ギルドカードの悪夢を
「『はなみずき』っ」「……」
思わず僕らは血にまみれたまま抱き合った。
確かに感触がある。香りがある。くらくらするような血の巡りを感じる。吐息を感じる。
地面すらわからぬ不思議な空間でぼくらはしっかり抱き合った。
「そろそろいいかな? 人間ども」
振り返ると冷たい表情の『しんえんなるうみ』。
かっと頬に血が上った僕らは子供のようにぱっと離れてお互い照れあってしまう。
「い、い、生きていてくれたんだ」「私も、死んだと思ったのだが」
「この世界は、神々の夢だ」
『しんえんなるうみ』はそうつぶやく。
世界を去った真なる神々の記憶と夢で構成された空間。らしい。
「これを見ろ。貴様たちも知っている『女神』だ」
「あれ? 」「む? 」
ぼくたちは思わず視線を交し合った。見覚えがある顔に見えたからだ。
その面は神秘的な美しさと、底の見えぬ悲しさを持つ。痩身の美しい娘の姿をした女神。
「この女神は『残虐と秩序の神』と呼ばれる。本来は創造神としてこの世界に生まれたのだが『慈愛と混沌の神』である姉神との戦いで生き残り、自滅を願い終わらぬ悪夢を見ている」
その自虐と呪いが世界を包み、絶望と飢えと混沌、冷気を生み出すという。
「彼女の夢を侵害して、貴様たちは『ギルドカードシステム』を運用している」
詳しい説明は省くが、情報の保管先は神々の夢を侵害する形で保管されているそうだ。
「人間でも『神』を名乗るものが稀に生まれる。多くは死者で『守り神』程度だがな」
他にも転生や蘇生魔法にも必要らしい。
「見ろ」
次々と表示される『人間』にぼくと『はなみずき』は呆然としている。
「お前たちは人間と言えるのか? 」最後に彼、『しんえんなるうみ』は問うてきた。
「私は、人間だ」「そう思っているだけかもしれんぞ。哀れな私のコピーのようにな」
鼻で笑う彼に『はなみずき』は応える。
「コピーかどうかは関係ない。民を想い、人を想い、夢を信じる。故に私は『わたし』であり続ける」
毅然と神と呼ばれる上位巨人族に告げる彼女をぼくは美しいと心から思った。