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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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『はなみずき』がいっぱい

「幼少期の私は可愛かったのだな」すりすりすり。一五歳の『はなみずき』が五歳の『はなみずき』を愛でている。


「やめんかっ! ……えと。ふほんいだがなんと呼べばよいのだろか」


 五歳『はなみずき』は舌足らずの口調で抗議をし、歳の割には長い手足をパタパタ。

女騎士たちがワラワラとアクセサリ類をもって奉仕を申し出ているが、その表情は子羊を捕えた狼である。


「騒がしいぞ」「ああ。『はなみずき』様。今可愛い『はなみずき』たんを愛でて」「無礼な」

キリリとした顔立ち、紅をひきたてのすべすべの唇。ほのかに香る香水の香り。


「……」「……」「……」


 絶句するぼくらに彼女は不思議そうに問うた。

「私がどうしたというのだ? 」

二〇歳の『はなみずき』が現れた。コマンド?!



……。

 ……。

「こうして幼少期と若き日の自分を見るのは不思議な気分だな」若干とはいえ若返って喜ぶ『はなみずき』は散々おもちゃにされてキレている一五歳の自分と五歳の自分に対して比較的余裕を見せている。

 たまらないのは五歳の『はなみずき』と一五歳の『はなみずき』だ。

彼女たちは同じ記憶を持っているらしく、話を聞いてみると細部変わらず。

共通認識は「朝起きたら若返っていた」である。

五歳の『はなみずき』はズタ袋のような貫頭衣をかぶって物乞いのように街中にいたらしい。

一五歳の『はなみずき』は新調したての鎧をまとい、二十歳の『はなみずき』は軽く控えめの化粧をしている。


「私がほんものだぞ」まったいらの小さな胸をはり、真っ赤な顔で必死に訴える幼女『はなみずき』に黄色い声を上げて愛でる女騎士たち。

「私が本物だ」一五歳の『はなみずき』は若干キレたようにつぶやく。そういえばこの娘。昔はキレやすかったな。

「すぐにわかることを彼是言う気はないが、皇族や王族を騙ると死刑だぞ。

私は何も聞かなかった。そういうことにしてやる」二〇歳の『はなみずき』はそれなりに落ち着いている。

記憶は共有しているが、精神的なものは多少の違いがみられるようだ。


「……助けてくれッ 公爵!! 」??

この上なんだ。貸し自転車屋に本業と関係ない仕事を押し付けるのはいい加減にしろ。『はなみずき』。……え。


 すらりと伸びた手足、端正で小さな顔。

サラサラの金髪は肩まであり、白い肌のあちこちは小さなすり傷だらけ。

脅えた瞳がまっすぐに僕を射る。半分裸のような服装で僕の胸に飛び込んできた少女は。

「朝目が覚めたら子供になって、森にいたのだ」

一〇歳の『はなみずき』は涙ながらに訴えた。


 五歳の『はなみずき』が宥めているのは自分より年上に見える少女。

一〇歳の『はなみずき』はここにたどり着くまでに相当怖い目にあったらしい。

一五歳の『はなみずき』が「皇女に無礼かつ破廉恥な真似を」とブチ切れ、

二十歳の『はなみずき』がキビキビと皆に指示を飛ばす。

どうなっているの? マジで?! パニックを通り越して唖然茫然のぼくにああだこうだと自分が本物だとアピールする四人の『はなみずき』。


 騒ぎを聞きつけて沢山の人々がやってきて。固まった。

「『はなみずき』様ッ?! 」一五歳の『はなみずき』をみて絶句する引退した騎士。

「ああっ 幼き日の『はなみずき』様だッ 天使のように可愛い皇女様の誕生の日を思い出しますッ 」老婆が手を合わせて喜びの声を上げる。

「『はなみずき』様。今日はお化粧のノリが宜しいですな」「死ね。ワイズマン」ワイズマン。お前も三十路近いんだから落ち着けよ。

まぁワイズマンはワイズマンだ。四人の『はなみずき』を見ても動じない。

「妹が増えたな」と平常運転のワイズマンに。

「うん! 」「ワイズマン。怖かったよ」「ワイズマン。誰が妹だ」「貴様のような悪辣な兄がいるか」反抗期かどうかも露骨に解るな。

ちなみにワイズマンと共に入ってきたオルデールは小うるさい皇女が四人もいる状況を見て卒倒した。

ポプラ夫婦は年輩の『はなみずき』たちの指示に従い、ニコニコと幼少期の『はなみずき』たちの世話を行っている。手慣れたものである。

ウインド氏は『むらくも』のおめでたの報告に来たのだが、四人の『はなみずき』からしっかりやるようにと薫陶を受けてガックリと心労に耐えているらしい……もげろウインド。



 そうしているとどんどん人が増えていく。

記憶に残る皇女様に黄色い声を上げる民に応える四人の『はなみずき』。

民の皆さん的にはいいことなんだろうが。


「あのさ。貸し自転車屋でたむろするのは辞めてくれ。

正直迷惑だ。最近の自転車がボロくなってきてたいへ」苦言をいいかけたぼくは黙った。

四人の『はなみずき』の瞳が一斉に僕に注がれる。


 五歳の『はなみずき』が女騎士たちの腕からするりとのがれ、

一〇歳の『はなみずき』が涙を拭い走り、工具を手に取る。

一五歳の『はなみずき』が放り投げられた工具を片手で複数キャッチし、

二〇歳の『はなみずき』が軽く腰を落として壊れた自転車の分解作業を開始する。


 恐ろしい勢いで飛び出した四人の『はなみずき』は絶妙のアイコンタクトを交わし、

膨大な自転車の再点検、再整備、修理作業を開始しだした。


 油の香りと彼女らの華やかな光景はそぐわないが、えも知れぬ魅力がある。

あっという間にピカピカに磨かれ、再生していく自転車の数々。

「私が本物である証拠になったであろう」四人の『はなみずき』が勝ち誇る。

思わず身体に合わない大きな工具を使いこなす幼女の『はなみずき』の頭を撫でてやると他の『はなみずき』がキレた。


五歳の『はなみずき』が「わーい! 」工具を手にはしゃぐ。

一〇歳の『はなみずき』が「私もだ」とキレる。いい香りの髪にちょっとくらくら。変なロリコン趣味に目覚めそうだ。

一五歳の『はなみずき』の機嫌が悪い。「何をしているのだ。本物は私だ」

二〇歳の『はなみずき』。冷たく笑う。「……ご自由に」怖いッ?! 怖いよッ?! お前ッ?!



 騒ぐ僕らの元に、ガチャリ。ガチャリと歴戦を隔てた鎧の音が聞こえてくる。

「今日は良い茶葉が入った」機嫌がよさそうな声。ぼくと『つきかげ』、『かげゆり』。騎士団の皆は絶句。


「王城から久しぶりに来たのだが、店主はどうしている? 」

白人の瞳の色は歳と共に大きく変わる。一様に驚愕に見開かれた四対の瞳がその大人の女性に注がれた。

ぼくらの良く知る皇女様はその様子にお茶の葉を入れた容器をぽとりとおとした。

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