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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第十八章 子供たちを責めないで
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【コラム】子供たちは夢を見るか

「これって夢だと思うの」


 鴉野は少女の台詞に首を傾げた。


「はい?」


 暗闇を提灯が昼間のように怪しく照らし、雪が降りしきる中にお祭り騒ぎは確かに幻想的ではある。


「ここってどこですか」

「高槻天神。ここは二月に縁日を行う」


 テキヤの兄ちゃん姉ちゃんの威勢の良い声に子供たちのはしゃぐ声。喉をうならすラーメンだの筋肉煮だのドナーケパブだのの料理の香り。


 そして。


「なんで真冬にお化け屋敷なのですか」

「名物らしいぜ」


 彼は呆れたが鴉野は平然と返事。


「しかし二月って! ど、通りで寒いわけです」


 まぁ今年(※2013年)は五月になってもコートが必要なんだし耐えられるだろ。その証拠に中東生まれの子供が元気だし。



「で。ナニが夢だって? お前」

「ゆーき! ゆーき!!」


 まぁ珍しいわな。中東だし。

 雪にはしゃぐ子供は彼女だけで、人々ははしゃぎつつも概ね静かに参拝の道を歩む。


「おっと。真ん中は神様の道だから通るな……って今は日本人だって知らないか」


 ボクも知りませんでしたと仮想人格も口にするので本当に今の人は気にしないのだろう。ましてや異国の少女なら。


「天神さんって菅原道真公でしたっけ」

「そそ。受験の追い込みの霊験もあらたか。あとここの社殿は木ではなくて竹で出来ていて見た目も縁起がいいぜ」


 この界隈は屋台のラーメンなんぞ食うよりいい店があるぞと忠告したのにはしゃぎつつ熱い湯気を放つ麺を啜る二人にあきれる。


「まぁ知っているだろうが、天神さんは非業の最期を遂げ、祟りをまき散らしたと当時は信じられた道真を神として鎮めることを目的として建立されたが、今では学問の神様として信仰されている。ちなみになんで天神とされたかというと落雷と結び付けられて……」



 空を眺めながら「復讐の悪霊から天の神様になった人が二ホンにいるの?」と問う少女に。「ああ……って。お前の宗派では不味いのかこういう存在って」と言いかける鴉野。


 というか、子供を爆弾にする連中はどんな宗派でも知らんし理解できようがない。日本人の俺が言うことでもないけどと鴉野。


 空から零れ落ちた白いきらめきが少女の頬にあたり、しずくとなっていく。


「雪。お母さんやお父さんとクリスマスの日に見た」「へ?」「は?!」


 空を眺めながらつぶやく少女に目を剥く二人。


「ひょっとして、日本と違って二人ともわたしの国は暑い国だとか思っているの?」

「うん」「ええ」


 同意する二人に少女は「ぶっぶ~!」と否定する。


「私の国の冬は二ホンより寒いよッ?!」

「マジですか」「ホントかよ?!」


「言葉の上でも雨が冬を意味するのよ」

「へぇ」「知らなかったな。自分の偏見を思い知るわ」



「雨が降っていると『世界が冬だ』って言うの」


「詩人だな」


 鴉野は無駄な感心を示すが。


「雨降ったら、足元が水浸しで、すっごく冷たいのよ」

「……うげ」


 ドン引き。


「雪が降ったら、男の子も女の子も大人も雪をもって投げ合うのッ!

 その時は女の子に雪玉ぶつけても大事にならないの。そうして出会ったのが私の……」


 舞い落ちる雪を眺めていた少女は徐々に首を下げる。声が小さくなり、お囃子の音だけが静かに三人を包む。


「私の……」


 うなだれる少女の肩をたたいて抱き上げる鴉野。

 呑気なお囃子の音に隠れて嗚咽を流す少女を人目から隠す仮想人格の彼。

 ひとしきり涙を流しきった彼女にふと鴉野はぼやいた。

「そーいえば、一回お前に殺されかけたっけ」

「うん」



「じゃ、夢だかどうか調べるために一回ガチで死ぬほど怖い目に遭ってもらおう」


 鴉野はニヤリと笑うと少女を抱えたままお化け屋敷に入っていく。


「ちょ?! ちょっと! カラスノ!? やめてやめて。……かそーじんかくのおにーちゃん! 見ていないで助けてッ!」

「聞こえませんねぇ」


 じたばた暴れる少女と笑いながら進む男たち。


「ええーっと、カラスノの言ってた『子供さんたち』きて~!」


「縁日のお化けは適用外じゃね?」


 少女の悲鳴と絶叫が冬の天神さんにとどろいた。


【後書き】

 2013年5月5日更新。本日は子供の日。健やかに皆様の子供さんが育ちますように。


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