『はなみずき』がふたり
「邪魔はしない。少しいいか」警戒と少し恥じらう表情を見せ、襤褸姿のその『幼女』は恐る恐るお店に入ってきた。
「どうした? 『はなみずき』」「大したことではないのだが」
『幼女』は尊大にまったいらな胸を張り、戸惑いの表情を浮かべながらつぶやいた。
「何故か身体が縮んだ。これでは剣も振うことができない」
絶句する僕に、その幼女。『はなみずき』は呟いた。
「こらっ?! やめんかっ?! 手打ちにするぞッ 」「可愛い。すりすり」「……」
もふもふもふもふ。普段は『はなみずき』が『つきかげ』に行う。
『つきかげ』に飽きたら『かげゆり』の長く黒い耳をぷるぷるぷるぷるしているのは良く見かける。
その普段の行為への復讐なのか二人は突如現れた金髪の超絶美形の幼女を散々愛でだした。
あっちこっちからリボンを持ってくる。ボロをきた彼女に自分たちが着ることができなくなった可愛い服を持ってくる。大変な騒ぎだ。
そこに。
がちゃん。新品の鎧の音を当て、まだ熟れる前の少女の香りを伴って『彼女』が現れた。
その声は愛らしさから大人の落ち着きを早くも見せだしている。
『彼女』のまだ紅をさしていない唇が動く。
「久しぶりに来たのだが、改装でもしたのか? 妙に店が大きく見えるな」
爽やかな笑みを浮かべ、新調したての青銅の胸当てと脛当て、篭手を付けた『少女』騎士が入ってくる。
「久しいな。と言ってもそんなに経っていないのだが……その金髪の娘はどうした?」
完全に固まるぼく。『かげゆり』。『つきかげ』。そして幼女『はなみずき』。
「はっ『はなみずき』?! 」「……貴様。まさか隠し子など言わないだろうな」
年のころは一五歳ほど。見目麗しく、青い果実のような輝きを放つ彼女は頬を膨らませながらぼくを睨んだ。
平和な午後だった。
最近来ない皇女を話のネタにぼくと『かげゆり』と『つきかげ』はのんびりお茶の時間を楽しんでいた。
とはいえ、『つきかげ』が言うには犬「おおかみだって。何年言わせるのよ」……狼である彼女にはお茶の類はかなり良くないらしい。犬猫にカフェインは良くないようだ。
いててててっ?! 久しぶりにかむなッ?!
「……」無言で優しげな微笑みを見せる魔族の少女は本当に見目麗しい。
『つきかげ』の中身は基本的に変わりない。もう少し落ち着いてくれたら良いんだが。
それに反して『かげゆり』の厨二病はだいぶ収まりを見せてきた。
当時の言動を『つきかげ』がつぶやくと無口な彼女は頭を抱えて床を転げる。子供か。
ティカップを指先で優雅につまみ、一人はサンカク耳としっぽふわふわ。もう一人は黒くて長い耳をユラユラ。
ぼくはぼくでボロボロの制服を脱いで少しいい服を身にまとう。『かんもりのみこ』が織ってくれた布地の服は現代の服飾技術で作られた服に匹敵するかそれ以上だ。そりゃ騎士団の皆も喜ぶ。
その騎士団だが、復興事業に各々の雑用にと超忙しいそうだ。ご愁傷様だが『保険』の維持のために頑張ってほしい。ぼくも入っちゃったし。
そんな時に『幼女』と『少女』の『はなみずき』は入ってきたのだ。
めちゃくちゃびびるのは当たり前である。