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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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鏡と猫と天使と『はなみずき』

間違えて連投してしまいました。

明日の更新は無しです。申し訳ない。

 「誠に申し訳ない」

『はなみずき』とアンジェラの謝罪に幻影の黒猫は笑ったように見えた。


「盾に可愛い猫を描いたのは私です」アンタも関与してたのかアンジェラさん。

どうりで異様に猫だけ描くのが上手いと思ったが。


「もともと猫が好きなので盾に描いていました」


 普段は大剣を振り回す彼女だが盾を使わないわけではないらしい。ひときわ目立つ大剣をもって弓矢で狙われるよりは盾を皆で構えたほうがいい。

彼女の一番得意な武器は大剣だが、周りの兵士と協調して槍を握り、盾を構えることもある。


「猫好きが猫を盾に吊るすとかあり得ない」「うううう」

地面に『の』の字を描いて落ち込むアンジェラさん。胸元が見えていますよ。

ちなみにポチは相変わらず木片(鰹節と判明)にしゃぶりついてしっぽをふわふわふわふわ。


「基本的に派手な装飾を可能とする装備は盾だからな。戦場では盾で家を判別するのだぞ」

『はなみずき』はそう答えるが、盾に生きている猫を吊るしたのはアンタだ。


「……」


 こちらも地面に『の』の字を描き出した。

アンジェラさんはギリギリ少女だから許されるが、大人の君がやっても許さんぞ。


「いえ、人間の高貴な女性にとっての『ジュンケツ』とやらは命と同等の価値があるそうですよ。ジテンシャ屋の店主さん」

それに、捕虜の手足を切り取って船の盾に吊るしたのは『花咲く都』の軍ですからね。皇女様の行った行動はまだ寛大と言えますとタマ。

ファンタジーの連中エゲツネェ。

「いや、ポチ殿の怒りもごもっともだ。国民を守る気持ちは猫も人も変わらぬということだな」「ポチはその前に食欲が来ますよ? 」

やっぱり猫だな。三味線にしてやりたい。


 タマは白い輝きを放つ。黒猫から白猫に姿を変えていく。

凛とした白猫の姿。確かに王族の威厳がある。それに反して。


……。

 ……。


「ポチ。ポチ。いい加減皇女様のお話を聞きなさい」

こちらの謝罪もガン無視で鰹節に夢中のポチ。それとも『はなみずき』の言葉など耳に入れるに値しないという考えなのかもしれない。海を越えて仲間の敵討ちにくる立派な男だからな。


「削り節なら残っているよ。ポチさん」

『つきかげ』がボソっとつぶやいた。

びゅー! 『つきかげ』にダッシュするポチ。しかし彼女が半分犬『おおかみっ?!』……であることに気が付き、急ストップしてみせた。


「にゃぁ! ……に、人間め、我が一族の無念をはらさでおくべきか」

動揺している動揺している。

「ふた袋、ある」さらに『かげゆり』がつぶやく。


「みゅう! 」


 ぼくが持った削り節を入れたパックに片手(?)で猫パンチを連打して奪い取ろうとするポチ。

猫族の王は、あっさり削り節で買収されてしまった。



 話を聞くとタマは現在『花咲く都』にいて、今ここにいるのは幻影らしい。 

「私たちは感覚を共有していますので、お互いの見たもの聞いたもの感じたものがわかるのですが」

ここでタマは人間ならため息をついたのだろう。ウンザリした仕草をみせた。

「猫はニンゲンとちがって特定の相手を持たないものなのですが」「ヒドイ」

タマとポチはお互い罵り合っている。仲は良いらしが。

どうもツーテールキャットは繁殖力が低く、他の相手がいないらしい。

「あの歌は君か。タマ」『はなみずき』がつぶやくと「素敵な歌ですね。あなたが『でーぶいでー』とやらで聞いているのを拝聴しましたよ」

タマは楽しそうにつぶやく。「そんなに前から我が城に」「猫ですからね。私たちは」

ポチがその気になったらもっと早く彼女の命が危なかったようだが。


 なぜ暗殺をやらなかったのかと問われてポチはあっさりこう答えた。

「メイド長殿が”『はなみずき』様の為にたくさんネズミを捕ってくれ”と魚をくれるからだ」「……今度彼女の給与を上げることにする」

自分の命は魚一匹で支えられていた事実に『はなみずき』はがっくりと肩を落として見せた。



「その。『三味線』と言う単語を連打することを辞めること。そして……『カツオブシ』で手を打ちましょう」

タマさん。アンタもか。


 こうして猫と人はお互い手を伸ばし、握手をして別れることになったのだが。

ちょっとまった!!!!!!!! ぼくは叫んだ。


「なんだ? 三味線にするというならば断わる」ポチは尊大な口調でつぶやいたが、口の周りに鰹節が残っている。


「あんた、食ったものの味を再現できるのか? 」「うむ。貴様もゴキブリやネズミの味を」その話するな。

「で、お前ら、感覚を共有していて、幻覚魔法が得意なんだな? 」「まぁある程度空間に干渉したりも可能だが」

ぼくはその閃きを二匹の猫に説明した。


……。

 ……。


 皇族専用の馬車が広場に停まる。

歓声を上げる民に応える先の戦いの『聖女』

歌は歌われる、楽器はならされる、剣と盾が打ち鳴らされる。子供は騒ぐ老人は拝むとえらい騒ぎだ。


『はなみずき』は王室の皆に指示を飛ばし、大きな布包みを馬車から降ろす。

皆が慎重にその布を外すと、翼をデザインした大きな鏡が出てきた。

その鏡は『大切なもの』『素直な気持ち』を移す力がある。


「こちらは準備完了ですわ」タマの声が聞こえる。

タマは『花咲く都』の聖女の猫らしい。『花咲く都』では聖女の呼びかけに応えて民が集まっているらしい。



「何する気なんだよ。アンちゃん」オルデールは貴重な魔導士なので今回の企画の補助には回ってもらっているが。

「暴れる奴は寝かせろ。以上」「了解。ってことは誰かが暴れるくらいえらい企みなんだな」うん。


 皇族の秘宝である鏡には人々の大事な人や素直な気持ちが映り、

あるものは抱き付き愛を告白し、あるものは家族と肩を寄せ合っている。


 そこに一匹の猫がやってきた。

黒い猫は何故か人の耳目を集める。アレでも王族だしな。

猫の対面、鏡越しに白い猫が映る。


 アンジェラがスケッチブックをもって図解のついた『指令書』を民に示す。

「手を合わせよう」と描かれたそれ。鏡越しに二匹の猫が手を合わせた。


 とたんに一匹の大きな魚が中空から飛び出し、

人々が驚愕する中二匹の猫は美味しそうに鰹節の削り節を食べだす。


「なに? なにが起きた? 」

狼狽する民に『はなみずき』が伝える。


「これから、ここと『花咲く都』の広場の光景とをこの猫たちが中継する」

戸惑う人々の目の前に異国風の装束をまとった無数の男女や剣士や老人子供たちが映りだした。


「このやろう! とうちゃんのかたき! 」「夫を返して! 」「死ねッ 戦友の仇っ 」

大声を上げて殴り合う彼ら。だがお互いの像は幻であり、彼らの拳は空を切った。

その事情は『花咲く都』の人々も同じだったらしく、お互いに罵り合い、殴り合うのだが。

こちらの言葉は向うには伝わらず、あちらの罵り言葉もこちらに届かない。

意図してそうしたのだが、民はやがて状況を理解しだしたらしく、こちらは指を二本立てるサインで挑発するのだが、あちらの国では縁起の良いものとされるらしい。

逆にあちらの国では腕を振るいあげて挑発するらしいのだが、こちらでは主に応援の意味を示す。

楽器を打ち鳴らしたり、盾を剣でたたいたりして罵り合っているのだか何をしているのかわからない時間が過ぎていく中、ぼくはゆっくりと鏡に近づく。


「鏡よ。我の思いを映せ」


 一瞬涙を浮かべた『はなみずき』が映ったが、

ぼくが今望んでいるのはこの映像じゃない。

見たこともない人々の微笑みを求めてもう一度鏡に言葉をつづける。


「鏡を。海を越えて微笑みを映せ」

寂しそうな笑みを浮かべた異国風の少女が映る。彼女があちらの国の『聖女』なのだろう。


 アンジェラがぼくらの間にたち、スケッチブックで指示を出す。

白い猫と黒い猫が躍っている絵だ。ぼくはおどけて鏡の前で踊ってみせる。

しばらくして『聖女』もエキゾチックな踊りを見せてくれた。


 ぼくの意識と猫の魔法がリンクして、ぼくが望む味が再現されていく。

手にずっしりとくる1いちリットル瓶の重み。指先が凍えるような冷たさ。

シュパッ! と音がしてあふれ出る酸味の香り。これが僕の記憶から生み出された幻だなんてねぇ。


 ……ぼくは一気に懐かしい故郷の味。コーラをあおってみせた。

甘くて爽やかでシュワシュワした舌触り、喉を突き抜ける爽快な感触。

 聖女は自らの手にある不思議な瓶に戸惑っていたようだが、ぼくの真似をしてコーラの蓋をあけて口に含む。


 彼女の憂いを込めた瞳がまんまるに見開かれ、ぼくと目があう。

ぼくは鏡越しに彼女とコーラの瓶を打ち合わせ、またコーラをあおった。

「美味いッ!!!!!!!!!!!! 」


 ぼくは叫ぶ。声の聞こえない向うでも聖女様が喜びの声を上げているらしい。

コーラの瓶を片手に振り返って、美味しさをアピールする聖女様。


「歌え」


 猫二匹が歌っている絵を見せてアンジェラが微笑む。

先ほどまで杖を敵国の幻影に虚しく振るっていた両国の老人達はお互いの国の歌を歌う。勿論声は聞こえないが。


 音を立てて水しぶきが飛び散り、お互い水浸しになって驚く老人たち。

勿論幻影術だが、心臓が止まるくらいには驚いたかも。申し訳ない。じっちゃんたち。


 おそるおそる出てきたスプライトのプルタブに手を伸ばす。

ぼくが開け方を鏡越しに解説すると、あちらの老人たちがまず缶をあけ、美味そうにその液体を呑んで見せた。

歳を忘れて飛び上がって喜ぶ老人に負けずとこちらの老人たちもスプライトの缶を開けて一気に飲み干す。

「美味いッ?! 」「なんだこれはッ?! 」



「楽器を鳴らそう」


 アンジェラが楽器を鳴らし合う猫の絵を見せる。

お互いの国の民族楽器を持ち出した吟遊詩人たちが歌を歌い、楽器を鳴らすが。

……残念なことに肝心の演奏はお互いには届かない。猫たちは共有しているが。

それでも楽器の扱いの巧みさはお互い解るらしく、時々彼らは苦笑いや微笑みを浮かべ合わせている。


「俺も! 」「私も! 」


「恋人とキスしよう」

アンジェラはキスしあう猫を描いたとんでもない絵を出してきた。

飛び出した二人の男女は一気に顔を赤らめる。

鏡越しに映る異国風の男女。こちらは主従といった装束である。

「な、なんであんたとこんな人前でキスしないといけないのよ?! 」「お前が俺が好きなのは鏡で確認済み」「そんな卑怯な方法で告白したって続かないわよ! あんたはどうなのよ! 」「一目逢った時からマジ惚れに決まってるだろうがッ 」

言い争う男女の両手が絡み合う。


……。


 歓声を上げる人々。

照れた様子の彼らの両手にはまた不思議な異世界の食べ物が。

気になって鏡を見てみると、突如の口づけをうけてうれし泣きに崩れ落ちる少女を主人である青年が支えている。



「友人と手を繋いで踊ろう」

アンジェラがスケッチブックのページをめくる。

こちらが自転車を持ち出し、かごと泥除けとで三人乗りで戯れればあちらはシーソーのようなジャンプ台のおもちゃを持ち出してくる。

歓声と喜びの声が、夜が暮れるまで続いた。



……。

 ……。


「私の家紋が決まったんです」


 後日、正式に『女男爵バロネス』の地位を手に入れたアンジェラが嬉しそうにその紋章を持ってきた。

 それは天使の翼をもつ鏡越しに手を繋き、しっぽでハートを描く白と黒の二匹の猫又ツーテールキャット

異世界の花の『はなみずき』を描いた美しくも愛らしい紋章であった。

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