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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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ただいま

「おい。おい。『……』」

名前を呼ぶ声に振り返る。


 『窓ガラス』から光が差し、病院臭のする白い部屋がうつされる。

ボロボロの何年も洗っていないカーテンの仕切りには彼方此方ゴミや汚れ。

喉が渇く。鼻がツンとする。脚が震え、血が引いていく。

膝が堕ち、薄汚れた病院の床のべたつきを手で探る。


 あ。あ……。

目の前にある粗末な病院のベッドに繋がれたかつての友人。そして親父。

いきていてくれたのか。『俺』がつぶやくと。


 「あたぼうよ」全身を殴打して喋れるはずのない友人がつぶやく。

「何言ってやがる。俺が死ぬか」親父の声。

二人とも要介護で、色々あって俺が世話していた。

「だって。だって一〇年近く経って」「ふん」「だからどうした」



 「失礼。おふたがたは彼の親族なのですか」

後ろから声がする。振り返ると『はなみずき』。


「ヒュー?! 『……』! お前、とんでもない美人連れてきたなッ?! 」

お前、そんな身体でもまだ看護婦さんの尻狙ってるもんな。片腕をやっと動かす程度の癖に。

「おおっ? お前、式は何時だッ?! 」親父が嬉しそうにつぶやく。


「近く、盛大に。その時はお父様やご友人も招待します」異世界風の礼を見せる『はなみずき』。

その脇には『つきかげ』が何か言いたげにしている。


「じゃ、こっちのもふもふの狼な子頂戴」ダメに決まってる! この野獣めッ?!


 此奴、OBになった後も女癖の悪さが抜けず、監禁暴行事件を起こしてメンバーに裏切られた挙句にキン〇マ抜かれて全身砕かれて誰も介護してくれず入院費用も出してもらえないって状態だったからな。

あの女の子達は今だメンバーとケツ持ちに追われる身らしい。無事でいてもらえるように手配はしているが。

あの『和代』って子は幼いのに良い奴だった。不幸な身の上でなければもっと幸せな生活をしていたはずだ。


 しかし、『おおかみ』と呼ばれた娘はしっぽをふわふわフリフリ。喜色満面で踊りだしている。

「初めて初対面の人に『おおかみ』っていってもらえたっ?! おおかみだって! やった~! わーいわーい!! お兄さん大好きッ?! 」

耳をパタパタさせて、尻尾をふりふり、くるくる回って腕を振り回して踊る仕草は。

「やっぱ犬だな」「だな」「おおかみっ?! 」

両手をぶんと下に、しっぽとサンカクの耳を立てて抗議する彼女に大笑いする奴と親父。


 ブチ切れてぼくに噛みつく『つきかげ』を宥める『はなみずき』に呆れる親父。

「おい。二人も女がいるのか? 聞いてねえぞ」「いや、娘だ。義理の」

『つきかげ』の頬を押さえて引きはがすぼくに友人は告げる。「うむ。育てて食う。理想的だな」『俺』は源氏物語じゃねぇ。この下種め。


「う~ん。食われるくらいなら食べちゃいます! 」じゅる。そんな音を確かに聞いた。まだ懲りていないらしい。軽く『つきかげ』を抱き上げる。

「あ~? つまらんことを言う奴は誰だ~!? 貴様か? 貴様か~? 」

ぼくの腕の中できゃいきゃいと叫ぶ『つきかげ』。不意に彼女の手がぼくの手をひっつかみ、豊かな……。

ぐは。またでかくなりやがった。

それを見た親父とあいつが大笑い。

「俺も触らせろ」「やだ。その前に食べさせて。物理的に」

何やってるんだ。おまえら。大笑いするぼくたち。

あはは。涙出てきた。親父やこいつが元気でよかった。



「『つきかげ』。茶番はそこまでだ」


 『はなみずき』はつぶやく。

「この世界は何だ? これも公爵の記憶からうまれているのか? 」

あと、私は確かに死んだはずだと『はなみずき』は告げる。


「皇女さまだけならさておき、あいつ騎士団のみんなや、ゆりに手を出したからね」

艶然と微笑む『つきかげ』はぼくの、ぼくらの知っている彼女とはかけ離れていた。


「ぶっころしてやった」

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