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誓い、後悔、そして破壊-オウス、リモース、コラップス-

 やってみると、意外に簡単だった。


 何が、だって?


 決まってるじゃないか。


 俺に託されたチカラが、だ。


 


 Vacancyーーー空きスペース。


 普通は直訳するとそうなるっぽい。こういう使い方が一番多いんじゃないか、ってこと。

 ただ、それは元々の持ち主、ヴァルキュリアその人がそう呼び始めただけだ。

 

 彼女の意図するところ、彼女が示したかったそれ。


 Vacancyーーーすなわち、虚空。或いは、空虚。


 どちらもほぼ同じ意味。ぽっかりと空いた、何もない、虚ろなイメージ。Vacancy。

 生物はもちろんのこと、無生物ですら、有機、無機、発熱問わず存在しない。

 そんなイメージだった。それまでの、俺には。

 だが、彼女の言葉に依れば

「虚空とは、一般には何もない空間、もしくはそらーーー雲が浮かぶ、あなた方の世界では青いあの空を指すようですね」

 そう、あの世界には色が全くない。

 まるで、そんなものがはじめから存在しない、概念すらないのではないか、と疑ってしまう。

 白と黒も色だからその表現は必ずしも合ってはいないのだが、形を区別、判断するための最低限のものしか使われていない、というのはちょっと異常だ。

 あのときは俺がまだ俺が瀕死だったのと、彼女の庇護をうけることを決めてなかったから、らしい。今度行くときは、ちゃんと色彩が施されているのが目に映るだろう、ということだ。

 まぁ、俺が再びあそこを訪れるのはまた後の話。

「ですが、あなた達の国では有名でしょうーーー仏典では、虚空とはそれすなわち、


 ・・・一切の事物を包容してその存在の成立を妨害しない


 とのことです。虚空や空虚と言われれば何もない殺風景な感じがするかと思いますが、実際は全ての事物、事象を包括する、全ての空間を指すようです。

 そしてそれは、このVacancyも、同じ」

 彼女によると、Vacancyは虚空ーーーつまり、空間ーーーを操る能力らしい。

 操る、っていっても、火や水を自由に繰るのとはわけが違うような気がする。火や水は目で見ることが出来るが、空間とは俺も存在する領域のことで、その姿を見ることなど不可能だ。

 確かに存在するが、目には見えない。

 目には見えないが、確かに存在する。

 自分に見えないものなど、操れたところで何がどうなっているか分からないだろう。違う部屋でラジコンを操縦するようなもの何じゃないだろうか、と俺はそう思ったわけだ。

「そんなことはないようですよ? 歴代のVacancyは、空気の相ーーー空相とでもいうのでしょうか、が見えるようになっていたようです。 あくまでも、Vacancyを保持している間、つまり戦いの間だけ、ということになるようですが」

 ふーん。

 なるほど、"能力を使うのに必要な”能力ってのもくっついてくるのね。便利な話だ。

 超能力お手軽パック、みたいな。

 必要な器具や工具も全て入ってる、デ○ゴスティーニシリーズみたいな感じか。

 ・・・どうでもいいな、ホント。

 オチがつかなくなりそうなので、話を戻す。

「Vacancyの使い方については、先ほど紹介した天使エリーに聞いて下さい。彼女の方が、私より詳しいでしょう」

 と、彼女はそう告げて、俺の前から消えた。

 こんなだだっ広い空間に一人だけ残されて、さてこれからどうしようなんて考えているうちに、


 黒い世界の白が消え、目の前がいったん真っ暗になって


 一瞬の浮遊感の後、


 次の瞬間にはマスクをした女性二人が白い空間でこちらをのぞき込んでいる画像に切り替わった。

 一瞬の浮遊感は、立っている姿勢から寝ている姿勢に変わったからだと気づく。

 それと同時に、俺はそこがベッドの上で、さらに雰囲気と鼻をつく消毒薬の独特の臭いで、そこが病院らしいと気づいた。

 腕に、少しの違和感を感じ、そちらを見てみると、左腕には分厚く包帯がぐるぐる巻きにされていて。右腕には点滴、そして。

 向こうの世界で見た、紋様がうっすらと消えていくところだった。

 すでに完全に消える直前だったらしく、それは一瞬だったから看護婦 (今は看護士と言った方がいいのか?)さん達には気づかれなかったようだ。正直、そこにあると分かっていなければ確認できなかっただろう。

 それに、看護士さんたちは目をさました俺に向かって

「大丈夫ですかー、千葉利明君。見えますかー。見えたらお返事して下さいねー」

 そんなことを言っていた。その視線は顔だけに集中していたので気づかれるということもあるまい。

「はい、大丈夫です」

 と重傷にしてはやけにはっきりした声 (だったと、看護士さん達はそう思っていたらしい)で、俺は無事を知らせる。

 話しかけてきた看護士さんが、もう一人の看護士さんに目配せをすると、そのもう一人の看護士さんは頷いて出ていった。


 ・・・そのあと、家族 (っていうか、四姉妹な)が、なだれ込むようにして病室に入ってきて。

 ベッドの上の俺にさらなる危害を加えそうだという理由で、俺に声をかけた看護士さんーーーだと思っていたが、その人は俺の担当医、萩原さんその人だったらしいーーーにつまみ出された。有紀ネエと親父以外。

 まぁつまり母さんもつまみ出された。残りの三人が暴れ出すかも知れないから、なんて言ってたけど、どうだかね。俺の頬をいきなり往復ビンタしたやつはどこのどいつだったか。

 まぁそんな感じで、俺は戦いに参加することを誓い、ヴァルキュリアにチカラを託され、エリーに出会い、蘇りを果たした。

 それがたとえ、統括者による、仮初めの生であっても。

 戦いに参加するための、目的のための、モノのような扱いの命であっても。

 俺は。

 俺は、再び家族に会えて良かったと思った。

 そして。

 思ったからには、負けられない。そう、再び心に刻み、誓った。


 絶対に、勝つ。

 日本の平和を守るなんて、大それたことを言うつもりは毛頭ない。

 大切な人が生き残ってくれれば、究極それでいい。

 分かっている。

 自分がどうしようもなく我が儘で、自己中心で、エゴイストで、救えないほど莫迦だということくらい。

 痛いくらい、自分で分かっている。

 だから、俺は。

 莫迦なりに。

 戦って、

 絶対に、

 勝ってみせる。

 

 誰も俺の勝利を見ない。聞かない。知ることもないだろう。

 ゆえに、先にある勝利には祝福も、感謝も、勲章も、名誉もありはしない。あるはずがない。

 それでも、いい。

 俺は、まだガキだ。

 図体は大人でも、まだカネや名誉、栄誉や手柄、名声などには全く興味がない。そういうものは、いらない。

 ただ。

 ただ、そこで。

 俺の大切だと思うヒトが、たとえそのヒトにとって俺は大切じゃなかったとしても。

 そのヒトが、笑ってくれていれば、それで。

 それで、いい。

 ただの自己満足だと言われても構わない。

 残された、生かされた身にもなってみろと言われれば頭が上がらない。

 でも、俺は、自分が傷つきたくない。

 大切なヒトが傷つき、死んでいくのを見たくない。

 それはただの自己庇護欲。そう言われても俺は反論できない。

 他人が傷つくことによって傷つきたくない自分を守るために、他人を守り、自分を傷つける。

 端から見れば、可笑しい。おかしいに決まっている。

 でも俺は、大切なヒトを失う痛みを知っている。

 それは、何事にもたとえられない。一番近いのは、絶望。

 それも、近いだけだ。

「利明・・・お姉ちゃん達を、守ってあげて」

 懐かしい声。その声は俺の耳に張り付くように残る。

 俺は、莫迦だった。

 自分のことで精一杯で。姉に追いつきたくて、妹に追いつかれたくなくて。

 アイツのことなど、全く気にしてなかった。

 むしろ、鬱陶しいと感じていたかも知れない。

 いつからか、アイツのことを目の上のたんこぶのように感じていた。

 純粋に、邪魔だと、思ってしまっていた。

 俺にやたらと構うアイツ。世話を焼きたがるアイツ。姉たちに負けじと、俺に近づこうとした。

 俺は、アイツを拒否した。

 姉には逆らえない。が、アイツはほぼ対等だった。拒否は、可能だった。

 いつも、一定の距離を置いてアイツと接していた。

 一番近くあるべきアイツ。俺はアイツを突き飛ばしたに等しい。

 愚か、だった。浅はか、だった。

 その結果が、アイツを永遠に失うということ。

 あの声、あの笑顔、あの手のひら、あの体、アイツの、全て。

 もう、感じることは出来ない。何を以てしても、掴むことは出来ない。

 もう、失ったものは戻ってこない。手で掬っても、指の間から抜け落ちて形にならない。残るのは、思い出という残滓だけ。

「利明」

 あの声で、呼ばれることも、甘えられることも、頼られることも、抱きつかれることも、永劫、ない。

 だから俺は。

 これ以上を、失うわけにはいかない。

 また失えば、アイツに笑われる。バカにされるだろうし、叱責されるかもしれない。

 反省を生かせないのは、真の莫迦。本当のアホ。

 俺はアイツに誓った。

 家族を、大切なヒトを守ると。

 アイツは言った。

 守れなかったら、本当に怒るからね、と。

 

 だから俺は守る。

 全てを懸けて。

 だから戦う。

 このチカラーーーVacancyで。


 見返りなど、必要ない。


 俺が欲しいのは、安寧と、平和と日常。

 そして。

 彼女たちの変わることのない、笑顔だけ。

 

 失って傷つく自分が怖い。

 偽善で固められた決意は、偽善が故揺るがない。

 

 ◆◆◆


 その罪は深く


 後悔は、無限に等しい


 誓いは濃く


 責務は、重荷


 背負って歩くは咎人の定め


 払いて進むは戦士たる証


 振り返ることは不可


 あるのは前進のみ


 行き着く先が地獄であろうと


 俺は歩みを止めはしない


 行く先を壁が阻もうと


 俺が立ち止まることはない


 俺は死者


 既に死するモノ


 日光は毒


 月光は故郷


 闇に染まりし我が剣は


 光を引き裂くすなわち反逆


 陰に浸かりし我が心は


 光に牙剥くすなわち無謀


 次なる敵を


 更なる破壊を


 この身が求むは闇の性


 護ることでは守れない


 破することでしか築けない


 我がもたらす破壊と安寧


 止められるモノは---温もりにも似た幼な声

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