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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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【コラム】何処でもいいから連れていけとは言ったが

「ここ。何処だよ」鴉野は彼に呆れかえる。

「なにここ? 」少女は珍しく鴉野の背に乗っている。


「Webの世界ですが」彼はにこやかに答えた。

確かにどこにでも連れて行けとは言ったが、斜め上過ぎる。

「そんな抽象的な世界によく連れてこれるな。フィクションの中のお話じゃないか」「いえ、私もフィクションの人間です」会話が成立していない。


「では、インターネットの成立についてのお話です」「ぱちぱちー」勝手に決めるな。調べるの俺じゃないか。

「えっと、確か核ミサイルでドンパチするのに便利だからコンピュータが用いられ、敵の核ミサイルでぶっ壊されたらどうしようもないから複数のコンピュータを繋げたのが始まりって学校で習った気がするな」「鴉野さんの学校ってどうしようもないことばかり教えますよね」アカって教育熱心なんだぞ。


「ぶっぶー! なのです! 」はい?

「正確には1994年、アメリカのタイム誌が発表したネタだそうです。

インターネットの前身、ARPANETは核攻撃下でのコミュニケーションを図るために開発されたというお話ですね」20年近く前なのか。

「立ち上げ時の責任者、ロバート・テイラーさんが正式にTIME誌に抗議していますね」へぇ……。

以後、その通説が流布するようになった。か。へぇ。


「実際は解りませんけどね」「そもそもテイラーさんって音響心理学者? なんだって」おいっ?!

「実際に組まされたのは別の人らしいです」「なにそのなろうの『ぼくのかんがえたさいきょうのシステム』みたいなのは」

「指示書を書いてからの仕事だったらしいですね」「うはぁ……現場大変だな」




 「ネットの歴史はハブるぞ」鴉野はすたすた。動画のデータにその歩みを止める。

「これは文楽だな」「この間鴉野さん見に行ってましたね」解説・歴史コーナーで見事に爆沈したけどな。

「待ち時間に暇つぶしに話し込んだ学校の先生と大学生が可愛かった」「おい」「こら」


 三人で操作する人形、演者一人で台詞を兼ねた歌を歌い、三味線が状況を説明する。世界でもまれにみる芸なのだが。

「3Dでデータ化出来るな」「音楽もそうですね」「小説だってイラストだってネットで見れる」


「Webって最初はテキストだったんだけど、画像や音声、動画などもアップロードして共有、いつでも参照することができるようになっていったんだよね」

はしゃぐ少女は動画サイトのボーカロイド曲と共に踊りを披露する。案外上手い。


 拍手する彼につぶやく鴉野。

「踊りも歌も古代では神にささげるモノで、当たり前だけど一回しかできないし、その場にいる人間しか見聞きできなかった」

だが、今はデータとなり、無限に増殖させることができる。

あるいはアバターを作ってそのアバターに躍らせることも可能だ。


「というか、偶像崇拝的にどうなの? お前」「こんなところでは神様も見ていない! 」環境への適応が早い子だ。


「楽器演奏などの全ての芸事は共有されるし、どうでもいい独り言も今は皆が共有して、反応し合っている」

結果的に凄いアイデアが生まれたりするし、どうでもいい雑音を延々と聞く羽目になったりするが。


 ナニコレ。少女が妙なデータを見つけてきた。立体的な設計図? と素材のデータだ。

「これは3Dプリンタのデータだね」「銃っすか」今の3Dプリンタはどんどん進化していっていてね。将来的には肉、生物組織も作れるらしいよ。


「ニンゲンが作れちゃうの? 」「原材料は30ドルくらいで調達できるっぽ」マジです。

一つしかなかった。一つしかできなかったものがどんどん複製できるようになっていく。

「まだ臭いとか味はデータ化できていないんじゃないっすか」「なっていくだろ」

鴉野は色のみならずたまに臭いや味や噛みごたえのある夢を見るぞ。



 場面切り替わり、ちょっと複雑なデータ世界に。

「鴉野さん。これがあの世界の『ソウルコード』と『マテリアルコード』です」「うーん」

「この内部には人間の人格、性格、記憶などが詰まっています」個人の意思さえも?


「じゃ、こっちが物質を情報化したものと遺伝子情報か」「ええ。データ故に改変できますよ。鴉野さんも若返ったり美男子になったり賢くなったりチートな身体能力や魔法能力を得たりできますよ」

うわ。なんか嫌だな。なろうファンタジーの主役みたい。

「人を殺しても良心の呵責を得ずに済んだりできますしねぇ」「あはは。冗談が過ぎるぜ」

鴉野は乾いた笑みを浮かべ、少女は小声で「ごめん」とつぶやく。

「あ。そんなつもりはっ?! 」泣き出す少女に戸惑う彼。

鴉野は泣くそぶりをみせつつ彼女が唾を目につけているのを確実に見た。


「なーかした。なーかした。仮想人格が子供をなーかした♪ 」

「いーやーや♪ こーやーや♪ せーんせに言ってやろ♪ 」

「辞めてくださいっ?! 二人とも! 私が悪かったですッ?! 」以前、花束爆弾で自爆されたからなぁ。


 何処まで話しましたっけ。彼は歩を進めながらつぶやく。

「実際、異世界から『異物』が混入した場合、システムがバグって異常なステータスを与えてしまうことがあるようでして」ん? 今変な事言わなかったか?


 現代のインターネットの発達は本来ありえなかった集合知を実現。

時間、空間、場所を超え、個人の姿勢や信条から壮大な本質を考えることができるようになった。

 あらゆるものがデジタル化され、最も安価に共有、拡散。

図書館や印刷と違って物理的な形を持たず、情報をコピーする手間もない。

情報収集は極めて高速で行われる。一説によると人類の仕事の速さは四〇倍になったそうだ。

「現代の『ストレス死』って概念は最近のものだからね」「ですね」便利になっているのに人間は豊かになれないらしい。


 WWWは社会交流を施して個々人の理解を深めるというけど。

「そーつかっている人、ほとんど見ないね」むしろ直接喧嘩し合うのに使っている気がする。

「アメリカも先日ネットの発言を監視していることをリークされちゃいました」

好戦性を更に拡大させたり、支配体制を強化したり、検索妨害したり、あるいは『興味のある』事象『のみ』に情報を制限し、誘導しているって感じだなぁ。

「やっていることは昔のマスコミも今のネットも大差ないんですよね」「情報は血を流して得るものだからな」


 つきましたよ。彼の言葉が二人の注意を促す。

「なにこれ」「これって」三人の姿は電子の海の進化の彼方へ。

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