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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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ひとりじゃなくて

「『情報化』」


 『俺』の腕が複雑な3Dバーコード化して、拡散していく。

「てめぇ?! 何をしたッ?! 」「品性というものを身につけたほうが良いぞ。『カシジテンシャヤ』」

なんなら付与してやっても構わんが。その言葉を聞かずして『ぼく』は腕を中心に分散されていく。


「後は元の世界にデータバックしてやれば済む。全く。人間ゴミクズどもの所為で余計な仕事が増えるのだから困る」

彼は、奴は邪悪な笑みを浮かべ、『俺』に手を振って別れの挨拶。



  頭に血が上る。

残った腕が、脚が怒りで震え、肺腑に力を入れる。

「無駄だ。お前の身体能力や精神すら『情報化』される」『ぼく』をなめるな。


 呼気を噴き、気合一閃。刃として膝を奴の顔面に叩き込んだ。

「……」やったか。しかし奴は表情一つ動かさない。


「『神』を足蹴にするとは、実に短慮だな」「便所紙のほうがありがたいね」

しゅるしゅると音も立てずに水に溶ける墨が逆再生するように腕が元に戻っていく。

「貴様。アンチコードを持っているのか」「あんちこーど? 」

いや、それより聞くべきことがある。ここが何処か以前の話だ。


「『はなみずき』をどうした」「あの魔剣の皇女か。死んだ」

そいつは表情も変えずにつぶやく。俺の拳を握り潰して。

気が付いたら殴り掛かっていたらしい。

怒りより悲しみより先に身体が動いた。彼女の喪失を認められずに。


「話を聞け。そして『世界』の真実を知れ」



「あの皇女は中々勇敢だ。人間にしては情報量と質が高い」

ぼくたちはよくわからない光の渦の中を歩いていた。気が付くと拳の傷が無い。

「それぐらい、ここでは簡単に治せる」「すげえな」


 ここは何処だと問うと彼、『しんえんなるうみ』は皮肉げに笑う。

「ニンゲンごときに見せるものではないのだが、作ったのは貴様らだからな」と。

「ここは神々の夢の世界だ。そして、その夢、アカシックレコードに際限なく記録される情報システムがある」「わかんねぇよ」



「『全ての事象、物質を情報に還元し、変換、再生を可能とする。

反面、あらゆる情報、事象、世界そのものを管理できる偉大なるシステム』心当たりがあるだろう」「はぁ」

鈍い奴だと彼は肩をすくめる。


「歌が聞こえる」「今は去った真の神々にささげる歌だ」

「子供が舞っている」「これは村祭りだな」


 演舞の中央で祭りの女王と王に選ばれた男女が歌と踊りを神々に捧げている。

ドキドキとなる心音、子供たちの無垢な笑み、大人の男女の睦言、恋人たちの言葉。

老夫婦が寄り添い、歳を重ね、今際の際。老いた二人は共に口づけを交わす。

「来世も共に」「ええ」と。

「これって」「かつての名残だな。もっとも今でも稀に誤作動が起きる」は?


 振り上げられる刃。ずるっ。肉にめり込む石の短剣。

どくどくと鮮血が飛び出し、びくびくと断末魔をあげる肉塊。

異教の神官が無垢な乙女や少年を生贄に……捧げていく。

「神様」「神様」「かみさま」「かみさま」「我が神よ」「祝福あれ」「神々よご照覧あれ」

 「正直無意味なのだが、人間どもはシステムを誤解しているな」

これはなんだと食ってかかるぼくに奴、『しんえんなるうみ』は皮肉げに応える。

「あの程度の情報、大した貢献にもならん。だが全くならないわけでもない」


 星が生まれ、砕け、滅びて塵となっていく。銀河や宇宙そのものも。その脇をぼくたちは歩む。

「なんだこれは」「宇宙の全ては情報化出来る。聞いたことはないか」

そういえば『春川』がそういうSFを読んでいたな。



 ついたぞ。

「これが、貴様らがギルドカードシステムとよぶもの。その基底核だ」

なんというか、人間とも動物とも植物とも機械とすらわからないモノ達が蠢いているように見える。

「もっとも効率的な『システム』を自動的に採用して、自己進化する」「その結果がコレ? 」


「見ろ。これが貴様の愛するものだ」

彼が大きな『板』を引き出すと人間の形をしたホログラムが。

国王。ガウル。オルデール。アンジェラ。『かげゆり』。そして。


 ぼくの目が見開かれるのが解る。胸が喜びに震える。

ぼくはその美しい姿を求めて駆け寄った。

「『はなみずき』っ?! 」「落ち着け。これはコピー。バックアップだ」

空中に浮かび上がった『はなみずき』は青い光を帯びて虚ろな瞳を虚空に向けている。


「このデータは五年毎に追加される。神々の夢の領域を侵害してな。

微々たるものだが魔導帝国が滅びた現在はバグの元になってきたな」ばぐ?

「五人いただろう? 」……?


「このシステムは簡単な情報の共有化から始まった。

やがて人間どもの潜在意識、知識の共有システムとなっていく」インターネットみたいなもん?

「ああ。初期はさておき、貴様の記憶にあるパソコンなどは不要だがな」便利だな。

吐き捨てるように彼はつぶやく。「貴様の知識を参照すると『ヘッドセット』や『すかうたー』のようなものから、簡単な器具を用いた脳その物のリンクシステム、やがてそれすら不要なようへと進化していく」

よくわからんがすごいらしい。


「やがて、情報の共有化、集合知システムのみにとどまらず、システムは進化していく」

美容整形、延命治療、遺伝子治療、情報そのものの改変。実例を挙げて彼は説明していく。

「そして、世界、生態系すら変える力を人間どもは持った」それが魔導だと彼はつぶやく。


「解るかッ?! 個人、否! 世界そのものの意思、自由、心、身体能力。

記憶や自由意思まで自在に変換出来るッ それは世界でも人間でもないッ 全てへの冒涜だっ 

そして貴様の能力、衝撃波を気合で吹き飛ばすなどの物理法則を無視する力もだ」

故に、このシステムは破壊もしくは停止せねばならないと彼はつづけた。

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