『はなみずき』は死にました
「お初にお目にかかる。『カシジテンシャヤ』」?
その男が訪れたのはお客さんのいない午後だった。
珍しい。否。
「アンタ。誰だ? 人間じゃないようだが」「察しが良いな。異世界人」
上背は2メートル近いが、異常なほどの美男子で微妙に発光している。神族の証である。
人がぼくら以外に存在しないのは、そういう結界だからだろう。経験あるし。
イケメンはにこりと笑う。海の広がりを感じさせる雰囲気を持つ男だ。
「少しいいか。君の恋人についての話だ」「恋人……まぁいいや」
ナニが何でも元の世界に戻るつもりのぼくと彼女は結ばれることはない。
いい加減に別の男を見つけてほしいと思う反面、そうなったら嫉妬で動けなくなる自分も理解している。
「元の世界に戻りたいか。異世界人」「そりゃね」しかし神と呼ばれるエルフの『かんもりのみこ』や上位巨人の眷族であるトロール君でも首を振った案件だし、ソル爺さんも他の研究で忙しいし。
「お前の懸念を解消してやろうと思う。加えてお前を元の世界に戻してやろう」あはは。ご冗談を。
「私は神と呼ばれる種族だ。エルフのように人間と交わる卑小な種族と一緒にしてほしくないな」
彼は微笑みながらつぶやく。
「さぁ。準備をしろ。お前をさっさと元の世界に戻さないといかん」ふぅん?
「いや、今帰るのはちょっと困るかも? いつでも帰れるとか言われると帰るのが躊躇われる案件もいくつか」
五人に増えたアイツラとか。一人でも大変なのになぁ。
「問題ない。皆死んだ」はい? 今なんつった?!
あとはお前を元の世界に戻すだけだ。簡単な仕事だな。
彼はそうつぶやくとぼくの手を握る。
「『情報化』」
ぼくの左手がかすみ、別の形に変化していく。
その形はあのギルドカードのホログラムによく似ていた。