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予兆

数学の種別、ローマ数字にしたかったんですが機種依存だとかで載せられませんでした。



 さてさて。


 妹澄香に「でも兄さん寝るだけなんでしょ」といやに胸に突き刺さる、予言(?)めいたお言葉を頂いた俺だったわけだが。

 今日は(というかいつも)どちらにせよ寝るつもりだった。澄香は鋭いから図星を突いて突かれるのは俺にとっても澄香にとってもあまり珍しいコトではない。

 バスの中では立ったまま寝るという妙技を発揮。

 目的地で何故かきちんと目が覚めるという都合が良い能力も身につけた俺。なんか寝るために生まれてきたみたいだな、なんて最近思ったりもする。

 最寄りのバス停からおよそ3分ほどの場所に俺の通う学校はある。

 県下ではそこそこ有名な学校だけれど、全国的にはあまり有名じゃない。かのT大には毎年現役10、浪人10の合わせて20くらいが合格するみたいだ。敢えて格付けするならば中の上と言ったところか。一流でもないが、二流でもない。そんな感じ。

 トップ10が合格すると単純計算するならば、俺も十分射程範囲内にあるわけだが、親父の薦めで留学をするかもしれないし、そこら辺はまだ分からん。

 ちょうど始業30分前に校門を通過。学校では寝る俺だが、欠席もしくは遅刻を一度もしたことがない。別に不真面目なわけじゃないんだ。本当に眠いから寝ているだけで。いいわけにもならないのは自分が一番分かってるさ。

 さ、教室に−−−


 ・・・・・・?

 んあ? なんか今季節感にそぐわない感覚が背中を撫でていったんだが。気のせいか。眠いしな。

 それに、空気が重い、というよりこれは鈍い?っていうのか。上からのしかかる感じではなく、通せんぼをされているような感覚。

 足が思うように進まない。


 ふむ。マジでやばいらしい。

 ・・・眠気が。

 

 というわけで、では全くないが、当初の予定を変えることなく、半寝の状態で学校へ赴き、机に到着した瞬間に俺は睡眠を開始。高崎さんに寝る直前に何か言われた気がするが、脳内で睡魔が目を覚ました状態の俺はステータスでいうならほぼ「気絶」に近い。

 見えない、言えない、出来ない、聞こえない。

 歩くことくらいなら出来るが、ヘッドフォンから流れる音楽すら聞こえない。そんな状態で人の話を聞けるはずもなく。

 イスについた瞬間俺の意識は彼方へ飛んだ。戻ってくるのは早くとも2時間後くらいだろう。


 ◆◆◆


 ・・・妙だ。この感覚。

 ここは向こうではない。私たちが人間の住む世界と定める、私たちにとっても人間たちにとってもあらゆる世界の原義であるはずの領域。

 この世界自体は人間にとって都合よく作られているはずであり、今人間としてこの世界に存在する私がこの感覚を覚えるはずがない。否、覚えられるわけがないのだ。

 人間と私たちは、いわば水と油。けっして相容れることはなく、分かり合う、分かち合うことなどおそらく永劫ない。その点で言うなら、悪魔の方がまだ人間に近い。

 世界は、その領域において危険因子および異常を排除するように動く。それはどの世界でも同じで、私たちの住む向こうの世界にも言えることであるし、その先、神々の居住エリアから行けるという平行世界でも同じことが言えるのだろう。

 どういうことだ?

 校門の外、すなわちこの学校の外は正常。至って普通。人間界のそれだ。この界隈、昨日見渡してみたのだが特に異常は感じられなかった。

 

 しかし、だ。

 もし、この感覚を正しいとするのなら。

 この感覚を信じるとするのであれば。


 今、この学校の中は、私たちの居住区や、戦いのためだけに舞台として用意したアナザーワールド、AWと呼ばれる区画と世界としての形態が似通っている。

 すなわち。

 今、この中は天使や悪魔にとって都合が良く、人間にとっては都合の悪い空間である、ということになる。

 おかしい。

 たしかそんなことが出来るのは−−−

 ・・・考えても仕方がないか。

 どちらにせよ、参加者がこの学校にいるのかも知れないということは確かだ。

 おそらく、戦いの火蓋が切って落とされるまでにそう時間はない。そういうことだろう。今確実に言えるのはそれだ。

 

 ・・・それにしても。

 彼が最初っからこんなに使いこなすことが出来るとは思ってもみなかった。

 この調子なら、戦争が始まってすぐに尖兵として呼ばれても問題ないだろう。体力もあるようだし、持久力がそれについて来るようになるのはおそらく時間の問題。

 聞いてみると、「キュードー」という弓と矢を使うアーチェリーに似た競技を習っているそうで、視力には自信があった、と言っていた。

 確かに、あのエイブラは視力が良い方が有利だ。特に、Vacancy−−−ヴェイクは“ルーム・ドラッグ”と呼ばれる類のエイブラではトップクラスの威力を誇る。ヴェイクの特性を生かすのに、そういう意味でも彼は選ばれた人間。

 エイブラとは、造語ablenation−−−エイブラネーションの略。簡単に言ってしまえば超能力のことで、その効果の発動は戦争の間だけに限られる。いわば、統括者から貰った戦うためのチカラ。


 なぜそんなものがあるか。

 人智を越えるチカラ、超能力がなぜ存在するのか。

 それをなぜ統括者という存在だけが与えることが出来るのか。


 私が知るはずがない。

 明らかに人間であったころの世界での規律と違いがあるのは分かる。が、違いが分かるだけでその理由の如何は80年ぽっちをこっちで過ごしたところで何も変わりはしない。

 高齢の天使(実に1000を越えた齢の人たち)の一部は知っている人もいるらしいが、そういう人たちは大抵あくなき知識の探求家だったり、変人だったり、何故か人との関わりを避けようとする人だったりすることが多いらしく、人間界に降りてヒトに混じって生活しているらしい。

 それも、流浪の旅人のように居場所をコロコロ変えるらしいので、会うことはまずないだろうと普通は言われている。

 それに会ったところでむこうが「自分は天使だ」と明かすはずもない。

 向こう−−−私たちの住む世界では天使は羽も見えるし、こういうとき以外は天使と悪魔以外の存在がいること自体ない。

 が、人間界に降りてきてしまうと羽は消え、外観だけ見ればふつうの人間と変わらないうえ、メタモルフォーゼ、いわゆる擬態能力は大体皆持っているので、天使であったころの容姿とは当然違うだろうし、人間としても何度も姿を変えているのではないだろうか。

 そのような理由があって、人づてに先の話題の根本を説いて貰うことは難しい。かといって、自分で学ぶにはおそらく1000年以上の時を重ねることになるのだろう。気が遠くなりそう。

 確かにこのことも気になるが、今はこのだらしない共闘者の世話の方が大事だ。場合によっては私が人間界に出ようかとも思っていたのだけれど、彼に猛烈に反対された。

 よく分からないけれど、彼は女性関係のトラブルが多そうだし、本当に懇願されたのでそれを断って強行に出るのはなんだかかわいそうだった。

 結局、いつか粘膜による精気搾取をさせてもらうということで同意した。楽しみじゃないといえば嘘になる。彼、美味しいし。

 それはともかくとして、今は戦争でエリアVの支配領域を確保することが先決。そのためには彼の養成ももちろんだけれど、そろそろ陣地形成を行う必要もあるはず。

 具体的な指示はまたヴァルキュリア様がお出しになられるだろうから、出たら対処するようにすればいい。

 学校に着いた瞬間、彼は寝てしまった。

 これを好機と見た私は、彼のもとを少しだけ離れることにする。


 いったん人間界に降りて。

 この学校の中での違和感を直に調べるために。


 ◆◆◆


 結局。

 

 俺が起きたのは二限目のあとの大きめの休み時間の後半戦。それまでずっと起きなかった。

 現在十時半。机に着いたのは確か八時五分くらいだったと思うので、軽く二時間半ほど寝ていたことになる。

 が、そこはさすが私立。

 たとえ授業中に爆睡していても、成績さえ下がらなければ見咎められることはない。わざわざたたいて起こされることもなく、俺は安寧の時を過ごした・・・と思っていたのだが。

「・・・なにこれ?」

「えっと、さっきの時間で出された課題?」

「課題?って、なんで疑問形?」

 まぁ首を傾げる姿も可愛いですけれどね。そこ、オヤジって言うな。

「多すぎだろ、これ・・・」

 いくらなんでも。

 目の前には今まで彼女、高崎さんが持っていたという(スマン)膨大な量のプリント。全て数学で・・・なんだよこれ、微分っておもいっくそ未習範囲入ってんじゃねーか。

 イジメか?

 全部でA4のプリント83枚に解答スペース付きで丁度100問。これを明明後日しあさってまでに、だと?

 はっきり言おう。ムリだ。

「さっき、ってどっち? 数A? 数一?」

 なぜか月曜、このクラスは数学が二連続で授業がある。数学嫌いにはたまったもんじゃないだろう。俺は好きだからいいけど−−−つってもどうせ聞かないから嫌いだろうが嫌いじゃなかろうが変わんなかったろうけどな。

 それに、プリントには数学A、B、一、二の全ての分野の問題 (幸いなことに三やCはないようだ)が練り込んであり、数学の先生二人はどちらもこんなことを平気でやりそうだ。

 俺の予想が正しければ“どっちも”って可能性が一番高−−−

「んー、たぶん両方かな」

 やっぱりか!

「なんか、あの二人仲がいいでしょ? 扇先生が竹中先生に千葉クンが昏々と眠ってた、ってことを言ったみたいだよ? 竹中先生が入って来るなり、おおー千葉は本当によく寝てるみたいだな、高崎、これ渡しといてくれ。そこの万年居眠り小僧に」

 扇っていうのは数学A、竹中は数学一の教師。

 余計なことを・・・。

 大体、万年居眠りってそれ死んでんじゃねーか。俺はまだ生きてらい。

 そんなところにツッコんでも意味はなく。

 俺は目の前に積まれた課題をいつどこでどのように処分するか考えた方が賢明 だと思い、さっそく一問目に取りかかった。


 ・・・俺が女嫌いになる理由、なんとなく察してくれただろうか。扇先生も竹中先生も女性。おそらく三十路前の。すげえ若いし、美人なんだな、これが。

 我が校において人気を二分する先生はこの二人だ。彼女らに目を付けられている俺はなんとなく羨ましがられたり疎まれたりしているらしいのだが、いいことなど一つもない。

 構われる、というよりこれはたんにいじられてるだけだ。彼女たちが早く次の標的を見つけてくれないかと天に祈ってみたり。

 ・・・授業で寝なきゃいいだって?

 そいつぁ出来ねえ相談だな。ムリでございます。

 だから、他力本願で行くしかない。たとえ授業で寝なかったところで当てられまくるだけだろうし。俺、何かしたか?


「あ、あと、提出間に合わなかったらその次の日の授業から寝てたらチョーク当てるって」

 知ってる。

 ちゃんと表紙のところの提出期限の下に書いてあるよ。

 “Present for you!”なんてハートマークまで最後につけやがって。

 “ついでに私たちの買い物にも付き合って貰います”って思いっきり個人的な用事を公的な理由で押しつけんな。要は提出期限に間に合えばいいわけだろ?意地でも終わらしたる。


 三限目は英語。

 珍しく起きてることに驚かれ(内職してることはスルーされた)、何回か当てられるもそれを軽くいなしながら数学に没頭していたのだが、なんか足りない気がしてまわりを見渡してみた。


 ・・・あ。

 エリー、どこ行ったんだろ。


 まぁいいか。

 腹減ったら戻ってくんだろ。

 アイツの分の昼飯を買うか、弁当をアイツの昼飯にしてしまうか。


 ふぁーあ。

 ホント眠いな。寝たいのにこの課題。ファック。


 ◆◆◆


 嗚呼ろくでもないこの世界。

 されどすばらしきこの日常。

 


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