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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十章 愛から始まり腕力で終わる
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【コラム】ウェブスターさんと異世界小説

「花水木。……所謂アメリカヤマボウシなのだが、ヒロインの名前を考えた時は語感で決めてしまっていてね。即あの世界に植生しているかどうかをウィキペディア日本語版で調べたのさ」


 鴉野と彼は南北戦争が終わって直後のアメリカを歩む。


「ファンタジー書いているとよく『ブドウがある』とか書いてしまいますからね。植生調べるのは基本ですよね」


 この時代はまだ地方には奴隷がいた。彼らはまだ『この世界においては人間として認められてはいない』。


「人間が人間を名乗れるようになるのは、現代でもまだまだ先だと思う」


 鴉野の皮肉は止まらない。


「結果的にアメリカ産であり、どう考えてもあの世界にはなさそうだと思ったんだが」


「採用したんですね。異世界の花だとして」

「結果的に良い話になったしね」


 貴婦人の横を通る。黄色人種である鴉野と彼、中東の血を引く少女ははっきり言って目立つ。



「なんか、ガイジンガイジンと日本人に呼ばれてキレる白人さんの気分ですね」

「もっと侮蔑的だろ」


 さっき入った酒場では水もろくに出してもらえなかったぞ。


 ああ。そうそう。『はなみずき』には『公平にする』『あなたへの返礼』『華やかな恋』などの意味もあるよ。


「花言葉ってロマンティックですよね」

「どっこい、花言葉ってのは各国共通していない」


 国によってはまったく正反対の意味になることもある。国際結婚は慎重に。


「じゃ、辞書が必要というわけですよね」

「実際、幕末の志士も太安万侶もまず言葉の定義から始めたからな」


「おーのやすまろ? ビートルズの奥さんでしたっけ」「そりゃオノヨーコさんやっ?!

 ぜんっぜんっ違うわ!」


 ぼけたセリフを放ちつつ、少女を負ぶって進む彼。はしゃぐ少女は周囲の視線を気にしていないようだ。

 しかし太安万侶を説明する羽目になるとは思わなかったが、彼は古事記の編纂者だね。



 漢文で書けば日本語が死ぬ。しかし日本語の音を表す文字が無いと苦悩しながら読み方をまず定義してから古事記編纂に取り掛かった。日本史で習っただろ。


「ゆとり舐めてはいけません!」

「お前は既にサトリ世代だッ?!」


 ぼけたセリフを放つ彼。


「なんで辞書編纂からだったのですか? 国には書物よりまず武器とかが必要でしょ」


 いや、先立つものは武器というか食料軍資金だが。


「ぶっちゃけると、その武器を使いこなすソフト面が無いのでな。明治期ごろのお抱え外国人どもは内戦を起こして乗っ取る戦法を多用していた」


 しかし当時の日本人は無駄に教養があったからな。民間レベルで。


「蒸気機関を見た次の日には同じ仕掛けのおもちゃを作ってたとか言いますものね」

「ああ。江戸や大坂の大都市は村社会で使用する為に発達した日本語を『他人』に使う必要があったからね」


 身内相手に豊かな感情を表し、目上の人と接するに日本語は便利だが理屈っぽく他人と接するのは苦手だ。



 結果的に理論的にモノを言う学問や数学(※和算)、小粋な洒落で喧嘩する文化が都会である江戸や大阪には育つことになる。


「なるほど。そもそも薬やらなんやらを無償提供して、キリスト教広めて、商人来て、やがて自国の民を奴隷として連れ去ったりして、最後は軍隊が来て侵略してくるから日本は鎖国したのですよね」

「はた迷惑だよな。日本海バリヤーさんと太平洋さん凄すぎ」


 逆にその難所な日本の海をわたってくるモノは凄くありがたがれた。『竹取物語』の時代から既に先物買いするなと命令されていてもこぞって先物買いされていた。


「かぐや姫みたいな昔話に生々しい話が……」

「もともとあの女は物語序盤では人間性の欠片もない化け物だ」


 興味のある方は文庫で。当時の日本人の舶来モノ好きが解る。


「でも当時の日本人って洋物のほとんどを実際見たことがないのでは」


「虎の絵を日本人は描きまくっているけど、虎見た奴はほとんどいないかと」



 完全に架空生物の龍と同じレベルの認識だったと思うが当時は問題なかったのだろうね。


「ほんと、辞書がいるっすね」

「長屋の熊さん八さんもご隠居にいつも相談しているもんな。文字通り生き字引。知っているのかライデン!」


「らいでんってなに」

「すまん、今の読者にはわからないね」


 ……かぐや姫はどうでもいいとして、辞書の話な。

 日本や中国は紙が昔から豊富だったから辞書が一般的にあったんじゃね?


 とはいえ、調べてみたら西洋にも結構辞書があるんだよなぁ。


「『最近』の業績で言えばウェブスターさんは偉大っすねぇ」


 この時代のアメリカは文化や思想が統一されていないからね。

 移民の国であった当時から思想や文化が違うのは当たり前っちゃ当たり前だが、牧師は教師の訓練を受けておらず、教室はひとつ。七〇人くらいの子供たちが年齢を問わずにアメリカではなくイギリスの英語の本で授業を受ける。その教育状況を憂慮した偉大な人が、のちの辞書の代名詞を作ったノア・ウェブスターだ。



「ウェブスターの著書は『スペラー(綴字法)』、『グラマー(文法)』、『リーダー(読本)』。


 この三つをアメリカ式思想とキリスト教の一貫した思想で描いた。


 この教科書は五世代に渡って愛用され、アメリカ人の精神の指針となった」


「思想でアメリカ大陸を統一しちゃったんですね」


 ……まぁ二〇世紀になると全ての既存宗教を否定して、皆が平等に助け合えば世界は平和になるという、

 インチキ『宗教』が跋扈して人類の未来と文化と生命と財産を荒らしまくるんだがその話はまた別問題……。話もどって。


「あまりにもこの著作が売れすぎたので著作権周りも彼が制定させた」


「偉大すぎる……」

「ガチです。そしてウェブスターさんの業績を調べていくと真っ先に考えたのはあの世界」


 異世界の思想や知識や物品がもたらすものは発展もあるが、多くは混乱だったり退廃だったり。


「本編でもトート先生みたいな異世界人がいますしね」



「だから、一回自分たちのモノにしようと幕末の小野ヤスさんも頑張ったと」

「誰だッ?!」


 そのまま受け入れていると侵略を逆に許してしまうからな。必死だったと思うよ。

 まして、他国ならわかるが異世界だぜ?


「……なろう小説っていい加減っすよね。まぁ私たちが言うことではないですが」


 娯楽が一番。それを忘れているのが普通の小説ともいえるから需要と供給だな。


「ところで話は変わりますが、『文字』の話はやらないのですか? 韓国のハングル文字は偉大な王様が庶民のために作ったっていいますよね。面白いと思いますよ?!」

「中国さんをブチ切れさせてしまって普及せず。その後日本人が広めるという逆転現象が起きた。……その後日本は国土を守るため大韓帝国として独立させたはいいが、利敵行為が目に余るんで併合せざるを得なくなり」

「国語として日本語で統一しようとして今めっちゃ恨まれているっすね」


 他にもアラビア文字を廃止してローマ字にした例とか、色々あるな。



 文字を持たない世界は歌や踊りで古来の技や計算などを伝承していることはよくある。


 日本国内でもアイヌ語は文字がなくて歌と踊りで伝承しているし。週末におばちゃんが習いに行くフラダンスはもともと伝承を伝える『言語』だし。


「韓国の話ですがその後、『日本みたいで嫌だ』と漢字を放棄したのでしたっけ。ややこしいっすよね。併記でいいのに」


 それはよくわからないよ? ちなみに、万歳ばんざいはご維新後に生まれた言葉で、それを基にした言葉が『万世マンセー』だって言うけどこちらもソースが怪しい。発音はさておき万歳自体は中国の皇帝の時代からある言葉だし。



 鴉野は『万歳(BANZAI)』の発音が御維新後生まれた背景を説明するが。


「それ、韓国の人が聞いたらブチ切れっすよ」

「……だから書かねえ。書けねえ」


 興味のある方はご自身で。


「辞書って言ったらクソ重いけど『I SEE ALL』が良いですよね」



 今は自炊できるだろうけど、やっぱ電書版欲しいよね。

 全項目挿絵入り。『猫』の項目が一ページにわたり、英文化圏の文化や時代背景まで網羅している画期的な辞書だ。これは百科事典の一面もあるからな。『はなみずき』が作りたい辞書はこういうものだろう。


「『はなみずき』の辞書って本編に今後出るかもですね」

「実際、国王が出してきた『最初の剣士』の辞書はある。普及していないだけ」


 あの世界、活版印刷もないもん。今後はわからんけど。


「主人公のコピー機は?」

「トナーが切れているんじゃ……」


 あ。でもカーボン紙はあるだろうな。あの店。


「ガリ版印刷くらいならできるかも」

「『夢を追うもの』本編では書写家がまだ活躍しているぞ?」


 書写は独自解釈が入ったり、誤字を直したり、逆に誤字が混じったりするからな。昔の本のオリジナルは可也失われている。


「じゃ、書写のときですら辞書って大事ってことじゃ」



「何冊か辞書を持てというが、結局小ぶりで使いやすいのを使うよな。たぶん『はなみずき』も文庫本サイズと『I SEE ALL』みたいな大百科を二つ編纂するんじゃね?」


 どこかで騒ぎが起こっているようだ。保安官制度は今でも残っている。


「辞書編纂って大事業ですよねえ」

「一〇〇年はかかると思う……」


「こんなに荒れているのに、この国があんなに発展するの?」


 少女が呟く。

 まだまだ地方は奴隷がいるし、一旗あげようとするアジア人もちらほら。


「『戦う』が漢字の文字通りに『武器を持って殺し合う』とは限らないってことじゃないかな」


 選択肢は多く、思想は一貫していたほうが『戦い』やすい。青空のもと、青い本を片手に勉学に励む子供たちを横目に、彼らは町を後にした。


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