世のためだ お前のパンツを私にくれ
「今までで最強の敵だった」
『はなみずき』は後にそう語った。
薄い桜色……綺麗な……ぱいぱ……。
かたち……いろ……かお……り……。
「何を考えているのだ? 記憶は消したと思うが」
鉄木の木刀を握りしめ、真っ赤な頬に涙目の彼女は剣先を僕の喉に向けてつぶやいた。
身体から冷や汗といまだ残る平衡感覚の後遺症。
「何でもないです」「宜しい」
激闘により僕らは慈愛神殿に緊急搬送された。
敵は武装解除され、全身を捕縛、契約祈祷と契約呪に拘束された。
ちなみに、敵が身体、及び精神強化された事由は結局まったくわからなかったらしい。
敵の証言を信じるなら、「あの『すくーるみずぎ』なる品の体中を締め付ける感覚に俺の中の獣が目覚めた」そうだが再現は全くできなかった。この世界でそんな趣味に目覚める特異な奴は他に存在しないということであろう。
当然ながら幾重もの契約呪と契約祈祷に捕縛された彼は二度とそれらを纏うことはできない。
「幾度も貞操の危機を感じたり、命の危機を感じたり、犯せと命令される対象であり続けたりはしたが」これほど恐怖した相手はいないと断言する『はなみずき』。解る気がする。
「恐ろしい敵でした」「まったくだ。あの力の解明は急務だな」結局『不明』と各国の専門家たちは報告することになるがこの時点での僕らは知らない。
「しかし、お前のおかげで、民は元気に働いている」
夫を、恋人を失った娘や女たちが元気よく声を掛け合い、男たちの仕事を継いで頑張っている姿。
時々、彼女らの脇や腰の端からは白い輝き。
「『花咲く都』とも条約を結べた。徐々に戦後処理は進んでいくはずだ」お前のおかげでな。
彼女の手が僕の背中をたたく。まだよろめいてしまう。
「世の為にお前のパンツを提供してもらってよかった。あちらの国も木綿を提供してくれるそうだ」へぇ。
おかげで女性が元気に働けると彼女が嬉しそうに笑っている。色々吹っ切れたような笑み。
「ところで。皇女様」「なんだ」
ぼくは今回結ばれた条約の気になる部分をさした。
条約における第一条とはもっとも重要とされる。
民間レベルの交易の開始、戦後補償や領土確定、人質交換や捕虜の扱いを超えて第一条になっている部分。
「なんで『パンツは頭に穿く物ではない』って書いているのですか」「両国の同意の上での最重要項目だ。被害が大きすぎると判断されたからな」
平然と皇女様はそうおっしゃった。