もない孤島じゃないんだから、肌で暖めあう必要なんてないの!」

「そうそう」

「・・・・・・・」

 うるせえ。とにかくうるせえ。

 三人寄れば文殊の知恵というが、女四人集めれば鳥類の喧噪とでもいうのか。この状況は。

 ここは都内の某国立病院。

 搬送時、まさに虫の息だった俺は、それはもう全身ぐちゃぐちゃで、左腕なんてもう完膚なきまでに粉々に砕けていたそうな。ちょっと大げさか。

 それでも、致命傷だったのには間違いなく、病院を舞台にするドラマなんかでよくみられる、医者が親や保護者に対して「最善を尽くしましたが、息子さんは・・・」なんていうところまでいったらしい。

 なんでも、その「最善を尽くしましたが、息子さんは・・・」なんて医者がぬかしてる時に、俺の心肺機能は再び活動を開始。なぜか臓器なども完全にではないが生命には問題ないほどに回復していて、その「最善を尽くしましたが、息子さんは・・・生き返りました」になったわけで、手術は終了。っていうか、あけた穴をふさいだだけらしい。それくらいにいきなり回復して、医者としては気味が悪かったろうが、こっちとしても、家族としても、生きてるんだから万々歳だ。

 で、しばらくは様子見ということで―――突然の回復のメカニズムを少しでも明かしたかったのかもしれない―――面会謝絶。しばらく医者とその額を突っつき合わせる生活を余儀なくされた。だが、そのメカニズム解明という目的をその医者はあけっぴろげにおれの家族に口外したらしく、その間の入院費はタダ同然になるということで、おれの親は買収されたわけだ。特になんもされなかったけどな。バリウムとか胃カメラとか飲むのがアレだったけど。

 一週間続いた面会謝絶も昨日で終わり、公然とした個室に移された。ぐしゃぐしゃだったはずの骨もただの骨折程度になっており、入院は二週間ほどで済むらしい。そんな説明を聞いて、もう夏休みだなぁなんて思っていると、千葉家四姉妹、通称(自称)利明護衛隊(即席)がやってきて、このありさまだ。護衛隊を名乗るならもっと静かにしてろってんだ。

 まあ、うれしくないわけではない。

 おれの両親―――母親と父親は、現代風に言うなら『地味に』優秀で、容姿は『メチャ』いけている。息子のおれがいうのもなんだが、たとえば父兄参観などで、学校を訪れた親の顔ぶれを見ても、おれの両親は際立っていた。二人とも背が高く、スタイルがいいのだ。どちらも鼻筋がすっとしており、おれはあこがれの対象としてはまず親父を挙げるだろう。息子にそれほどまでさせるカリスマを彼は持っている。

 そんな二人の遺伝を受け継ぐのだから、そのままでも十分なはずだ。しかし、おれの姉妹―――上から花音、有紀、弥江、澄香―――はそれを拡大解釈してそれを受け継いだらしく。その容姿、身体および脳レベルは常人のそれを明らかに超えている。しかも、二人ずつ双子で似ているから、千葉四姉妹は近所でかなり有名だった。

 都大会。これは、うちでは当たり前のように発せられる単語で、彼女たち全員が最低でも何らかの種目でそこまで行っている。運動神経が一番あると思われる花音ネエがテニスで全国優勝しそうだった、というのが最高記録。ちなみに、花音ネエはその試合の前夜に風呂で足を滑らせ、その捻挫が原因で負けたらしい。もっとも、捻挫なんて思い起こさせない試合だったがな。たしか6−5で惜敗だった。

 そして、71.3。これ、なんの数字かわかるか?四人のある全国模試の五科平均偏差をまた四人で平均したものだ。四人そろって化け物だよな、ほんと。ちなみに、うちで一番優秀なのはいちばんおとなしくもある澄香で、一回、超難関といわれる模試――平均点が三十点くらいのテスト――で、すべての科目に於いて八十点を越し、数学なんか百点を取っていて、偏差値が100を超えていた気がする。勘弁してくれ。

 そんな逸話があるから、千葉四姉妹はかなり有名だ。加えて、親譲りの容姿もあり、かなりモテる部類ではある。が、彼女たちは男と別れたことがなく、男っ気が全くない。たまに花音ネエや弥江が男友達を呼んできたり、そいつらと遊びに行ったりすることもあるがそれっきりで、有紀ネエと澄香にいたってはあまり男子と談笑している場面すら見かけない。

 まわりの人間は口ぐちにおれがいるからだというが、彼女たちが男に走らないのとおれがいるのとでは全く関係のない話だ。と思うのだけど。最近そんな気がしてきてなんか不安だ。彼女たちの人生を狂わせたらどうしよう、なんて思っているわけで。

 で、まあおれはみんなのあこがれ千葉四姉妹の全員に介抱されてるわけだが。

 このあと、鵜方たちもくるんだよなあ。

 クラスメートがこの状況を見たらどんな顔をするか。

 おれ、ハブられるかも。もともとみんなとつるんでいるつもりはないが、マジで口をきいてもらえなくなるかも知れん。

「なあ、姉さんたち、いつまでいるんだ?」

「ん?ずっと」

「ふぅん、ずっと・・・って、ずっと!?」

「何よ兄さんそんな驚いちゃって」

「いや、お前な。今のは普通驚くぞ。学校があんだろが」

「ここから通うし」

「はぁ? 教科書とかどうすんだよ?」

「二週間くらいまともに勉強しなくても私たちは大丈夫さ」

 う、確かに。

「着替えは?」

「もつぃろん・・・」

「もってきてまーす!」

 やっぱりな。

 ってことはやっぱり・・・

「澄香や有紀ネエもここにいるのか?」

 澄香は首肯し、有紀ネエは、ん、と短く返事をした。

「寝床は? どうするつもりだよ?」

「リネン室から寝袋借りてきた」

 手の速いやつだ。こんなとき、優秀な姉妹って、微妙にいや。

「はあ・・・」

 どうしよう、マジで。

 窓の外を見れば鵜方たち来ちゃってるし。なんか見知らぬ女子もいるし。

 あーあ。終わったな。

 

 なんて心の中でぼやいているおれをよそ眼に、四姉妹は甲斐甲斐しくおれの介抱を続けていた。

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