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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第十八章 子供たちを責めないで
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子供たちを責めないで

「わーい。わーい」


 ころころ。ころころ。

 店の奥、居住スペースに入れていたはずのバランスボールに乗って遊ぶ子供。


 がたん。ごとごとっ!!!


 すわ何事。駆け寄ったぼくが見たのは階段からバランスボールごと転がり落ちて遊ぶ幼児たちだった。


 ……ぶっちゃけありえない?!


『ぷりっくま~~!』


 なぜ知っているし?!

 それはさておき慌てて駆け寄り叫ぶ。


「大丈夫かっ?!」


「うん! だいじょぶ!」


 バランスボールがうまくクッション兼盾になったらしい。たんこぶを押さえながらその幼児達二人は元気にそう答えた。

 以前、病に侵された花のバブル騒動でとっ捕まえた三人のガキどもだが、相変わらずのイタズラ小僧っぷりを発揮している。



 なおさっきカマドで作っていたはちみつが全滅したのはこいつらの片割れの小娘の仕業。


 あまりにも仕事を邪魔するので、奈良県で地味に流行っている△や◇の指先サイズのタイル状ブロックを与えると口に入れようとしたので、思わず殴って止めようとしたら手が割れそうなくらい石頭。通りで階段から自ら転がり落ちても痛がらないわけである。



「剣の英雄できた~!」

「お車できた~!」


 ブロック遊びが好きなのは子供らしいといえばらしいが……。


「ジテンシャ~!」

「わーいわーい!」


 商売道具に手を出すのはいただけない。


「……昔のお前らみたいだな」


 すっかり胸だけでかくなってきた娘二人に言うと適当に流された。


「そんなことしてないもん」

「……本当?」



「治った! 治った!」


 なぜ追い出さないのかとか、騎士団に突き出して腕を斬らせないのかについてだが、この三人、幼いのもあるが妙に頑丈、しかも妙に賢く、しかも手先が器用。自転車より早く走るととても多芸なのだ。


 小さな幼児の姿でありながら、自転車の修理を大人顔負けで器用にこなす。その仕事は手早く正確。そして。


「よし。お礼の砂糖菓子オヤツだ」

「わぁいっ!」「伊達ありがとう!」


 伊達ちゃう。……だれやねんそいつ。


 とにもかくにも彼らアルダスをはじめとする『子供たち』は報酬が安くて済むのだ。とてもありがたい話である。



「……アルダスと言えば最後の魔導王の一族を助けたリュウェイン公の親友の名前と同じだな」


 黒髪の幼児の頭を撫でながらご機嫌の『はなみずき』。これでもこの国の皇女である。


「ぼくも」「わたしも」



 列を作って律儀に皇女さまに撫でてもらおうと待つ三人のクソガキ。『はなみずき』が少女の頭を撫でだすと幼女は髪の毛を乱されて目を細めつつ「もっと~」と甘える。


 先ほどまで撫でられていた少年はそのまま列の最後尾についた。まだやるつもりなのか。


「無償の学校、及び孤児育成施設か」


 これまでも善意で孤児を育てるものはいたが、この世界での孤児というものは犯罪者とほぼ同義語である。


 ファンタジーの世界では自分を助けるだけで手いっぱいなのだ。親を失えば罪びとになるか死ぬしかない。稀に幸運か悪運に恵まれ、奴隷同然の待遇で働くこともある。


「ここはいいとこなのの」


 イーグレットと名乗る少女はニコニコ笑いながらぼくに抱き付いた。すりすりと頬を当ててくる。『はなみずき』の表情が笑ったまま固まった。


『ちゅ。ちゅ』


 柔らかい感触がぼくの頬を何度も。

 ……ちょ。ちょ。離れて。



「え~?!」


 こうなると不満げになる幼女と自称大人の皇女さまの相手をせねばならない。


 そしてあっちでは『つきかげ』が仕事をさぼってもう一人の子とブロック遊び。うまく形が作れず『つきかげ』は涙目。子供に教えてもらっている始末。


 一方、『かげゆり』は喧騒から一歩離れてここぞと珈琲を淹れだす。子供に邪魔されたくないらしい。



「この世界って子供はどういう風に働いているんだ?」


 此処はいいところだを連呼する子供たちに不思議な気持ちになったぼくは『はなみずき』に聞く。


 その間にもぼくのほっぺたには柔らかな感触が何度も襲い掛かってくる。


 ちゅ ちゅ 

 いや、マジで『はなみずき』が怖い。


「こら、くっつきすぎ」

「むにゅ~」


 少女はぼくのほっぺたに頬摺りして離さない。



「そうだな。子供相手に嫉妬するほど私は狭量ではないし、質問に答えられる程度には博識だぞ」



 凍った笑みを浮かべながら『はなみずき』が答えてくれた。

 曰く、ぼくが『かげゆり』や『つきかげ』を雇っていた条件は恐ろしいほど待遇がいいらしい。


「知っているか? 二人がわたしに預けている王国金貨の額を」


 こまめに貯金してたな。『皇女様預かって』って。


「もう二人は働かなくてもいいほどの額をためている。女性としては一生の嫁入り資金になるだろうな」


 その額は下級貴族や上級騎士の妻になる持参金を上回るそうだ。


「普通の子供は店主の機嫌が良ければもらえる小遣い銭を除けば無給と言って良い。

 そもそも子供はほとんど働く能力がない。そして技術もな」

「一生単純労働じゃないか。教育を行えば一生単純労働ではなくなる」


 そう指摘すると彼女は首を傾げた。



「当人の努力次第で丁稚から職人などになるのが普通であろう」


 ああ、話が通じない。


「そういえば『つきかげ』も『かげゆり』もこの仕事をよく覚えているし、計算も記憶も修理もそつなくこなすが、子供の時は失敗ばかりだったな」


 懐かしそうに微笑む彼女。気が付いたら修理を覚えていた君は相当すごいと思うが。ぼくは彼女にこそこれらの技術を教えた覚えがない。


「私は天才だ」

「そうですか」


 傲慢な発言に感じないのはもともと自信にあふれた彼女ならではの美得だろう。


「そもそも子供、それも女子に計算や学問を暇があれば教えるお前が珍しいのだぞ。蔵書も膨大だ」


 そういえばこの子も一時期うちの店の本棚に入りびたりだったことがあったな。親父は読書家だったのでこの店や倉庫に書斎を設けていた。


「簡潔に言うと王様の子供は王様になるよな、それが問題だとするのがぼくの世界の考え方で」



「ほかにないだろう? 私だから今の発言は見逃すが」

「坊主の子供は坊主」


「その見解は否定する。基本的に神官は神官だが神の奇跡を行使できて初めて使徒だ」


 例外は正義神殿など使途が世俗の地位に興味がなく、俗物が司祭になる神殿くらいだそうだ。


「農民の子供が農民になるのはどう考えますか」


「自然な成り行きだ」

「犯罪者のガキは犯罪者のままですか」


「そうなるな」

「でも、ソロバンができる犯罪者はどうなりますか」


「王国では表立って雇えないが、商人ならば積極的に雇うであろうな」


 ソロバンの有用性は彼女も認めるところで、一時期『たのしいそろばん しょうがくさんねんせい』片手に額に汗して覚えていた。


「もし、貧困層が皆読み書きソロバンができたらどうなると予測しますか皇女さま」


「税が誤魔化せないな」



 自らの冗談に苦笑いする『はなみずき』。微妙に自嘲も紛れている。


「子供は、子供である間に勉学と遊びをする自由と権利がある。そうでなければ一生貧乏人は貧乏人。すなわち国は永遠に貧困から抜け出せず、戦乱の恐怖に耐えなければならない。そー考えると勉強ってすごくありませんか。女性でも貧しくても勉学をすれば立身出世できる国に、世界になりますよ」


「努力をしないものに無理に勉学を勧めても何の意味もない」


 魔法を使えない皇女として、剣や学問に励んだ努力家の『はなみずき』はそうつっけんどんに言い放った。

 恵まれた環境に生まれた努力家は努力家ゆえに怠惰な貧しさを理解できない。


 もちろん皇女でありながら魔法を一切使えない彼女は相応に差別さえ軽んじれ馬鹿にされ続けたのだろう。それでも彼女は皇女であり王族であり、そして勤勉でその努力を支える環境を持っていたのだ。その理解を得るのは彼女が努力家ゆえに難しい。



 ……あれ? そういえば子供を敵に回すと死ぬって。

 唐突にぼくは『はなみずき』が過去に述べていた台詞を思い出した。



 子供と言えばこの世界の子供。剣を振り回すには明らかに体力不足。 AK47は子供を武器とするがこの世界にはない。

 そもそも戦争をやる前に魔物の脅威に立ち向かわなければならず、青銅の武器や防具はとても重い。


 鉄の武器や防具は青銅の武器や防具に敵う品質を維持していない。炉の温度が低いのだと思われる。


 こんな世界で少年兵の概念などあり得ない。暗殺者として考えるべきである。


 となると彼女たちこの世界の人々が恐れる『子供』とは男娼や娼婦を兼ねた存在だろうか。


 安心しきった表情で眠る五人を眺め、ぼくは苦笑い。

 どこも全く怖くない。

 この世界の子供たちは確かに手癖が悪すぎるが環境を考えたら致し方ないし。


 ゆっくりお休み。よくがんばったね。



「……襲っていい」「おっぱい触っていいよ」


 黒く長い耳をぱたぱたさせたり、サンカクの耳をぷるぷるさせてふわふわしっぽをぶんぶんさせてアピールする娘たち。



 そんな甘ったれどもにぼくは軽く手元の木屑を固めてできたおもちゃをぶつけて告げる

 。

「さっさと寝ろ」


 ぼくはこの世界のまじない歌を歌う。『はなみずき』が教えてくれた。


『ゆっくりお休みいとしい子供たち。

 神の剣を振るう妖精の少年の微笑みを背にして。

 エルフの手に導かれ、神々と精霊の園に旅立て』


 ぼくの世界の銃のように子供でも大人顔負けの戦力にできるものがあれば大人が子供を恐れるのは理解できる。

 この世界で見た目の上で『銃』に似たものは魔法だが、あれは才能と訓練を必要とするため、子供でも戦力化できるという『銃』の本質からは離れている。



 精霊魔法は感性を必要とし、子供でも高位の術を操れるものが多いという。

 神性魔法(奇跡)は神の意志次第で使徒が決まる。風邪のように使徒の知り合いは使徒になりやすいそうだ。


 魔導は才能。もしくは魔力の水晶を額に埋めて立体魔導陣である杖を用いて発動する。



 特に魔導は高度な魔導理論や学習を必要とし、極めるためには人間の寿命はあまりにも短い。



 あとは民間療法などに使われる呪いやおまじないの類で効果があるのかプラシーボ効果だがなものや占いの類だが、呪曲のように実効を持つものもある。

 どちらにせよこの世界の子供が兵士になるには至らない。


 現実世界の少年兵士問題は深刻だ。子供は支配が楽だし洗脳するのも楽。自我が薄い。簡単に情報ソース不明のインターネットの妄言を信じたりする。

 現代ではインターネットが使える国では個人の発信力が大きい。戦争の道具ではなくても特定の妄言や宣伝を自分の意志と思わせて拡散させる手もある。

 情報戦争や他国の教育問題もある種の戦争だ。

 こちらが悪いと敵国の人間が思ってくれればどれほど交渉が楽になるかというわけだ。


 転じて何故この世界の大人が子供に手を出すと死ぬと恐れる理由がまるでわからない。

 ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』や平家物語にて平清盛が使ったとされる少年による密告制度みたいに子供の英雄願望や大人への攻撃性に訴え、あるいは歴史教科書に徹底的に嘘八百捏造を交えてでも自国や他国を貶めて親を告発させているのかしら。

 でもこの世界の子供たちって大人と仲いいしな。



 余談だけどイギリスのサッチャー首相、自虐史観の弊害を取り除くために尽力している。


 大人もテレビや新聞を信じすぎるから似たものだと言いたいが、残念なことに俺たち大人もいい年こいて口汚い言葉を誰が見ているかわからないWebで使っているから子育てはこの世界でもぼくらの世界でも戦争なのかもね。


 閑話休題。


 現代の少年兵士は年端もいかぬ少年に銃を持たせ、後ろから銃で脅して地雷原に突っ込ませる。

 補充が楽だから使い捨てできる。少女は兵士の妻として配給される。モノ扱いだ。

 そして少年兵が人を殺し、新たな少年兵を生む。憎しみと貧困の循環ができる。

 この世界に、そんな要素があるのだろうか。


 まるで理解できない。しかし『はなみずき』は子供を敵に回すなと断言している。


「大丈夫。しんぱいいらないの~」


 はいはい。アルダスの寝言にあきれるぼく。


 彼の腰には小さな葉っぱ型の短剣があった。おもちゃの割にはよくできているな。


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