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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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パンツは被るものではない

「大変だ」


 『はなみずき』が深刻な顔をしながらお店にやってきた。

ナニがあったのだろう。関わりたくないが。

「今から『精霊語』で話す。私の知っているこの男の人相に見覚えないか」


 精霊の言葉は魔法の言葉だが、訓練すれば普通の人間でも話せる。

これは魔力を操れ、精霊の言葉を理解できるものにはある種のテレパシー的な役目を果たす。

世界一美しいこの言語も魔法の使えない『はなみずき』には雑音だ。

それでも根性で習得するあたり、この娘の努力家の一面がわかる。


「間違いない。この男だ」「スパイっすか」


 相手の体臭だの声だのもぼくにかかった翻訳魔法で彼女に伝わる。

彼女はぼくの翻訳魔法を介して初めて精霊語の美しさを解することができる。

が。今はそういうことはどうでもいい。


「『花咲く都』のスパイに開発中の下着を奪われた。今すぐ自転車を貸せッ 今なら追いつける! 」

「使用済みですか? 」「そうなる」なんて残念な連中だ。同情する。

ぼくは作業の手を止め、奥から秘蔵の自転車を出す。


 「リカンベントの用意をしてくれていたのかッ?! 」

それ、一応あるのは秘密なので大声で言わないでね。ポプラとかが困るんだから。

ぼくと『はなみずき』はリカンベントに飛び乗り、『花咲く都』のスパイを追う。

リカンベントは世界最速の自転車である。電動補助と『かげゆり』の空気抵抗からの防御を備えたこの車体に速度で敵う陸上生物は存在しない。

魔導強化された金と銀の風防に魔力の振動が加わり、重量を軽減。

空気抵抗を限りなくゼロにし、逆に追い風の加護を得る。

二人の漕ぎ脚がチェーンを強く回し、息のあったハンドルさばきが力強く地をえぐり稲妻の速さで駆け出したぼくたち。

「『つきかげ』ッ 『かげゆり』ッ! 店番頼んだッ 」「おみやげ頼むの」「……忙しいのに」



 暴風の音に反して僕らの周囲は非常に穏やかだ。僕らは風と一体化し、敵を追う。

馬に乗って駆ける敵国のスパイは必死で逃げるが、名馬であっても魔導補助のついたリカンベントから逃れる術はない。

 今僕らが共に乗り、共に駆けるこの車体はスポークを廃し魔導強化された銀のホイールバネを持つ車輪でリカンベントの弱点であるオフロードを克服し、

風の精霊の加護で空気抵抗を完全に廃し、神とされる上位巨人やエルフやドワーフたちの加護を受けた存在。速度計は既に時速130キロを突破し……。



「私の下着を返せッ 」「……」


 この世界初。下着泥棒は大国とのスパイ合戦であった。歴史に残せないこの事実。

ぼくのリカンベントを漕ぐ足が思わず弱まり、ハンドルが遊んでしまいふらつく。

「しっかりしろッ! 敵に逃げられる!!! 」というか、皇女様。あなた鎧下今日は着ていませんよね。ドレスも。

その。あの。真っ白で可愛いお尻が前にあると思いますと。

もちろんリカンベントは仰向けに寝転がる形で操縦する車なのでこちらからは見えませんし、

風防があるので『正面』も安全ですよ? それでも。それでも……気が散って後ろからこげないんですが。

目の前でノーパンの娘が両足を高く上げてペダルを回しているとか想像してしまうと。

やばい。妄想は現物よりやばいッ?!


「やる気はあるのかッ しっかり漕げッ」「ヤル気がMaxですッ!? 」


 やばいやばい。寝転がるべき自転車でマストあるよっ!むしろ180度overでッ?!

「公爵。例の『爆弾』だッ 」「あの試作品を走行中に手で投げるのはおすすめしません。我々は時速130キロで走行しているのです」ぼくは野球選手じゃない。

科学的な説明はさておき、投げる方向次第では余裕で走行速度に合わずに僕らが自滅する。

主原料がウンコの爆弾はちょっと。


「ええいっ まどろっこしいッ 」


 一瞬で敵を追い越し、急ターン。

ブレーキは使ったが効きが甘く、驚いた馬から転がり落ちる敵を踏みつけるように轢いてしまったぼくたちは敵の姿を見て絶句した。


 敵は。

パンツの使い方がわからず、覆面代わりに被っていた。

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