『はなみずき』と……。
どんな形であれ、『はなみずき』が五人いる。
このワケのわからない事態に頭を抱えたのはぼくと王城の皆くらいで、
本人たちは最初殴り合いをしたことを除けば大まかに仲が良い。
全く同じだとお互いの悪いところが逆に目について仲は最悪になるはずなのだが。
ぺた。「……離れなさい。『はなみずき』」「だって」
また抜け出してきたな。五歳の『はなみずき』。
「わたちたちはふーふだ。なにをえんりょするのら」まぁ確かに夫ということで公爵だとか言われているが。あれは国王のダジャレみたいなものでもあるだろう。
「いたああああああああああああっ?! 」
一〇歳の『はなみずき』が五歳の『はなみずき』を見つけて引きずっていく。
軽く目くばせされた。
くらくら。平衡感覚の異常が治っていない気がする。
「なんか一気に心労が」「……」ぼくと『かげゆり』が肩を落として振り返ると。
「もふもふ。もふもふもふもふも」「やめてぇ。皇女様」
ふわふわしっぽとサンカクの耳を畳んで『つきかげ』が泣きそうにしている。
もう子供じゃないのに相変わらず『はなみずき』に愛でられているからだが。
一五歳と二〇歳と二〇……歳の三人掛かりの攻撃にガチで泣きそうになっている件。
「しかし、『はなみずき』って有能だったんだな」「何を言う」
頬を膨らませる二〇……ごにょごにょ歳の『はなみずき』は珈琲の香りを楽しみながら笑う。
「民に姿を現すのは五歳の私。神事は一〇歳の私、騎士団は一五歳の私、事務総長は二〇歳の私」
一人で五人分の仕事を行う皇女が五人もいるのだ。復興が捗るどころの騒ぎではない。
初めて休暇を楽しめると抜かす彼女に残り四人が一斉に抗議を始めた。当たり前だ。
「一応、言っておくが遊んでいるわけではない。外交は私担当だ。
あと魔導士たちに今回の原因を含めて調査を依頼している」
ああ。あのパンツ仮面の件か。あれはいろんな意味で最強の敵だった。
合点するぼくらに『はなみずき』はぼやく。
「このような事例はない。もっとも私たちもギルドカードシステムを完全に把握しているわけではないのだ。魔導帝国の遺産だからな」
五歳の『はなみずき』が飛び飛びに話し、一〇歳の『はなみずき』がそれにツッコミを入れ、
一五歳の『はなみずき』が補足説明を行い、二〇歳の『はなみずき』がまとめて説明するには、
水晶球にて登録を行うが、水晶球は記憶の魔法が掛かっているわけではないらしい。
「しかし、何故か情報は王国全ての地域で利用可能だ」現在の『はなみずき』が述べる。
ぼく、結構情報ふっとばしちゃったけどアレが原因? 「それも考えたが。それならば私が五歳の時にお父様に尻を叩かれた記録なども消しておけ」おい。
「公爵が消した情報は『王国が把握する各履歴』であって『人生の記憶』ではない」
一〇歳の『はなみずき』曰く、八歳の時にワイズマンと……。
「それ以上言うなッ 」四人の『はなみずき』がブチ切れる。
「何をしたのか詳しく」「「「「きくなッ?! 」」」」
「そういえば結婚の約束をしたな」ワイズマンが勝手に人の店の珈琲を飲んでいる。
「無効だからな」「あはは。妹みたいなもんだし、受け流しているよ。でもあの頃の『はなみずき』は可愛かったなぁ」
すりすりすりすり。なんかムカつく。
五歳の『はなみずき』を肩車して、一〇歳の『はなみずき』の頭を撫でているワイズマン。
冷たく睨む一五歳の『はなみずき』と苦笑いする二〇歳の『はなみずき』。
「例の平和条約は」「滞りなく。まぁ相変わらず諜報員の皆には苦労をかけているが」
いきなり五人もの影武者?が出来れば敵味方混乱するのは当たり前である。
国王や彼女の姉たちは娘が増えたと単純に喜んでいるらしいが。
「五人もいるとマジ大変だぜ……あっちこっち好き放題移動するんだぜ」
オルデールがぐったりしている。いつの間にか一〇歳の『はなみずき』につつかれている。
「ふぉふぉ。わしは大歓迎じゃが」このころの『はなみずき』様のお尻は小さくてかわいかったのうとソル爺がバカを言うので、五人の『はなみずき』が一斉に剣の鞘を手にした。
「おお。強い」
記憶や技術は共有している。違うのは身体能力くらいだ。
相手がほぼ無抵抗とはいえ、王国どころか三国一の大魔導士といい勝負するとは。
ソル爺を袋たたきにする『はなみずき』たち。
しかし出会いがあれば別れもある。そのことを僕らは忘れていた。




