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カノジョの弱点−ウィーク・ポイントー



 イメージは、振り下ろす爪。たたき上げる拳。薙払う腕。蹴り飛ばす足に、叩きつける頭。

 それら俺の中で作り上げられる想像は、衝撃ショックとして相手に伝わる。



 空間を操る、ってこういうコトだったんだな、なんて今更納得。

 ちなみに、可視範囲であれば相手が何処にいても当てることは可能だ。空間を座標として捕らえるというよりも、想像の中で自分なりの空間を作り上げるという感じ。

 敵の位置が分からなければ当てることは不可能だけれども、位置さえ分かってしまえば当てられる。そういう能力。

 自慢じゃないが、俺の視力は両目とも3に近い。結構遠くのモノの距離感も掴めちゃったりするので、この能力は案外俺にあっているのかも知れない。

 ま、それはいいとして。


「はっ・・・はっ・・・はぁー」


 結構疲れるんだよ、これ。

 超能力ってあこがれてる人も多いんじゃないかと思うが、それなりに代償はあるっぽい。現実の超能力サイキックがどうなのかしらないが、旨い話なんてこの世の中に存在しないってことだな。ちょっと違うか。

「ふぅっ」

 呼吸を整え、前を見る。

 形の細かいところは判断が付かない。なんせ500メートル先のドラム缶だし。500、なんてとくに陸上競技とかやってる人には大した距離に聞こえないかも知れないが、直線で見るとかなり遠い。ドラム缶はあのテレビとかでよく五右衛門風呂に使われるデカいタイプのやつ。それが少し遠目で見る空き缶よりも小さく見える。っていうか、ほとんど見えない。

 視力3に近い俺でさえこの見え方だ。一般人には見えないんじゃないか? 普通の人は1前後って話を聞くけど。

 視力は単純に見えなくなるまでの距離を整数倍するだけなので、たとえば、俺が30メートル先の文字をぎりぎりで判別可能だとしたら、視力1の人は10メートル以上離れてしまうと見えなくなってしまう、というわけ。あくまで基準だし、そもそも聞いた話なので真偽のほどは知らん。

「んー、お疲れ」

 向こうにいたエリーが羽をバッサバッサと音を立てながら戻ってくる。意外とこの羽、はばたくとうるさい。もちっと優雅に飛んでくれたりしないもんですかね。イメージガタ崩れ。

 しかし、飛行だけに移動は速い。彼女は時速80kmまでなら出せるそうな。速い人は150出せるとか出せないとか。そんなにスピード上げたら目的地に着くより先に体がどうかなりそうだけどな。

 今も、500メートルを四十秒くらいで戻ってきた。時速45キロ。路面電車とかその類よりも速い。

 その手には、複数穴が開き、見るも無惨にひしゃげまくったペンキ剥がれかけのドラム缶。最初は新品だったんだが、何回か掠ったらしく、ペンキが剥げ、折れ曲がったりしているうちにそこからさらに剥がれていった模様。

 ・・・あん? なんだって?

 何が掠ったか、だって?

 決まってるじゃんか、<ヴェイク>だよ。

 ・・・うん? 今度は、なになに?

 <ヴェイク>ってなんだ、だと?

 Vacancyだよ、Vacancy。

 いちいちヴェイキャンシー、っていうの面倒だろ。


 ・・・え? 単に作者がいちいち英語打つのが面倒だからじゃないか、だって?

 知るかそんなん。

 俺に聞くなよ。本人に聞いてくれ。


 とにかく、俺は<ヴェイク>って呼ぶことにしただけ。

 エリーの話じゃ、みんなこうやって略して読むのが普通らしいし。ヴァルキュリアも意地悪いよな。教えてくれれば良かったのに。

「まあ、初めて三日にしちゃ、上出来だわね」

 彼女は浮きながら件のドラム缶を品定めするように手で吊りながら色々な角度でそれを眺めて言った。

 上出来だってさ。目良くなかったらここまで出来なかったな、多分。神様の贈り物、ギフトに感謝。

「でも、ちょっと持久力が足らないかな。体力はあなたあるみたいだし、あとは馴れだと思うわ」

 持久力ねぇ・・・。

 これでも一応体力はある方だと思うんだけど。10kmを40分前後で普通に息を切らせずに走ることは出来るくらいには、体力を付けているつもり。水泳だったら、2時間くらいならぶっ続けでも泳げる。無所属、別称帰宅部にしちゃ、上出来だろうと思う。

 基準がよく分からないので、もしかすると高校一年生にしては体力が少ない、なんてこともあるかもしれない。

「いやいや、体力はあるみたいだけど、って言ったの私は。あなたに足りないのは、じ・きゅ・う・りょ・く・よ。持久力」

「? 持久力=体力じゃないのか?」

「んー、それは普通の運動ではそうなのかもしれないわよ? マラソンだったり、サッカーだったり、バスケだったり、セパタクローだったり」

 なぜに最後だけマイナースポーツ?

 バレーとかバドミントンとか見てくれだけは似たようなスポーツもあるだろうに。

「うるさいわね。いちいちツッコまないでよ」

 そういう彼女の頬は少し赤い。いくら高齢でもコイツの場合は精神年齢は外見と一緒らしい。

「いいじゃんか別に。セパタクローなんてほとんどのヤツがしらねーべ? 俺なんか最初に聞いたとき何かの必殺技かと思ってたし」

 セパタ・クロー、みたいな。

 セパタなんて単語は聞いたことなかったが、造語なんてこのご時世溢れに溢れまくっている。クローは「爪」のクローな。

 だから、なんか「○○の爪!」みたいなのを勝手にイメージしていたので、それが足版バレーボールみたいな競技だと知ったときは驚いた。意外にも有紀ネエと花音ネエはその存在を知っていて、授業でもやったことがあるそうだ。

「ま、花音の独壇場だったわよ、あれは」

 だそうだ。

 足だけしか使えないというのが基本ルールらしく、サッカーの経験でもない限り、地面に落とさずにボールをキープし続けるというのは運動神経がよくてもつらいだろう。女子なら尚更じゃないか?

「もういいのっ!そんなことは。 あんまりしつこいと教えてあげないからねっ」

 ありゃ。

 機嫌を損ねたらしい。彼女は頬を膨らませて向こうを向いてしまった。小柄な彼女の体格に、大きな翼が何ともアンバランス。

「悪かったって」

「・・・・・・」

 本格的に怒らせてしまったようだ。

 案外大人げないな。80才のくせに。15の若造の戯言なんて聞き流してしまうほどの貫禄がついていてもいいんじゃなかろうか。

 付き合って、というか知り合ってあまり経っていないので怒らせたときの対処法が思いつかない。もとい、見あたらない。

 どうしようか。

 いつまでそんな怒ってるんだ首疲れないのか、とか思いつつ彼女を眺めていた俺の頭に、神降臨。わかりやすく言うと、頭の上に電球がぺかーん!と。

 要するに、グッドアイデアが浮かびました。

 ふふん、腐っても四人の女子と一緒に暮らしている身。怒らせた相手が女性だった場合のみ大抵通じる方法を俺は熟知している。多分男にゃ通じないだろうな。そういう方法だ。

 さて、思い立ったが吉日。さっそくミッションスタート!


 ダダッダッダダン!なんて場違いなBGMが俺の脳裏をよぎった。

 だって、ねぇ?

 ミッションとかいうと俺これくらいしか思いつかないし。

 マト○ックスとか、ミッション・イ○ポッシブルとかは咄嗟にBGMが思いつかん。

 

 向こうを向いたままの彼女の背中にそっと近づく。

 ・・・デカい羽が邪魔だな。脇の下から手通すか。

 羽が丁度肩のあたりを覆っていて、肩から彼女の前側に手を通すのが難しい。

 というわけで、羽の下側、彼女の脇の下あたりにねらいを定め、一気にーーー

「ひゃわぁっ?」

 抱きすくめて怒りを有耶無耶にしちゃおう作戦!

「くっ、ちょっ、はなっ」

「んー、意外と軽いし、すー・・・なんかいいニオいすんな、お前」

 うなじあたりに鼻を近づけると、女性特有の甘い香り。人間でも天使でもそこは変わんないらしい。

「やっ、やめ、くすぐったいからぁ」

「ふー」

「きゃぅ!」

 耳に絶妙な加減の息を吹きかけてやった。

 耳まで真っ赤にして、彼女の体がビクンとふるえた。ココが弱いらしい。可愛いヤツ。

「じゃーあー、教えてくれるかな? 意地悪なんてせずに」

 猫なで声。

 それを出す合間にも、耳に息を吹きかける。

「お、教える、ひゃわ! 教えるから・・・っ」

「ほんとーに?」

「ほ、ホント! 本気で!」

「そう。じゃあ、これからもご教授よろしく」

 ぱ、と手を離すと、彼女は力なく膝をつき、肩を上下させて荒く呼吸をしながらこちらを軽く睨んだ。心なしか翼が垂れているような。本人の気分によって変わるのかしらん、なんて思ったり。

「大丈夫か? まさかそんなに効くとはおもってなぶっ」

「うるさいこのバカ!」

 う、おぉー。見事な左。

 ガードは間に合ったが完全ではなかった。柔いガードは腕ごと顔に押し戻されて結果的にダメージ。鼻に当たって結構痛い。

「ほら、行くわよ!」

 ばっさばっさと羽を動かして浮く彼女はこちらを見てそう言った。その頬はまだ少し赤い。

 つか、どこに行くんですかい?お姉さん。

「次の練習場所!」

 そんな怒鳴らなくったっていいだろよ。

「はやく!」

 へーへー。せっかちなお嬢さんだ。


 ぴん、と俺の中の空気が張りつめる。


 足下の空気を引っ張り上げるイメージ。

 指先を足の先に向け、引っ張り上げるようにして軽く引くーーーすこしの重さが指先に引っかかる感覚ーーー成功。

 それを引っ張り上げると、俺の体も持ち上がる。空気っていうのは案外力持ち。引っ張り上げる俺自身の力はほとんど必要じゃない。

 同じ高さに上がってきた俺を見て

「・・・上出来」

 彼女は満足そうにそう言った。

「どうも」

 そっけなく俺は返したが、結構嬉しい。

「じゃ、行くわよ。その調子じゃ、とばしても問題はないわね?」

 ふふん、と笑って。

 確認するように挑発する彼女。

 俺は答える。

「No problem」

 無問題。

 来る敵がどんなのかは知らんが、この時の俺はまだ何とかなるんじゃないか、なんて思っていた。


 ◆◆◆


 まぁ俺が意味の分からない(なんて言ったらヴァルキュリアやエリーに失礼だけれども)戦争に巻き込まれていようがいまいが、世界は回る。

 昨日が終わって今日がはじまり、明日が訪れるそのシステムにはなんら変わりがない。

 俺が退院したのは土曜日。で、一日と少しを<ヴェイク>の修練に当てたので、あれよあれよのうちに今日は月曜日。

「ふぁあああー、っくぅ」

 あくびを無理矢理かみ殺しつつの起床。

 基本俺は何処でも寝られる自信があったんだが、病院のベッドと枕って、固いわけじゃないんだが、なんか寝心地が悪かった。

 ・・・ただ単に夜の病院のあの独特の雰囲気が嫌だった、ってのもあるが。姉たちがいたとはいえ、結構ビビってました。情けないけれど。

 つーわけで、病院でもまともに寝ておらず、この土日もほとんどを運動でつぶしてしまい、俺の疲労度&眠気はMAX。

 ・・・こりゃ、普段学校で寝てなくても「今日は寝よう!」と思ってるだろうな。

 三階の洗面所で顔を洗い、髭を確認。最近少しだが伸びるようになってきた。うぶ毛だけど。

 特に問題なかったので部屋に戻り、寝間着のジャージとTシャツを脱ぎ捨て、脱衣かごにスローイン。

 シャツを羽織って夏服の生地が薄い紺色のズボンをはく。ネクタイは・・・まぁいいか。学校ですれば。

 親父のお陰でタダで手に入れたミュージックプレイヤーと、最近買った新しいヘッドフォンを持ち、暇つぶし用の文庫本と単語帳以外特に何も入っていない(置き勉です)カバンを肩に掛け、いざ階下へ。

 居間に入る。すると

「あ、兄さん、おはよう」

 ぺこり、と会釈したのは澄香。

「トシ兄! おっはよー!」

 朝からテンション高いなお前。こっちは弥栄だ。

「ああ、おはよ」

 適当に返事を返す。スマン、今日は本当に眠くて。

「兄さん眠そうだけど・・・大丈夫?」

 わりかし大丈夫じゃない。

「ふわぁぁぁあ、っと」

 本日二回目のあくびはかみ殺さなかった。顎痛いし。

「トシー、朝ご飯食べるのー?」

 うーむ。

 あ、今日パンか。歩きながらでも食えるな。

「んー、食う」

 そういうと、母はすぐキッチンから出てきた。

 今は眠いので紹介はムリ。また今度な。マジ眠い。

「はい、お弁当」

 と、一緒に渡されたハムトースト二枚。

「ありがと。行ってきます」

「あ、待ってトシ兄。私も行くから、ちょっと待って!」

 黙殺。

 といいつつ、玄関先で待ってる俺を世間はシスコンと呼ぶだろうか。

(多分呼ぶだろうな)

 むっ、なんだ今の声。天から降ってきたような。寝ぼけてんのかな。

「おまたせー」

 そういいながら出てくる妹二人の姿を確認しつつ、パンを口にくわえて歩き出す。

 

 さ、今日も一日頑張ろうかね。

「でも兄さん、寝るだけなんでしょ」

 うるせえよ。

澄香は勘がよろしいようで(笑)

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