幻! パンティ仮面!?
「こいつかッ? 」「ああっ」
震える剣先。正中線を守るためにも剣というものは身体の中心に剣先を向けなければならないのだが。
ぼくの魔導強化された鉄木の木刀も『はなみずき』の愛刀も震える。
時速一三〇キロで移動する総重量100キログラム以上の自転車に轢かれ
全身の骨を砕かれて死んだと思われた敵は何事もなかったのようにマントを脱ぎ棄てて両手を振り上げ、威嚇の姿勢を示す。
『はなみずき』のパンツを頭にかぶり、脚の穴から両目をだし、
クロッチ部分を鼻に当てて仮面とし、女物の旧スクール水着を身にまとい、胸にブラジャーをつけた刺客は死角が存在しない。負傷をものともせず、怖ろしい怪力で殴り掛かってきた。
敵の拳が空を引き裂き、蹴りが風を切り裂いて衝撃波となって『俺』達を襲う。
とっさに『はなみずき』の前に立ち、気合で衝撃波をはじこうとする『俺』。
ぶるぶると腹が震え、骨が軋みを上げる。激痛に歯茎から血潮の味がする。
「防ぎきれないッ?! 」彼女を巻き込み、ぼく等は激しく吹き飛ばされた。
鼓膜に損傷を受けたらしい。音が聞こえない。平衡感覚が失われている。
剣を構え、敵のモロダシの股間に向けて必死の突きを放つが、『俺』の一撃は虚しく空を切る。
重力すらないかのように足をそろえて上下逆に宙に舞った敵は、空中で股間を広げて襲い掛かってくる。
「どけっ! 」おそらく『はなみずき』はそう叫んだのであろう。僕を突き飛ばし、逆胴の一撃を放つ。
決まった。
そうおもったぼくたちは驚愕に目を開いた。
『はなみずき』の愛刀の上に悠然と立つ敵の姿。
「どうして」声は聞こえないが、彼女はそうつぶやいたはずだ。
聞いたことがある。人間の力は自らの身体や精神を壊さないよう、安全装置が働いていると。
それを打壊すことが稀にあると。
「フォォォォォ!!!!!!! 」声は聞こえない。
だが『奴』の『声』は風圧と覇気をもって僕らを圧倒する。
豪胆な『はなみずき』の剣が震えているのは平衡感覚を破壊されたからだけではない。
人間離れした速度。二人がかりの剣を余裕でかわす反応の速さ。
人間は生死の境に存在するとき、すべての記憶を思い出し、すべての事象が超スローモーションとして認識されるという。
奴の動きはまるで僕らの攻撃を読んでいるかのよう。鋭い拳の一撃は『はなみずき』の青銅の胸鎧をへこませる。血を吐き吹き飛ばされる彼女を必死で受け止める。頭に激痛。
吹き飛ばした対面に追いつき、回り込んだ敵の一撃を受けたと認識するより早く、
ぼくの意識は薄れていく。……クソッタレッ?!
舌を噛み、自らの頬を殴って気合を入れ直し、敵に対峙するも敵の動きが早すぎる。俺たちの剣は虚しく宙を切り、敵の拳はぼく等の青銅の鎧を砕く。
「どうしてここまで敵は落ち着いているのだ」「経験はありませんがあの胸当てをつけると安らぐそうです」
鼓膜は破れていても精霊語は届く。
「というか、あの下着はなんですか」「資料によると通常は股間に穿き、戦闘時は頭に被ることで身体強化される魔装束だとっ?! 」「資料、何を見たのですかッ?! 」
というか、どんだけ強化されているのだよッ?! 「私はッ?! 私はそのような危険な機能はつけていないッ?! 」
「この甘い香り、この素晴らしい高揚感。胸から広がる安心感……すべてが俺を強くするッ! 」
大きく腕を振り上げ、頭上で組み、高らかに宣言する敵。鼓膜が破れていても翻訳魔法は『魂の叫び』を解するらしい。
ぶち。
「おい。それは『俺の』だ」日本語でつぶやく。
いま、耳が聞こえない皇女には聞こえないはずだ。
我武者羅にタックルをかます。
全てがスローモーションに見える。敵がかわす。
背中を蹴る感触。宙に舞った女性は月を背に空を舞う。
豪快に回転した女性の影は。
逆立ちの姿勢で華麗な膝蹴りを敵に決めた。
……ノーパンだった。
俺は。敵は。
幸せのまま絶頂。もとい果てた。
『はなみずき』:(二人の頭をガンガン殴りながら)「記憶よ! 消えろッ?! 」