【コラム】「どうして立ち止まってるの」「未来は明るいに決まっている」
「今回はやっつけで書いた。ほとんどノープロットだった」
鴉野の告白に二人はクリームソーダを噴いた。
「……マジすか」
「だって猫の話を書くつもりだったのに、思い付きで九州新幹線ネタとコカ・コーラの国境の自動販売機ネタを同時にブチ込んだんだもん」
ハチャメチャである。
「というか、猫の話を書こうと導入だけ書いたら何故か章タイトルが伏線になった」
テーブルに突っ伏す二人。その足元に子猫が近づいてきてすりすり。
「今回は良い話だとか素直に感じたのに」
「妙に話が飛び飛びになると思ったら」
三人はクリームソーダを掻きまわし、白いアイスクリームを口に運ぶ。
シャリシャリした舌触りと心地よい冷気。喉から鼻を突き抜ける香気にはしゃぐ三人。
「で。猫の解説な」
「はい。まってました!」
猫の先祖を人間が飼うようになったのは穀物には手を出さずネズミを捕る習性が珍重されるようになってかららしい。
本文じゃないけど盾に猫の絵を描いてエジプト軍を追い払った話はガチらしいよ。
「へぇ」
「Wiki先生曰く、みとこんどりあDNAを調べた結果、猫の原種はリビアヤマネコさんらしいです」
稲や麦を人間が手にするまでは猫は狩りのライバルだったけど、人間が定住して稲作をするようになると愛玩と衛生の都合で飼われるようになっていくみたい。
ちなみにアメリカ人の猫をかわいがるのは異常で、なんでも猫だけでも三割の家で飼っているらしいよ。
「英文化圏の文化とともに単語を紹介する学研の辞書、『I SEE ALL』では猫の項目に1ページまるまる費やしている」
「……」「……」
ガチです。
「犬と猫の飼育割合はほぼ一緒なので猫に限ったことではないのですが、日本が350万頭。イギリス690万頭。イタリア600万頭に対してアメリカは6000万頭」
「圧倒的ではないか我が軍は」
最近の若い子にはわからないネタごめんなさい。そしてフランスが840万頭。国土の広さに限らず猫は愛されているらしい。
「中国や韓国は」
「Wikipedia先生には載っていない。調べる気もない」
誰かお暇な方調べてみてください。
「本文では、ってか本編でも鰹節を食っているポチさんだけど、調べて分かったんだが猫に食わせるには塩分過多なんだな」
寿命に響くので鰹節の摂取には注意したいところだ。
「でも300年生きているじゃないですか」
「あの種族は500年は余裕で生きる」
でもポチって100歳くらいだと思って当初書いていた。相方のタマがいないことを考えるに同名の猫なのかもしれない。って。ちょっとまった。
「あ、チョコ食わせるな」
「え~」
少女がチョコレートを猫に食べさせようとするのをみて鴉野は止めた。
「猫って食べさせたらいけない食べ物が多いんでしたっけ」
うん。百合、玉ねぎは絶対ダメ。人間用の加工食品に多く含まれるので人間の食べ物は避けたほうがいい。カフェインもダメ。
「猫は魚が好きと言われるが、魚にはビタミンB1が少ないので魚だけ食わしても寿命が減る」
「え~?!」
市販のキャットフードにはビタミンB1が添加されているらしいよ。
「ほかにもイカタコエビカニなどはビタミンB1を壊す酵素があるので大量に与えるのはおすすめしない」
但し、イカには猫が好むタウリンが大量に含まれている。
「アワビ、サザエもダメ。原因は海苔などの海藻なんだが」
海苔は匂いを嗅いで「食べさせろ」とねだってくるけど、光過敏症を起こして耳垂れや目やにの原因になるんだってさ。
「本人が望んでいるのに」
「ニンゲンだって本人が望んでいることを放置して良いことになるとは限らん」
彼女はチョコレートをまた一口パクリ。食い過ぎである。鼻血噴くぞ。
「もっと! もっとチョコ寄越せ~!」
「ダメですよ。子供が食べすぎるのは!」
どうみても猫と飼い主だな。お前ら。
「猫ちゃんもクリームソーダたべる?」
「やめなさい」
基本的に猫は汗をほとんど掻かないし水分を最低限しかとらない。人間のように大量の塩分を摂取することを好む生き物ではないらしく人間の食い物すべてがアレらしい。
「あと、猫は徹底した肉食なのでタウリンが必須。逆に甘みを感じる能力そのものがない」
「えええ。あまいあじがわからないなんてかわいそう」
体内で糖分作れるらしい。
「まだまだあるぞ。Wiki先生の転載だが、リンゴ、アンズ、モモ、プラム、スモモ、サクランボ、アーモンド。ナス、トマト、ジャガイモ、ピーマン」
その他ホオズキ等のナス科のソラニンを含む食物。アルコールににぼしに鰹節(塩分)、科学的解明がまだだがレーズン、ブドウ、アボガド。成猫にはミルクも危険と猫は食べられないものが多い。
「猫さんって厄介ですね」
逆に犬はニンゲンに与えられた食い物(穀物)を食べれるように進化したらしいけど、実際のところ猫に食べさせてはいけないものは原則食べさせてはいけないらしい。というより、人間こそがたとえ毒でも無理やり調理して食べてしまおうとする異常な生き物としかいいようがない。
「『つきかげ』さんが珈琲苦手なのはそこにあるんですね」
「アイツはなんだかんだいって紅茶は飲む。苦手らしいが」
「ニンゲンてけっこうなんでも食べられるんだね」
まぁ料理する種族だしな。
「例えば日本人が好む『こんにゃく』。原料のコンニャクイモはどうしようもない猛毒芋だ」
「マジすか」
「へぇ。こんにゃくってあのゼリーみたいなのかしら。あれって毒……というより芋の原型留めていないわね」
ゼリーみたいってか実際ゼリーとして丸呑みしては死にかける人間が毎年いる。
「ニンゲンって毒物でも食べようとするのですか」
「むしろ毎年フグ料理で死んでいるし……人間のあくなき追求を猫はどうみているのだろうね」
「じゃ、支払いは任せたね!」
「鴉野さんゴチっす」
「おまえらああああっ?!」
カランと鈴を鳴らし、猫にバイバイとする少女。
「二人とも次は何処に連れて行ってくれるの」
うーん。どこにしようかなぁ。
鴉野はカウンターの上に陣取る猫と目があった。
思わずにらみ合いを開始する。お互い威嚇しあう。
「カラスノ~! はやくはやく!」
「猫相手に何やっているのですか!?」
『どうして立ち止まっているの?』
三人は梅雨時とは思えないほど晴れ渡った空の下歩き出す。
「次、原始時代に行ってみたい!」
「いや、ここはですねぇ」
『未来は明るいに決まっている』
小さな猫たちの瞳の先に、去っていく三人の姿。
『新しいところへ行こう』(九州新幹線のCMより)