【作者解説編。山椒大夫は何故儲かった?】
鴉野は真っ先に頭を下げた。
「すみません。今回は色々書きすぎてテーマが錯綜していました」
彼も答えた。
「正直、今回は世界観説明のほうが重視ですからね。今後に注目してあげましょう」
「実はテキストを五千文字ほど書いたが、ありえないので削る。森鴎外の『山椒大夫』を読んだことあるかい? 意外と最近の人は読まないらしいが」
「読んだことはないですけど残酷な奴隷商が天罰受ける話ですよね」
「ちがう。実は、あの作中では山椒大夫一家は逃げた奴隷に焼印を施すなどの罰を与えはするんだが」
読んでみないとイメージで語っちゃうことはかなりよくあるので注意だ。
というか鴉野も驚いたのだが。
「うん」
「奴隷内の苛めはゆるさないし、怪我や病気、人間関係のケアも一族でしっかり役割分担してやっているんだよ」
「ええっ?!」
「マジです。裏目にでて、姉弟一緒でないと死ぬと言い張る安寿と厨子王に逃げられるが。……それどころじゃないぞ。お上の命令で奴隷解放したあと、没落するかと思いきや逆に儲かっている」
「ええっ?! それじゃ山椒大夫いい人になっちゃうじゃないですかっ?!」
「だいたい、安寿と厨子王は性的な役目で使える年齢じゃないし、元々貴族の子で職能ゼロの本当に使えない子供にすぎず、本編ではあちこちたらいまわしにされる」
「え? ロリっ子は正義じゃないんですか? ショタも」
「死ね変態?! それをわざわざ買い取ったのみならず、仕事を教え、子供でも出来る役割や仕事を考え、与えている」
「イメージ違いすぎ」
「無能には教育が必要だ。
無能のまま教育無しで使いつぶすなら別だが、日本の風土は鞭うってりゃいいほどシンプルな労働をゆるさない」
「無力な子供に過ぎない安寿と厨子王に、自分が役立つ方法を考える能力があったと思うか」
「ないっすね」
「逃げりゃ追っかけ罰を与え、風邪を引けば対策をし、奴隷の人間関係にも心を配る。これは奴隷主の負担になる。これは結構コストがかかる」
彼らは奴隷たちに一方的に負担を押し付けているわけではない。人間一人一人の健康やその他のケアを自分たちで管理しないといけない。複数なら人間関係含めて『全部』だ。山椒大夫一家の結束は血縁であることを差し引いても実際高かった。
「と、なると、自発的に働きたい。元気でありたい。仕事を覚えたいって持って行ったほうが『儲かる』世の中になって行く」
「時々退化しますけどね」
「まぁ時勢には勝てないしな。でも財産じゃなくて人間なら、自己管理してくれるぞ」
「ですね。待遇よければ仕事覚えてバリバリ働こうって気になります」
だから、山椒大夫は儲かった。
面倒な仕事が一挙に解決したのだ。
形のない忠誠心を鞭で無理やり植えつけるより合理的ってわけだ。
「カネなら目に見えますしね」
まぁ福利厚生や保障をよくしすぎて、社会が機能しなくなるようにもなるのだがね。
「今は福利厚生や保障を無くす動きです。派遣にしたり切ったり」
「高級奴隷が要らない社会がやってきているのかもネェ」
百年近く前の森鴎外が描いた奴隷使いや、その舞台となった千年前の経営に負けるようでは困るのだが。
なお。『山椒大夫』は現在Webで無料閲覧できます。
※フェミズムについては『罪と罰』を描いたドストエフスキーが既に『女性にとって生きにくい世界では能力や性質、気力のない男性にすべてのリソースを費やすことで支援する生存戦略を女性が取ることがまかり通るため逆に男性にとっても住みにくい』世界になることを喝破している。
※『山椒大夫』森鴎外 作
こちらは現在『青空文庫』にて無料で読めます。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/689_23257.html