しっぽの使者
壊されたはずの自転車には傷一つない。
火球で吹き飛ばされ、氷の槍で砕かれ、蟲どもがたかったはずの自転車はもとのままだった。
代わりに現れた変な光景と言えば小さな木切れに無我夢中でしゃぶりつく黒猫だけ。
「ど、どうなっている? 」ぼくらが呆れているのも無視して黒猫は木切れにしゃぶりつく。
ものすっごくしっぽを動かしていると思ったら二本ある。どうなっている?
「皇女様。ご無事でしたか」どこからか女性の声がする。
思わず目の前の黒猫に目をやるが。「♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 」……まさかね。
夢中で木切れにしゃぶりつき、「美味い! 」とか言っている黒猫にそんな威厳はない。
ゆっくりと空間が歪み、優美な細身の猫の姿となる。黒くつやつやした毛並。しなやかな動き。
そのしっぽはやはり二つ。「我が名は『タマ』と申します。『ポチ』の無礼お許しください」たま? ぽち?
タマ曰く。
彼らツーテールキャットは猫族の王であり、その若者であるポチは一族の無念を晴らすべく勝手に海を越えて旅だってしまったという。
タマ言うところのポチは「皇女様のお人柄も理解せずにまず打倒のみを考えるなど、人間のように未熟」らしい。
意味が解らん。どう間違ったら猫の王族が海越えて小国の皇女を自ら暗殺しようとするんだ。
ぼくらの視線を受けて額からダラダラ汗を流す『はなみずき』。
「まさか。あれか」心当たりがあるらしい。「アレでしょうね」何故かアンジェラも戸惑っている。
「何をやったんですか。皇女様。正直に話しましょう」
冷や汗をかきながら皇女様はこうのたまった。
「『花咲く都』では猫は聖獣とされるのだ」ほう。
「試しに盾に吊るしてみたら敵の攻撃がピタリと止んだ」
皇女様。皇女様。
そりゃ猫の王族の恨み買いますよ。