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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十一章 此花の艦隊

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【コラム】鴉野さんが逃げました

「あれ? カラスノは?」


 少女の問いに彼はぼやく。


「コラムで補填って面倒だからとストライキ中なのでは? 姿を見せませんし」

「だらしないの」


「では。鴉野さんに代わって読者の皆様に『アルマダの海戦』の簡単な解説を行いましょう!」

「ぱちぱち~!」


「――アルマダの海戦(アルマダのかいせん、英語: Spanish Armada、スペイン語: Grande y Felicísima Armada)は、スペイン無敵艦隊のイングランド侵攻において、1588年7月から8月(旧暦7月)に英仏海峡で行われた諸海戦の総称である。――(ウィキペディア日本語版より転載)」

「ウィキのコピペじゃないの!?」


「ウィキペディアも著作権がありますから注意です」


「よく言われる『無敵艦隊』とは論文や映画や絵画の名前からついた俗称みたいですね。スペイン本国では『至福の艦隊』などの呼称を用います」

「へぇ」


「実際は無敵でも何でもないのですが」



「あ、わかった。それって日本のボーソーゾクみたいだね」


 暴走族と一緒にするな。『アルマダ』は結構創作の世界によく出る名前だぞ。


 幼女を背負った青年は復興の進む街を歩む。



 首を左右に振りながら少女は問う。


「この街。燃えたんじゃないの」


「大規模幻覚魔法だったようですね。『敵を騙すにはまず味方から』ですよ」


 路上で振る舞われた安酒をあおる兵士たち。早くも娼婦たちが稼ぎ時と戻ってきている。


「『もうだめだっ!』ってさしもの俺も思ったさ!」


 酒を飲みながら騒ぐ兵士たちが酒場娘相手に叫ぶ。


「そしたら、俺たちの背後の燃えた筈の町が綺麗になっていて」「俺は故郷の畑が見えたな」「俺は死んだ妹や親父が手を振ってた」

「『はなみずき』様の激励が届いたとき、まだやれると」

「俺も」「俺も」「俺もさ!」



 熱く語る青年たちの脇を通り過ぎる彼。さり気なく山崎の瓶を彼らに手渡す。


「追討戦は」「無理っぽいな。なんとか交渉でカタをつけるしかない」「数百年間いがみあっていた三国がここまで連携できるとは向うも思ってなかったらしい」


 街角を抜けて歩く彼。

 街中は早くもお祭り状態。


「……どこまで話しましたっけ? 経緯としては海賊を用いたイギリスの私掠行為、ネーデルランド利権、そもそも同じキリスト教でもカトリックとプロテスタントとの違いなどなど」

「眠くなりそう」


 ちょっと。しっかりしてくださいよ。彼は悲鳴を上げつつ少女を抱き、歩を進める。


「スペイン凋落の遠因と呼ばれますが、実際にイギリスが強くなるのは長い年月を要します。

 ちなみに、この物語に登場する『花咲く都』は600年後の世界でも存続していることが確認されています」


 一度強国になった国はそうそう滅びん。


「実際、反攻作戦にイギリスは失敗していますから」

「ふうん。皇女さまが追撃しなかったのは賢明なのね」



「三国の栄光に乾杯!」「『女男爵』の美貌と勇気に乾杯!」「神の奇跡に乾杯!」

「『はなみずき』様と『悠久の風』に栄光あれ!」


 通りすがる彼の隣で騒ぐ人々。


 資材を運び、都市計画書に従い、作業を行う貧民たち。


「ご飯が食えるのはありがたいよね」「真っ先に作業員の住むところを作ってくれた国王様に感謝だな」


「あ、もし宜しかったら。これ戦勝記念ですから」


 彼が差し出した御握りを見て不思議そうな顔をする人々。


「これ、噂の妖精の食い物かい」

「ですです。美味しいですよ」


 うまいうまいと狂喜する人々にあきれる青年に耳打ちする少女。


「いいのそれ」

「どうせバイト先のコンビニの廃棄弁当ですから」


 二ホンは食べ物豊富だねと感心する少女を背負い、彼は再び歩き出す。



「コンビニ弁当なんて残していったら鴉野さんマジ切れしそうですので撤退です」

「……しらない」


 ちなみに日本の廃棄弁当の量は一日一店舗あたり三〇食相当。一二.〇〇〇店舗あれば三六〇.〇〇〇食分に相当し、その廃棄額は一八〇.〇〇〇.〇〇〇円にもなる。


「思いのほか儲けさせて頂きましたので還元しないと」「豪気だね」


 飄々とした態度で彼は歩みを進める。


「コネ入社が決まっている大学生的に、泡銭身につかずです」


 コンビニの制服を身にまとった二人組に手を振り、彼は立ち去る。


「渋谷君!! ビジネスチャンスだぞっ!」

「社長、この国ってか此処どこですかッ?! 俺たちいつの間にッ?!」


 緑色のマークをつけたコンビニの配送トラックに群がる人々に『救援物資』と日本語で書かれた食料を次々と運び出す二人組は「儲かって儲かって嬉しい悲鳴だよ! 渋谷君!」などと叫んでいる。



「儲かって人助け! 商売人冥利に尽きますね! ハゲ……もとい社長!」


 渋谷と呼ばれた青年が叫び返すと凄い笑顔でおにぎりや廃棄弁当を配りまくっている。


 あの人たち、風景に溶け込んでいるよねとはしゃぐ少女を抱き直し、彼は窓の上からなけなしの花弁を投げる女性たちに手をふる。


 長身の美男子の微笑みに黄色い声を上げる女性たち。


「無敵艦隊の敗北はイングランドの宗教問題やら砲兵の地位の向上やら、メディアの力やら色々な側面がありますねぇ」

「わかりにくいね」


 色々解ったら作者は高卒のバカやっていない。


「あと、トップが海戦を知らない温厚な人で不適格なのに『地位があるから』と無理やり国王が総司令官を押し付けた人事問題も今に通じます」

「今でもその人、バカにされているんだってね。かわいそうだね」


 当時首脳をやっていただけで異国に戦犯呼ばわりされて、死んだ今でも本国ですら政治利用されている人々もいるぞ。



「この勝利によりヨーロッパ中のプロテスタントが勇気を手に入れ、イギリスの国威は女王エリザベス一世没後も高まりますが」

「なんとかかんとかって人が書いた適当な数字の所為で今でもスペインは苦しんでいるんだっけ」


 ラスカサスさんです。


「基本的にイギリスはほとんど外交的に利を得ることができず、和平条約はスペイン有利に終わっています」「戦争に勝ってもうまくいかないのね」


 戦後処理は大事。


「スペインは海軍編成をやり直しますし、長い期間海上覇権国家として生きていきます」

「……うーん」


「ラスカサスさんはいまでも評価されると同時に非難される存在です。報道とは良し悪しですね」

「伝聞をそのままTwitterでリツイートするのって良くないね」


 特にソース不明は確認しろとは黎明期のにちゃんねるでも言われた話だからな。


「ラスカサスさんの時代は一部の人しか本に出来ませんでしたが、今は万人が発信できる時代です」



「ラスカサスさんの著作はその後、スペインを攻撃するためにずっと政治利用されることになりますが、四〇〇年以上祖国スペインを苦しめているのです」


『はなみずき』さんが作った一部嘘八百の本は何年『花咲く都』を苦しめるのでしょうねと彼はつぶやき、復興の進む都を後にする。



 そのころ。


 鴉野は周りの連中につかまって大量の安酒を飲まされてダウンしていた。動ける状態ではなかった。


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