クロッチは男(変態)のロマン。らしい。
「なんだこの複雑な構造と妙な織り方は。このようなものは見たことがない」
引っ張ると伸びる生地、おそらく木綿なのだろうがこんなものは存在しないとおっしゃる皇女さま。
「『かんもりのみこ』がいれば織りの問題は即座に解決するのだが」いないもんな。
「ガウルめぇ! 『銀の弓』のみならずッ 今すぐ『かんもりのみこ』を連れてこいッ 」あのね。皇女様。
極秘で集まった魔導士、織り師などが僕の長年使いすぎて黄ばみが出てきたパンツを片手に喧々囂々(けんけんごうごう)。
「複数の小さな布地を立体的になるように裁断して作っているな」「この織りは再現できない」雑巾にしたのはもったいなかったかもしれない。ビジネス的に。
男物のパンツ片手にあからさまに変態の所業だが、彼らに罪はない。
「どうせなら『つきかげ』ちゃんや『かげゆり』ちゃんの下着を」『俺』ににらまれ黙るソル爺。
「女物があるのか? 」その言葉にキラリと目を光らせるインキンを貰った皇女様。
「余計なことを考えなかったか? 」殺意の波動を感じてぼくは答えた。
「ナ、ナニモ」「よろしい」剣を仕舞う皇女様。
しかし、ほのかにこの周囲、臭いと思う。なんかもう気分的にね。気のせいだと思うけど。
「女性用の下着は極めて複雑な構造を持っており、再現できないと思います。あと娘の下着は提供できません。数か月無視されます」『つきかげ』は温厚なほうだが『かげゆり』はマジで切れると怖い。
あの店にはいろいろな物品がある。エロ本付属のキャラものの女性用下着とか。
他にもお客さんが忘れた肌着、靴、スーツ、上着、傘など。貸し自転車屋の忘れ物は意外と多いのだ。
コンパウンドボウが忘れ物であったときはびびった。ナニコレという奴である。
「下着は他にないのか。ズボンのような……『すててこ』? やシャツも欲しい」なんでもかんでも黙っていれば持ち出しやがってこの泥棒皇女。
「異世界の物品を再現することで世の為になるなら」だからって身体張りすぎです。インキンもらうとか。
「おかげで辞書編纂までする羽目になったからな」
ぼくのツッコミの意味を誤解したのか肩を落とす彼女。
辞書編纂はとても大変な作業らしい。騎士団の連中最近姿現さないしな。
「このTシャツというのは良いですね! 伸び縮みして肌触りがよくて! 」「こちらのステテコも最高だ。普段着に欲しい」おい。ステテコを穿いて腹巻してTシャツとか昭和の親父か。
「そういえば」うん?
「『かげゆり』が珍妙なものを身に着けているのを見たのだが」ん?
「あの妙な乳当て。アレはなんだ? 快適そうだったが」ああ。あれね。あれも下着屋の知り合いが倉庫を一部貸してくれと言うからおいてたものだけど。
「わが国では自主的に胸の大きすぎる人間……姉上とか姉上とかが胸を抑えるために自作することはあるが、ああいうものはないな」ふうん。
「繰り返すが布が高価だからな」「確かにアレは豪華ですね」
「くれと言ったら断られた」「確かに」歳の割には胸がデカいし、気になるのだろう。
『つきかげ』は逆に下着つけないけどな。
補足すると彼女にはしっぽがあるし、胸が揺れても気にならないそうだ。
「この『ステテコ』の股間に複数の布があるのは合理的だな。乗馬で擦り減らない」そういう見方があるんだ。
「例の『禁書』を改めて見た。あの身体を完璧に覆う鎧だか下着だか分らぬ品々は興味がある」
「この布地はどうやって縫い付けているのだろう」グラビアアイドルが恥じらいの表情を見せながら座り込むフォトのクロッチ(股布)部分を指さしながら真剣に問う彼女。
うーん。本人は真剣なんだろうが、残念だ。
「鎧もそうだな。女の鎧は男物と同じなのだが」そうすね。
「やはり胸が苦しかったり尻に合わなかったりする」なるほど。
「私はある程度職人に直接注文できるが」ああ。部下の皆さんにも普及型の鎧や下着が欲しいのですね。
とことんアンポンタンな会話をしているようだが、当人たちは真剣である。
老人や職人たちは『禁書』に興奮しているので、役に立ちそうなのは皇女様本人くらいなのが現状の問題だ。
というか、何年も前の話を蒸し返すようで悪いけどぼくの本を返してほしい。マジで。